第25話 チョンチョン退治
18時。なんだか疲れた俺たちは宿屋に戻る。
コンコン、とノックがあった。はて?
「どちら様?」
「受付のエリナです。ちょっとお聞きしたいことが」
俺はドアを開けた。
「こんにちは、いきなりすみません」
「良いよ。何かな?」
「雷鳴さんと水玉さんは魔法の武器って持ってます?」
「作ったところだけどね。持ってるよ」
「それなら、もしかしたら明日にでも依頼のお願いがあるかもしれません」
「え。概要だけでも教えてくれない?」
「チョンチョンという怪物をご存じですか?」
「知ってる。あれは魔力持ちでないと姿が見えない上、魔法か魔法の武器で倒さないとダメなんだよな。しかも魔法は効きが悪いから、魔法の武器がベストだ」
「そういうことです。依頼が来るかもしれませんが、よろしくお願いします」
「わかりました」
エリナさんは退出していった。
「ねえ雷鳴。チョンチョンって?」
「頭だけの怪物で、体はなくて顔に直接尻尾が生えてる。凄いデカい耳を羽にして空を飛ぶんだ。「チュエ チュエ」って奇妙な鳴き声をあげて、真夜中に病人や老人のいる民家に入って来る。魔術の素養があれば姿が見えるけど、普通は声が聞こえるだけで、死の前兆として忌み嫌われてる。チョンチョンは血を吸うことで、吸われた人間をチョンチョンにしてしまうとも言われている。それと、こいつを倒すと、近くで首なし死体が発見される事がよくある。つまり昼間は普通の人間のふりをしているかもしれないって事だ。詳細は各地で違うけどな。以上!」
「なるほど、次の依頼はそいつの退治ですか」
「そういう事になりそうだな」
今日は疲れたので1階の酒場で食事を済ませたいが………水玉に聞くと、
「え?絶対弾き語りを断れませんよ?」
と言われた。だよなぁ。バザールに食事しに行くか。
バザールにて。俺たちは新しく出ていた屋台、トッピングが選べる「特大」腸詰めの屋台で食事をしていた。基本のケチャップ、マスタード、チーズ、カレーソース、バター、チリパウダーetc………腸詰めの中身も色々で飽きさせない。
ちなみに俺がカレーソース。水玉がチーズ1本、ケチャップ&マスタード1本だ。
俺は1つで腹いっぱいなのに、水玉は2つ。その上まだ食べるという。
水玉の体の仕組みは知っているが、これはもう本人の趣味も入っているだろう。
21時。特にやる事がないので早めに寝ようか。
水玉を隣に呼んで、並んで眠った。少し幸せの香りがした気がした。
♦♦♦
9月21日AM06:00
ぱちり、と目が開く。腰元の時計を見ればやはり6時である。
たまに寝坊もするのが違うが、ヴァンパイア化している時と同じってのがなあ。
癖になっているんだな。
まあ、今日持って来ると言っていた依頼も今はまだ来ないだろう。
受付は7時からだし。
こういう時の定番、血の麦作りをしているのがいいと思う。
血の臭いで水玉も自動的に起きるしな。
「んあ、雷鳴。血の麦作りですか………」
「うん、生者の体を維持するには毎日1粒いるからな」
「想うんですけど、私の血(?)でそれを作ってもいいのでは?私も役に立てて嬉しいですし、何より粒状でも味は感じるのでしょう?」
「いいのか?確かに味は我慢してた。採血の了承をくれるなら、是非そうしたい。実はな、俺の一族のヴァンパイアにとって一番美味しいのは好きな人の血なんだ」
「な!」
「いいのか?自由に採血しても?」
「あ、う、いい。いいに決まっているでしょう!起きてても寝てても血を採っていいです!許可します!」
これ、水玉に顔色があったら真っ赤かな?想像すると楽しい。
「じゃあ3回分ほど貰おうかな。注射器を刺すぞ」
俺は亜空間収納から、暇なときに作っておいていた女性の腕ぐらいある注射器を取り出す。注射針は痛みを感じない特製のものだ。材料は俺の牙。
「はい!どうぞ!」
