第27話 皇帝陛下の家庭教師・2
統一歴305年。01月15日。AM06:00。
家庭教師を始めて、はや1年と少し。
俺たちの年齢は、じわじわと進めて、俺は20代に到達した。
水玉は20代のままだが、20代でもやや大人っぽく。
水玉はもうこのままでいいだろう。
これ以上成長しなくても「魔道の技だ」で押し切れるからだ。
俺ももう少し大人びた姿にしたら、止めるつもりだ。
7時半になり、家庭教師に出かける。もういつもの事だ。
この1年、魔法のコントロールと、威力の上昇。範囲の拡大を主にやってきた。
もちろん魔力量もサボらず上げてもらったし、寿命も延ばさせた。
中でも魔力量は、それなりに見られるようになっていた。
ちなみにオズワルドももう16歳。大人びてきている。
今日からは、いよいよ下級魔法を教えていこうと思う。
下級魔法は皆それなりに覚えているようだったが、それなりだ。
ここは、新たに覚える気持ちでやってもらおう―――。
と、いうようなことを教室で言った。
オズワルドはガッツポーズをし、宮廷魔導士は納得した。
どうせ宮廷魔導士も攻撃系の呪文以外は知らないのだ、覚えるものは多い。
まずは座学である。まずは呪文と魔力の練り方を覚えて貰わなければ。
教える呪文は数十種類に及ぶので、大変だ。
覚えはオズワルドが一番早い。若いからな。だが宮廷魔導士も頑張っている。
♦♦♦
統一歴305年。6月20日。AM08:00。
今日は、テストの日だ。
下級呪文を、めでたく全員が全てマスターした。だからテストするのである。
テストは実戦形式でやる。間違いのない方法は取るが。
全員、今日はテストだと承知しているので気合が違うな。
練兵場を人払いして使わせてもらう。
「雷鳴がモンスターを出しますから、下級呪文だけで撃退してくださいね。まずは、使用するのは攻撃呪文のみのテスト。オズワルドから、開始です」
俺は呪文を解き放つ。「最上級:無属性魔法:クリエイトモンスター」だ。
出現したのはゴブリンだ。5体ほど出す。
この魔法は術者が目にした事のないモンスターは出せない。
だから水玉でなく、そういう経験が豊富な俺が行使したのである。
「雷鳴。あの汚いモンスターは、何というモンスターですか?」
「やっぱり知らなかったか。ゴブリンだよ」
「ゴキブリン?気持ち悪い名前ですね」
「違う!ゴ・ブ・リ・ン!」
「ああ!キング・オブ・ザコと評判の!」
「そうだよ………ったく。馬鹿なこと言ってないでテストを監督してくれ」
オズワルドは優秀だった。使うのは新しく覚えた『ファイア・ボルト』
「『下級:火属性魔法:ファイアボルト 範囲×5 威力×10』!!」
飛ばしていったな。さっきの水玉の台詞を聞いてなかったと見える。
ゴブリンは黒焦げだが、オズワルドは肩で息をしてる。
ミリオンは『エアスラッシュ』を使うようだ。賢い。初めから範囲呪文だからだ。
範囲な分、攻撃力は落ちるが―――
「『下級:風属性魔法:エアスラッシュ 威力×5』!」
威力もゴブリンの生命力を読んでいる。満点だろう。
バルケッタは『ストーンブラスト』だ。ダメではないが、同じ地属性のゴブリンには微妙な所だ。ゴブリンが地属性なのを知らないだけかもしれないが。
「『下級:地属性魔法:ストーンブラスト 範囲×5 威力×10』!!」
そして、ゴブリンにはオーバーキルだ。魔力的にも後が続かないぞ?
