第25話 懐かしの冒険者ギルド~帰還

 9月19日。AM06:00

 早朝からガヤガヤと幌馬車の周囲で声がする。

 御者席の方のカーテンを開いてみたら、どうもエザールについたようだ。

 そういえば、陛下から一緒に入城するようにと言われてたな。

「水玉、エザールについたぞ」

「ああ………もうですか」

 俺たちは『ドレスチェンジ』して、小ぎれいな格好になる。

 この服も、アフザルに帰ったらもっといいものに買い替えないといけないな。

 皇帝の家庭教師になるのだ。貴族の恰好をする必要があるだろう。

 幸いマナーは何故か魔界こきょうのものと一緒なので心配はない。

 というか、言語といい、魔法といい、ここまで一緒だとなんか作為を感じる。

 姉ちゃんそだておやが何か関わってないだろうか?


 まあいい、取り合えず入城に立ち会わなくては。

 近衛兵たちが見守る中、無人の城に入城。聖国王の玉座の間に着く。

 陛下は、同行させていた10歳になる弟を玉座につけ、文官の一人に後見に着くように申し付けた。その他の文官はその補佐に当たるようにと申し付ける。

 そして同行させてきた近衛兵を弟に譲った。その数、戦で減って978名。

 文官武官はこういう事になる可能性を言われていたようで、ためらいはなかった。

 まあ、人っ子一人いない無人の首都だとは思っていなかっただろうが。

 まあ、おいおい人は流れ込んで来ることだろう。

 多分、パルケルス帝国で移民を募るだろうし。


 さて、一仕事終えた陛下が爆弾発言をする。

 何故かこの場にはうちの「ライム連隊」が連れて来られていたのだが―――。

「さて、今より「ライム連隊」を朕の近衛騎士とする」

 ………なんて?

「グルン=セトリーブを近衛隊長に。マックス=レドモンドを近衛副隊長にする」

 2人が自分を指さして顔を見合わせているな。

「セトリーブは平民出身のたたき上げゆえ中佐にとどまっていただけで、中将になっておってもおかしくない。レドモンドもグレウグ中将から優秀と聞き及んでおる。決定に異論は唱えさせん。帰ったら作法の訓練は受けてもらうがな」

 陛下はとうとうと述べると、

「各中将にはもう伝達してあるが、朕は新生近衛騎士団と家庭教師2人、宮廷魔導士と共に首都アフザルに帰るぞ!移民を早急に募らねばならんしな!」

 どよめく「ライム連隊」の………いや近衛兵の面々。

 俺たちも驚いているが、陛下が帰ると言い出す事自体は想定内だった。

 それは前近衛騎士団とだと思っていたが、こうなるとは。

 陛下は弟にしばしの別れを告げると、さっさと王座の間から出る。

 慌てて後を追うグルンとマックス。兵たちもそれに続いた。俺たちもついていく。


「王城前の広場を空けよ!」

 陛下が言って「ライム連隊」―――もとい、陛下が「ライム近衛騎士団」にすると言いだしたので「ライム近衛騎士団」―――の面々が場所を空けさせる。

 陛下は将兵たちに「ライム近衛騎士団」の誕生を告げて驚愕させていた。

 しばらくはやっかみも強いだろうが、兵たちは精進するしかないな。


 そして場所が空き、石畳なので若干やりにくくはあるものの、魔法陣を描く。

 目指すは、慣れ親しんだアフザルの北門前。帝都アフザルに入る手前だ。

 ライムグリーンの幌馬車も一緒に『テレポート』する。

 では「「『『テレポート』』!!」」


 北門の外門、陛下が手を空に向けると、グリフォンの紋章が空に浮かぶ。

 グルンが門番の兵士に向かって、

「皇帝陛下のお帰りである!門を開けぃ!」

 と一括した。なんだ、近衛隊長、やっていけそうだな。


 王城に入ると、留守番の文官たちが揃って出迎えてくれた。

 風紀が乱れた様子はなく、王城はしっかり機能しているようだ。

 陛下は腹心の部下として名の知れている人に、近衛兵新設の相談をしている。

 どうやら彼が近衛兵の面倒を見ることになったらしく、グルンとマックスを呼び、兵は待機所に下がらせた。

 陛下は俺たちの事も何か言ったらしく、文官2人がこちらに近付いてくる。


 俺たちは文官2人と10人近い侍女によって、王城の奥へ連れていかれた。

 陛下はまた用がある時は使いを寄越すのだろう。

 俺たちが連れていかれたのは衣装室、とでもいう感じの場所だった。

 文官によると王族が衣装をあつらえるところだそうだ。

 水玉はすごく楽しそうだな。俺は上着を着たままにしといて貰うのに必死だった。

 いかようにも変化させるので外さないで欲しいという事を伝えたのだ。

 