水玉は腕を差し出してくる。血管………がないな。
「どこ刺しても同じか?」
「もちろんですよ」
遠慮なくプスリと腕に刺し、採血。やはりというか、透明だ。
目盛りが「3cup」になるまで吸引するが、水玉はまだまだいけるという。
ならばと遠慮なく「10cup」まで採血させてもらった。
「じゃあ今から10粒分作るな」
「わたしはもっと食べるようにします。そうしたらもっと提供できますからね」
「今日からは極上の「食事」がとれるよ」
「いつでも血を採っていいですからね」
「ありがとな」
そう言って俺は「血の麦」ならぬ「水晶の麦」を作り始めるのだった。
ちなみに1cup分はこっそりヴァンパイア状態に戻って飲んだ。
う~ん、至福。やっぱり俺は水玉を好きなんだな。
♦♦♦
9時。コンコンとドアが鳴った。
「どなた?」
「受付のエリナです。ギルドマスターの使いです」
「はいはい。開けます」
「ギルドマスターの部屋はご存じですね?部屋に来て欲しいそうです」
「了解。行きます」
返事を聞くと、エリナさんは「では」とすたすたと歩み去っていった。
相変わらず真面目な娘である。
とりあえず、ギルドマスターの部屋に向かう俺と水玉。
ノックして「入れ」と言われたので入ると、隻眼の、日に焼けてがっしりしたオッサンがいた。会うのは久しぶりだがギルドマスター、ルックリン氏である。
「お久しぶりです。今回はどうしました?」
俺は単刀直入に聞く。オッサン相手に愛想を振りまく趣味はない。
「よーう。弾き語りが人気だって?」
「やるしかなかったんですよ。あれ以降、酒場で食事ができなくて困ってます」
「人気者は辛いねえ。まあいい、今回呼んだのはチョンチョンが出たからだ」
俺は昨日水玉にした説明を繰り返した。
「………これで合ってます?」
「何だ、よく知ってるじゃねえか。そんなら話は早ぇ。実はな、今回は帝国が依頼元なんだ。その村から逃げて来た奴が一文無しでな。村にも連絡はとってはみたが、家財道具ぐらいしか差し出せるもんがないっていうんで、仕方なくな」
「どういう状況なんです?」
「逃げて来た奴曰く夜になると村の上空をチョンチョンが行き交ってるってよ」
「………かなり汚染されてるみたいだな」
「逃げて来た奴は、目の前で病気の母ちゃんがチョンチョンになるのを見たってよ」
「急いで行かないとダメそうですね」
「地図はこれだ」
「………もっと詳細な地図ならテレポートできるんですけど」
「マジか。しかしそこは大河沿いの森の奥地だからなあ。地図はそれが限度だ」
「まあ、メデューサの時もそうでしたもんね。馬車は使えます?」
「さすがにそれぐらいは通じてると聞いてる」
「チョンチョンの事を知ってる人はいます?」
「村長にはこちらから早馬を送って知らせたよ。昔の伝承にあったらしくて怯え切っちまったらしいが、協力的ではあるそうだ」
「ああ………気の毒なパターンですね。村長はチョンチョンじゃないですよね?」
「ごく健康な中年男らしいから大丈夫だろ。ちなみに帝国とギルドから出す依頼内容はチョンチョンの殲滅だからそこんとこよろしくな」
「何とかします。じゃあ、行くぞ水玉」
俺と水玉は退出した。
「ライムグリーン号を王宮から出してきませんと」
「ああ、そうだった(いつの間にそんな名前に)ピンクに塗り直さないのか」
「愛着が湧いてしまいまして」
王宮に認識票を見せて入ると、馬車置き場に置いてある幌馬車を出してもらう。
私物だという事を認識させるのに時間を食ったが、マックスが来てくれて何とかなったのだ。サンキュー、マックス。忙しいらしく話せなかったのが残念だ。
マックスは馬も好きに選んでいいと言ったので、適当に選んでおいた。
王宮の外へ出る。そして南門へ道を真っ直ぐ南下する。
今回の依頼の村が、大河に沿って真っ直ぐ南に3日なためである。