それぞれに判定を言い渡す。
オズワルドは75点。魔力を無駄にし過ぎなのだ。オーバーキルだったし。
ミリオンは満点。呪文のチョイスから良かったし、ダメージも程よかった。
バルケッタは70点だ。オズワルドと同じ理由だが、加えて呪文選びが悪かった。
続けて、攻撃魔法以外の呪文のテストも始めると言うと、オズワルドとバルケッタは目を剥いて悲鳴を上げた。さっきのでいっぱいいっぱいだったのだろう。
だが水玉は、攻撃魔法のテストだけだなんて言ってないし?
「では、今から出てくるモンスターを、攻撃魔法以外で無力化してくださいね」
俺は「クリエイトモンスター」でコボルドを5体出した。
それを見たオズワルドが呪文を忘れて見入っている。
「かわいい………」
「オズワルド、言いたいことがあるなら後で聞いてやるから、まずはテストな」
「あっ!えーと………」
オズワルドは『下級:無属性魔法:スリープミスト』を放った。
範囲魔法だし、無力化には最適な魔法だ。
だが、術にかからなかったコボルドが2匹、向かってくる。
もう一度スリープミストを放つ魔力がなかったオズワルドは降参した。
ミリオンも『スリープミスト』を放ったが、魔力が残っていたので威力×3だ。
コボルドは全ての個体が眠った。
バルケッタはなんと『チャーム(魅了)』を範囲×5で使った。
奇をてらったのか?テストなのにチャレンジャーな奴だ。
だが、チャーム成功した個体とその他を戦わせることでテストを乗り切った。
バルケッタは実はこの中で一番魔力が多いので取れた戦術だな。
でないとさっきので魔力切れだっただろうから。
それぞれの点数(オズワルド50点、ミリオン100点、バルケッタ80点)を発表した後すぐ、オズワルドはコボルドについて主張し始めた。
「雷鳴、水玉!朕はこの犬のモンスターに興味がある!」
「これはコボルドという種族で、二足歩行をする犬の種族だ。モンスター扱いされているが、知能は意外と高く、人間と交易する部族もある」
「知能が高いのか?なら朕はこの種族を近習にしたい!」
「………私は言うと思いましたよ」
「そうだな………近習にするなら、自分で交渉して、自分で選びなさい!」
「雷鳴!?皇帝を冒険に連れ出すつもりですか!?」
「そういう事。どうする、オズワルド?」
「行く!アースクル(ミリオン)、マーリク(バルケッタ)!セトリーブ(グルン)近衛隊長によろしく言っておいてくれ!」
「本気ですか、陛下?」「ええ!陛下ぁ!?」
オズワルドは問答無用だ。『ドレスチェンジ』で冒険者らしい少年の姿になる。
どうもこういう機会を狙ってたようだな。武器防具も装備済みである。
他の家庭教師から、剣術も学んでいるだろうしな。
仕方ない、すし詰めだが俺たちの馬車で、冒険者ギルドへ行こう。
ピンクが「あっ?えっ?」と挙動不審だったが、全員で口止めしておいた。
ほどなくギルドに到着したがピンクはまだ挙動不審だ、それは常識人として正しいと思う。陛下のお忍びに協力ることになったらなあ。
さて、まずはギルドマスターに相談だな。
♦♦♦
「は?コボルドが欲しい!?」
「………ってオズ………皇帝陛下が言ってるんだ。5匹ほどだそうだ」
「………コボルドの住処なあ。友好的な商人の村なら一つ知ってるが」
「が?」
「最近行商に来ないんで、依頼にしようか迷ってたんだわ」
「丁度いいじゃないですか。指名依頼にして俺たちに下さい」
「皇帝陛下絡みなら仕方ないか………」
ギルドマスターは諦めて、コボルドの村への地図を書いてくれた。
「む?この地図ではお前たち『テレポート』できんのではないのか?」
「だな。冒険者ギルドの依頼はゆっくり馬車か徒歩が基本だ」