 ちなみに『ドレスチェンジ』は驚かれた。だが、それならいくら持たせて帰しても大丈夫とばかりに、着せ替え人形にされたのは参った。

 水玉は最新流行のメイクとやらもしてもらい、習っているようである。

 俺も、着こなしはきちんとしていたし、ポイントはおさえておいたのだが。


 軽くマナー講習なども試みられたが、俺たちが完璧だったためすぐ解放された。

 なぜ、最近元の世界で流行した作法まで取り入れられているのかは謎だ。

 宮殿に部屋を用意するかどうか聞かれたが、冒険者ギルドに帰る、と辞退する。

 それは想定の範疇内だったらしく、了承され、あとで使者が行くと言われた。

 

 16時。俺たちは懐かしいアフザルの路上に立っていた。

「ねえ雷鳴。久しぶりにバザールのご飯が食べたいです」

「アフザルでは1日中やってるもんな、いいよ。俺も何か食べたいし」

 俺たちは南東地域の、大バザールに向かった。海魚以外は何でも手に入る。

 俺は川魚の串焼き。アフザルの近くには大河が流れているからだ。

 アマゾン川みたいなものだと思ってくれていい。

 移動中に料理して食べるため、ナマズ系だと思われる大きな魚と、串焼きにできる魚、中ぐらいの魚を買っておく。淡水に適応したらしいサメも買ってみた。

 あとは調味料を大量にゲットだ。

 え?水玉?あっちで羊肉の串焼きにかぶりついている。俺も食べようかな。

 その後、俺も食べたが水玉には負ける。

 お好み焼きっぽいものに、カレーっぽいもの、オムそば、小エビの唐揚げetc

 モリモリと平らげて、俺の目当ての買い物は19時までお預けになった。


 何が買いたかったかというと、魔法陣を描いたり、魔道具を作る材料だ。

 今回の遠征では使う必要がなかったが、いつ必要になるか分からない。

 このバザールでは目的物がいくらでも手に入るので助かる。

 例の大陸間魔法陣も、行ったら帰って来れないでは困る可能性があるのだから。


 そのまま、バザールをうろついていると、今回の遠征で痛んだ戦闘用の服の代わりになりそうな服を売っている店を見つけた。入ってみる。

 店主に相談すると、これでもかと服を出してきた。

「水玉………これは任せるわ」

「任されました!」

 こういう時は水玉に任せておくと、間違いがないのでいい。

 いつかのように荷物持ちをやりつつ、冒険者ギルドへ帰る。


 受付のあるロビーで、冒険者たちが俺たちを、正確には認識票を見てざわめく。

 が、疲れていたので無視して宿屋へ。

 2人部屋が取れたので、最大の3カ月契約を交わして金を払う。

 部屋に入ると荷物の片付けという名の『ドレスチェンジ』登録ショーが始まる。

 指定された服を着て登録するだけの簡単なお仕事です。

 馬鹿な事を考えている間に、登録は終わった。


「雷鳴、久しぶりに酒場に食事に行きましょう?」

「うん?まあ、いいけどその前にしとく事がある」

「何ですか?」

「年齢を微妙に、注意しないと分からない程度に上げるんだよ。これをこまめにやっとかないと、いきなり成長することになるだろ?この先は1ヶ月に一度やるぞ。22~23歳になったら一旦止めていいと思うけど」