今、御者は精巧に作ったクレイゴーレム(『防水』済み)に任せている。
幌馬車の中でやる事があるからだ。
今回の依頼のチョンチョンは、村の上空を飛び交っているとの事だった。
なので、俺や水玉が強化を入れ、やっと引ける
『クリエイトマテリアル・ラージ』を用いて試行錯誤を繰り返す。
使用に足るものができたのは6回目だった。6は悪魔の数字なので縁起はいいな。
もちろん弓は2つ作った。2人共、弓矢の訓練も受けているので大丈夫だろう。
それの矢と矢筒も作り、矢の方には「魔化」も施した。
矢に魔力がこもっていないと、チョンチョンには意味がないからだ。
ちなみに矢の数は合計66本である。鉄製のごっついやつだ。
俺と水玉で33本ずつにする。
♦♦♦
9月24日AM06:00
今日の昼頃にはミレの村(チョンチョンの出る村)に辿り着く。
片方が川でなければ、昼なお暗い森の中の道行きだったろう。
食事は保存食と『クリエイトフード』で作った食物。
『クリエイトフード』は素材を生み出すだけなので料理が必要なのが難だが、保存食のみだった行軍中よりマシである。
だが今回は料理の時間は諦めて、早くミレの村に行かないとな………
12時。ミレの村に続くと思しき細い道が目の前にある。
何とかこの幌馬車でも大丈夫か?この幌馬車、大型だからな。大丈夫だといいが。
何度かスタックして難儀する羽目になったが、何とか村の入口に辿り着いた。
ミレの村は人口300人ほどの小さな村だ。
幌馬車から下りて、村に入る。その辺で野良仕事している人に村長の家を聞いた。
不愛想だったが答えてくれただけで構わない。
村長の家のドアのノッカーを鳴らす。
「どちら様でしょう」
「冒険者ギルドから来ました。チーム名「スイートハート」です」
「お入りになって」
鍵が開いて中年の婦人が中に招き入れてくれた。
村長さんは居間に座っていた。
「おお、おお。冒険者の方ですか!早く、早く厄災を払ってくだされ!」
「まあ、村長さん落ち着いて。今日の夜、チョンチョンが空を飛ぶ時間に殲滅を決行しますから。狙撃するので今日の夜は皆さん外に出ないように言っていただきたい」
「わかりました。広場に村人を集めて言い聞かせます」
そこで、お菓子代わりのふかした芋と、大きな器にお茶が出てきた。
「ありがとうございます」
食べるのは水玉に任せて、俺は村長さんに紙とペンを差し出す。
「すいませんが、村の見取り図を描いてくれますか。できるだけ詳細に」
「はい、必要なら………」
「必要ですのでお願いします」
その後、村人への告知は村長さんに任せて、俺たちは村長さん宅の空き部屋(客室ではない、空いているだけの部屋。家具はない)を『キュア』し、落ち着いた。
チョンチョンは夜になると首から離れて飛び回るが昼間は見分けがつかない。
魔法を使えば見分けがつくが、一見普通の村人に、いきなりヘッドショットをかます訳にはいかないだろう。村がパニックになる。
よって、昼間は空き部屋でのんびりし、夜半から動くことにした。
22時。俺と水玉が動き始める。
『フライト』で村全体を俯瞰する位置に行き、書いてもらった地図と照合する。
空を飛びつつ魔法をかける。まずは『中級:無属性魔法:望遠視力』だ。
………!見つけた!頭にある大きな耳で飛んでいる。チョンチョンだ。
1匹見つけたら、後は次々見つかった。
俺は『教え:剛力10』を。
水玉は『中級:無属性魔法:フィジカルエンチャント・パワー』を自分にかける。
ここに来るまでに作った強弓の出番だ。矢と一緒に亜空間収納から取り出す。
俺が村の北側。水玉は南側を担当。
2人共、狙いたがわずチョンチョンを打ち抜いた。
チョンチョンたちがこちらに気付く。俺たちは矢を撃ち尽くすまで撃ちまくった。