「分かった、セトリーブ隊長に念話を―――どのくらいかかるのだ?」
ギルドマスターが少し考えて答える。
「往復8日ですな。現地での時間を考えたら10日ぐらいでしょうよ」
「うーん、それでも行きたいな。よし念話で伝えるだけ伝えよう!」
しばらくしてオズワルドは、いい笑顔で「押し切った!」と言った。
グルン、ご愁傷様である。
「じゃあ、今日は準備だな。オズワルドも来るか?」
「行く!」
俺たちはバザールに繰り出した。
いつものように水玉は食べ物の屋台に寄って行く。俺も止めない。
水玉はオズワルドに屋台の食べ物を買ってやっている。
オズワルドは丸揚げにされたナマズ(小)を気に入ったようだ。
羊肉も進められて食べている。目がキラキラしているな。
どうもオズワルドも「庶民の味」が気に入ったようである。
焼き魚にもかぶりついていた。
最初、水玉はオズワルドと相性が悪そうだった。
が、家庭教師をやるようになってから、その感じがなくなったようだ。
今はまるで姉弟のようである。外見は全然違うけど。
オズワルドは赤茶の髪を長く伸ばし(今はくくっている)、紅い瞳だ。
それを横目に、俺は食材を買って歩く。
取れたての魚、絞めたばっかりの鶏、新鮮な羊肉。野菜、フルーツ。
亜空間収納に入れておけば劣化しないから、適当に、大量に買う。
オズワルドが亜空間収納を教えてくれというので、また授業でなと流す。
そういえば、まだ教えてなかったな。
冒険者の装備が見たいというオズワルドを連れて、冒険者ギルドの2階に行く。
あれは何だこれは何だというのを相手しながら、水玉と、折角だからここで弓を注文しようという話になる。作ってもらうのは普通は引けない強弓だ。
いくらかかってもいいので品質は高く、とお願いしておいた。
矢の方も40本ばかり注文しておく。
オズワルドの武器防具は初めから一級品なので、揃える必要はなさそうだ。
気分という事で、オズワルドの冒険者セットは買いそろえた。
「王宮に持って帰る、と上機嫌だ」
18時。オズワルドの事を考えたらもう食事かな、と思ったら屋台でお腹いっぱいときた。水玉、どれだけ食べさせた!?
仕方ないのでデザートを注文させ、俺たちは食事を注文する。
水玉が特大羊肉ステーキを注文するのをオズワルドは化け物を見る目で見ていた。
ちなみに俺はボリューミーチーズがけささみサラダである。
それ誰だ?とオズワルドについて馴染みの冒険者たちが詮索してきたが、預かって世間を見せてるいいとこの坊ちゃんだと言っておいた。
なお、酔っぱらいは水玉の平手打ち1発で沈黙させた。
「もうお酒が飲める年齢でしたか?飲んでもあんなのになっちゃダメですよ?」
「うむ、絶対にならないと誓おう」
「私たちに誓ったら絶対になってはいけませんよ」
「む?何か特別なのか?」
「ええ、そうです。特別なのですよ」
22時。部屋に帰る。
オズワルドには水玉のベッドで寝て貰う事にする。
ガラスの煉瓦で出来た部屋を、オズワルドは面白そうに見ていた。
「朝とか、目覚めが良さそうだな!」
「夏は最悪ですけどね」
「『クールダウン』があるじゃないか?」
「それでも、暑いのですよ。夜はマシですけどね」
「ふぅーむ、王城に取り入れるのは控えた 方が良さそうだな」
「そうでしょうね、冬は寒いですしね。でも春秋は、程よくぬくたくていいですよ」
「なるほど、なら離れを作らせよう!」
「お前ら………明日は早いから早く寝ろ?」
言って、俺は水玉を待たずに寝た。今日は疲れたのである。
♦♦♦
06月21日。AM06:00。
目が覚めた。2人共まだ寝ているか………よし、起こそう。
その前に、水晶の麦を1粒飲む。う~ん、最高だ。