「了解です。じゃあ鏡を見て………分からない程度にですね?」

「うん。俺も鏡を見るかな。背丈もすこしいじるか」

 そうして外見の微調整をして、冒険者の酒場に向かった。


 10時。俺はまだ屋台料理が胃を圧迫しているので、ツマミとサラダ、酒だけだ。

 水玉は羊肉のシチューと、羊肉のステーキを頼んでいる。

 周囲はチラチラこっちを見てくるが、話しかけられない限り無視だ。

「なあなあS級のライナとスイギョクだよな」

 白い認識票―――Dクラスの少年が声をかけてきた。

「そうだよ。何か用か?」

「徴兵されて、どんな活躍をしてきたんだ?教えてくれよ!」

 目がキラキラしている。ふーむ、下心もないようだしまあいいか。

「なら弾き語りをしてやるよ。竪琴取って来るから待ってな」

「やった!」

 他の連中も皆同じ用事だろうから、聞こえるようにやった方がいいと判断した。


 部屋に帰って『クリエイトマテリアル・ラージ』で竪琴を作る。

 弦を調節してっと。できた。

 酒場に戻り、中央の吟遊詩人が腰かけるスペースに座る。

 さっきの少年と、なぜか水玉が正面に。

 他の所にいた連中も、さっきのやり取りを聞いていたのだろう。集まって来る。


 ロォン………

「これから弾き語りますは、悲劇の物語。不死者に変えられた国民と、異形と化しても死ねなかった者たちの物語でございます………まずは妖狐のサメール編」


 一章終わるたびに、盛大な拍手が起こり、次を促される。

 これをいい肴にして酒を飲む連中もいて、弾き語りは夜中の2時まで続いた。

 ちなみにゾンビの表現はかなりぼかした。場所が酒場だからな。

 ゾンビ達は表現としては、哀れな臣民として描いておいた。

 あとは、目立たないがいい働きをした兵士たちについても語る。

 仕上がりは、英雄譚+@みたいになっただろうと思う


 解放してもらって(また聞かせろと言われたが)宿屋に上がる。

 俺と水玉は、久しぶりのベッドに倒れ込んだ。


 9月20日。AM08:00。

 ノックの音で目が覚めた。8時か。昨日遅かったから、俺的には寝坊である。

「はーい、どちら様?」

「オズワルド陛下から、伝令です!」

「今開けます。水玉、起きろ。伝令だ」

 水玉が『ドレスチェンジ』したのを見届けてドアを開ける。

「オズワルド陛下から伝令です!政務が大変忙しいため、お二人に仕官してもらうのは来年1月1日から!それまでは羽を伸ばすように!なお、宿を変える場合は王宮まで連絡を!詳細は年末に使いを送る!以上です!」

「ご苦労さん」

「いえ、それでは!」

 まだ年若い伝令兵は、敬礼をして去っていった。


「暇になったな、水玉」

「また図書館通いですか?」

「練兵場にも行こう」

「ギルドの依頼は受けませんか?」

「俺たちじゃないとっていうの以外は食指が動かないな。懐もあったかいし」

 そう、実は俺たちには給料が出ていた。合計で金貨2000枚はある。

「そうですか………そうですね」

「この時間なら酒場が開いてるな。食事に行こうか」

「そうですね!」


 この町の名物といえば川魚と羊だ。他にも鶏も多く飼育されている。

 水玉は朝だというのに鶏の丸揚げをペロッと平らげた。

 俺は羊肉のサンドイッチで済ます。


 その後はバザールに、特別な買い物をしに行く事にした。

 もしかしたら必要になるかもしれないので、持っている武器を魔剣や魔槍にしたいと思ったのだ。これを魔化という。魔化した武器は普通に使っても威力が上がる。

 出来れば盾と鎧も魔化したい。防御力が上がるから。

 方法は、魔法陣の中に入れて儀式をするだけだが、媒介に色んな材料が要る。

 そこでバザールの出番だ。


 あちこちの店を巡って、必要なものを揃えていく。

 今後機会があるか分からないので、見つかった物は多めに―――根こそぎ―――買い込んでいく。材料にないものはなかった。凄い事だ。

 ちなみに水玉は買い食いしながらついて来ていた。


 12時。部屋に帰ってきた。早速始めよう………とと、その前に青龍刀に水玉の体を「浸透」させてもらってからだな。これだけ、忘れていたのである。

 水玉は快く引き受けてくれた。


 さて、まず小さな、ペンぐらいの魔法の杖をつくる。

 込める魔力もそこまで多くない。

 そして大きな羊皮紙に、武具強化の魔法陣を描く。

 そこにまず青龍刀を置き「レロムの水薬(魔力を浸透させる)」に浸した「ランゼルの布(魔力を封じ込める)」でくるむ。

 あとは、魔法陣の各所に色々必要なものを置いていく。

 ほとんどが今日買ったもので、全てに魔力があるのが共通点といえば共通点か。

 最後に呪文を唱えて―――ランゼルの布が光ったら成功だ。

 ―――よし、光った。


 その調子で、全ての装備に儀式を終え、完成させた。

「武器と防具の慣らしを兼ねて、冒険者ギルドの修練所に行こうか」

「いいですね。軽くでいいので手合わせしましょう」

 

 16時。冒険者ギルド修練所に着いた。ベテランが新米を訓練している。

 微笑ましい光景である。それを壊さないように大人しくやらなくては。

 俺たちは全く本気ではないので、じゃれ合いのようなものだが、それでもギャラリーはついた。本気でやれと野次られる。うるさいな、もう。

 だが、ベテランと新米も訓練を中断してこっちを見ている。

 仕方ない、もう少しだけ本気で行こうか。


 パチパチパチ………ほとんど演武のようになった俺たちの訓練への拍手だ。

 本気になって暴れるのではなく、本気の演武を見せたわけである。

 さぞ見ごたえがあっただろうが、俺たちはこの後武器防具の慣らしを再開した。

 演武では、武器防具の性能確認にはならないからだ。

「兄ちゃんたち、あんな凄いのができるのに、何でそんなダサいことしてるの?」

「これは武器防具の性能確認!訓練じゃないんだよ」

 代表して問いかけてきた少年にそう答える。

 だから解散するか自分の訓練に戻ってくれ、と言いたい。

 訓練する時にはやっぱり、王城の練兵場を使った方がいいのかもしれない。

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