近づいてきたチョンチョンが魔法攻撃をしてきたので『上級:無属性魔法:魔法個人結界』をかけて、近いのは無視。なおも遠方のチョンチョンを打ち抜いていく。
矢が尽きた。当たらないこともあったし、何発か打ち込まないと死なないチョンチョンもいたため、66匹いたわけではない。30匹ぐらいか。それでも多いな。
近くにいたチョンチョンも、ある程度は矢で狩った。
『魔法個人結界』を貫く魔法攻撃をしてきたチョンチョンもいたため、俺は多少怪我をしている。こいつらを侮っていたようだ。結界を張り直す。
『下級:火属性魔法:ファイアボルト 威力×?』だったため、火傷だ。
俺は人間化していても、火傷は自然治癒しかしないので、結構痛い。
俺たちは結界を纏ったまま、近くを飛ぶチョンチョンを、槍や剣で狩っていく。
次に『センスモンスター(怪物探知) 範囲×10』を手分けして村全体にかける。
隠れた奴のあぶり出しだ。
中には吸血の途中だったチョンチョンや、胴体に戻ろうとしてできないでいるチョンチョンもいたが、容赦なく狩り殺していく。善良なチョンチョンなどいないのだ。
チョンチョンの死体は広場に集めた。なんとその数51。
放っておけば、この村は滅んでいただろう。
『センスモンスター』に反応がなくなった時点で、村長さん宅へ帰還した。
起きて待っていた―――というより寝れないでいた村長さんに首尾を報告する。
明日は首実検してください、と言うと、倒れそうになっていた。
肝っ玉の小さい村長である。
俺たちは、空き部屋で寝袋にくるまって寝た。
正直、幌馬車の方がよほど寝心地がいいが、逃げると思われそうなのでやめた。
9月25日AM06:00
早朝から首実検である。
村人はチョンチョンと化していた首を見つけては色々な反応を示している。
心配していたのだが、死んだチョンチョンは魔力がなくても見えるようだ。
嘘だと喚く村人もいたが、その耳が、尾が、何よりの証拠だ。
それに、各家には首なしの死体もあったのだから。
独り者の家も捜索されて、昼前には葬儀の準備ができていた。
棺桶が足りないとの事で、棺桶なしでの土葬になったようである。
俺たちなら棺桶は作り出せるが、どう思われるか分からないので自粛しておく。
この日は葬儀の準備を手伝って周り、夜は一応不寝番をすることにした。
9月26日AM08:00
俺たちは葬儀の終了までは付き合わずに、帰還の途につくことにした。
数人の村人に見送られて、またスタックしつつ細い道を通って大河沿いに出た。
帰りは、狩りや釣りをして、のんびり帰った。
10月01日AM06:00
そろそろ、秋の気配かな?『クールダウン』がなくても蒸さなくなった。
俺は寝ている水玉から採血して、水晶の麦を作る。
この道行きでだいぶ溜まってきた、そろそろ小瓶がいっぱいになる。
それにしても血の臭いがしないから、これだと水玉が起きないんだよな。
8時。俺はゴーレムを解除して、到着したアフザルの南門から北門へ向かう。
馴染みの預かり所に幌馬車を預け、水玉を起こして冒険者ギルドへ。
直でギルマスの所へ行って、依頼終了と解決の経緯を告げる。
「心配してたんだが、何とかなったか。ああチョンチョンより村の事でな?」
「村人の感情には気を使いましたね」
「俺も、お前らが元凶だとか言われないか心配してた」
「まあそこは常に村長を前に出しましたから」
「懸命だと思うぞ。これは依頼料だ」
改めると金貨100枚だった。まあお上からの仕事だとこんなものだろう。
「終わりですか?終わりなら雷鳴、打ち上げです!」
「こんな時間からか?」
「依頼をこなしてきたのだから、いいじゃありませんか!」
「わかったわかった。酒場に行こうか!」
そして俺は弾き語りをねだられるのであった。
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