しばらく余韻に浸ってから、おれは本格的に2人を起こす。
「よし!水玉、オズワルド、起きろ!」
「はいはい………起きましたよ。ああ、着替えないとですね」
水玉は『ドレスチェンジ』をする。
「オズワルド、起きろー!(ゆさゆさ)」
「うー。もう朝なのか?」
「そうだよ、着替えろよ?」
3人揃って『ドレスチェンジ』である。
顔を洗ったら、北門にある、馬車預かり所に行く。
そこでライムグリーンの幌馬車を出し、御者はゴーレムに任せる。
「これが元祖、ライムグリーン連隊の幌馬車か!この国を離れる際には、馬車も含めて、ぜひ譲ってほしいのだが、いいか!?」
「いいよ。買い直せば済む事だし」
「今度の色はビビットピンクですね」
「本気か?」「もちろんですよ」
今回の行き先は、東門から出て、そのまま真っ直ぐ川を渡り、東の森に入ってしばらく行った所だ。ぶっちゃけ人間が住んでいる領域ではない。
しかし、低レベル冒険者でも行ける所とあって、道行きは和やかであった。
砂利道だが―――おかげで揺れるが―――舗装されてるだけでも有難い。
俺たちはその道行きで、自分たちの種族をオズワルドにぶっちゃけるつもりだ。
「オズワルド、いえ、皇帝陛下。あなたなら秘密を守れると見込んで打ち明け話があります。聞いてくれますか?」
「む?朕で良ければ申すがよい。秘密は守るぞ」
「俺たちは人間ではありません。この世界の人間でもありません………」
そこから始まって、俺たちが異界の悪魔であること。
「悪魔だと言うには2人は優しいと思うのだが」
「それは人間社会に溶け込むためですよ。雷鳴はそれだけじゃないようですが」
誤魔化してはいるが、俺はヴァンパイアなこと。
ちなみに、モーグ村で見た、土臭いのと混同しないように。
俺たちのほとんどはは夜の貴公子である。人(ヴァンパイア)にもよるが。
俺は、俺の種族のヴァンパイアの術、『定命回帰』で無理している事。
水玉の体の仕組みの実演―――流体の水晶(?)の半透明な姿も見せる。
パッと今の姿に戻ったりして、オズワルドは驚いていた。
俺は魔術ではない『教え』と呼ばれるものを使う実践をしてみせた。
丸ごと打ち明けた。
ついでに、下手に俺たちに誓いをすると、破ると命を持って行かれることも。
オズワルドは深く考え込み―――「余の秘中の秘としよう。受け入れる」
そう言ってくれた。やっぱりこいつは皇帝の器だ。
「その代わりと言っては何だが、朕の恋の橋渡しをしてくれぬか?」
「恋、ですか?」
「朕は帝国の港町イシュランの領主の娘、アリエッタ16歳を見初めているのだがまだ伝えられておらぬ。思いを綴った手紙を運んで欲しいのだ」
「地図があるなら、たやすいことですね」
「うむ、ある。似顔絵もあるゆえ間違いも起きないであろう」
「はい、引き受けました」
「では余は秘密を守ろう!」
さて、18時もうすぐ夜が夜が来て、野営の準備だ。
水玉とオズワルドには薪集めを頼んだ。
最初の頃は水玉、木を一本引き抜いてきたのである。小一時間説教した。
今日は平和だった。俺は鍋に丸ままの鳥を使った
大変好評だったので、俺は上機嫌になったのだった。
もっと食べたいという水玉のために、果物を取り出す。
それを食べてる間に野菜スープを作った。
具沢山だ。干ししいたけの戻し汁と肉団子、オイスターソース諸々が味つけだ。
お腹いっぱいとなっているオズワルドに、成長したければもっと食べろと促す。思春期だ。運動もしているのだ、太らずに背と筋肉に行くだろう。
オズワルドは「身長………」と言って残らず平らげた。
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