第20話 戦争~ゾンビは嫌だよ・1

 8月20日。AM9:00。

 マックスはこちらの移動手段について聞いてきた。

「ところでこっちは荷車にすし詰めだけど、2人は?」

「自前の幌馬車があるよ。速度は荷車に合わせる」

「『クールダウン』もかけるので快適ですよ」

「いいなあ、お邪魔させてもらうよ」

「なあなあマックス。聞きたいんだけど」

「んー?」

「幌馬車はピンク色なんだけどまずいか?」

「ブフォッ!?」

「あーやっぱり。水玉、他の色に塗り直すぞ」

「えー。ピンクが可愛いですよ?」

「また戦争が終わったら塗り直せばいいだろ。ダメ!」

「そ、そうだね。うちの連中ならともかく、他の隊から舐められるよ」

「そうですか………?それなら仕方ありませんね」


「ところでマックス、今度の総指揮官って?」

「大将は当然、我らが皇帝オズワルド=ルイス=パルケルス様だよ。ちなみに君らには大佐級の身分が与えられているからね。部下は僕とグルン殿さ。ああ、そうだ直属の上司はエラストス=ミニッツ少将。覚えておくといいよ。ちなみにその上はバウンディオン=グレウグ中将ね。まあ君らはあまり縛られない立場だけど………」

「あーうん、覚えることは覚えた。生かせる機会があるかはともかく」


「ところで、徹底抗戦してるっていうキンナルの町とメラスの町には援軍を送らなくて大丈夫なのか?ザニスでの攻防戦の間に潰れないか?」

「うーん、そこはお上の決定なんだけど。多分兵力がザニスでいっぱいいっぱいなんだと思う。もしかしたら僕たちが派遣されるかもしれないって言われたけど、距離的に無理があるよねえ?」

「………いや。お上がどこまでお見通しなのか分からないけど、少数精鋭でいいなら「テレポート」できるぞ。この大陸内なら詳細な地図があれば可能だ」

「………え、マジ?」

「マジ。20人が限度だけど」

「僕、なぜかえらく詳細な地図を預かってるんだけど?」

「そういうことだな」「そういうことですね」

「オズワルド陛下ぁ~」

「ところでテレポートに備えられるって事は、皇帝って魔力持ちなのか?それか側近に魔力持ちがいるとか?」

「両方だよ………グレウグ中将は魔力持ちだ」


 さて、使い倒す気満々のお上の意向が分かったところで。

「マックス、ザニスまではどのぐらいかかる?」

「荷車だから………最大限に急いで12日ぐらいかな。向こうは足が遅いからこっちの方が早いだろうね。ゾンビが不眠不休でも指揮官はそうじゃないから」

「なら、近隣の村で目撃された側近とやらを探す時間はあるな」


「マックス、集合はいつですか?」

「12時に東門だね。ちなみに今9時だけど」

「幌馬車の色以外の用意はできてる。東門までは2時間かな?10時にギルドを出ればいいよ。ギルドの酒場で食事していこう。おごるよ?」

「おっと、おごりなら断る理由はないね」


 マックスと食事して別れ、幌馬車を預かり所から出しに行く。

「ピンクはダメだとして、何色に染める?」

「じゃあライムグリーンにしましょう。強くて早そうです!」

「またぶっ飛んだ………まあ、馬鹿にされる事はないだろうから、いいか」

 東門を目指して進んでいくライムグリーンの幌馬車は、注目の的だった。


 到着するとすぐマックスが出迎えてくれた。

「またすごい色だね。あんまり見かけない色だ。今の所ウケは結構いいけど」

「ライムグリーンという色ですよ」

「ははは、じゃあこの2個大隊はライム連隊だ」

 この名称はなんと行軍中に、兵士みんなに受け入れられることになる。

「はい、じゃあ先頭を進んで。御者は兵士に代わらせるから」

 そう言われて俺は馬車の中に戻った。太陽にうんざりしていたのでありがたい。

 そして、行軍が始まった。

 

 幌馬車の後ろには、日よけを張ってあるのはマシな方、の荷車がずらりと続く。

 まあ1000名分だとこうなるのだろう。どの荷車も兵士で一杯だった。

 そしてマックスとグルンは、涼しい幌馬車にかわるがわる遊びに来た。

「ああ~。太陽にやられた頭が癒えていくゾナ」

 とはグルンの言だ。いいのか?それで。


 9月02日。PM12:00。

 さて皆さん、残暑厳しい今日この頃に、ゾンビの臭いはキツイと思います。

 ザニスに到着した俺たちだが、敵はまだ多くは集まってはいなかった。

 ただ町を正面に見据えられる場所に、ゾンビ達が陣取り始めていたのだ。

 場所はザニスの東に広がる広大な森の中である。

 平時ではウルリカ聖王国との貿易に使われる道が通っている森だ。


「臭い………汚い………だからゾンビは嫌いなのですよ」

「故郷(魔界)でゾンビに遭遇した時も、簡単に倒せるのに逃げた覚えがあるな」

「今回も手は触れずに倒しますよ!絶対触りたくありません!」

「まあまあ、とりあえずマックス。側近らしき者を見かけた村人ってどこの村人?」

「あー、と。ここはグルンに指揮を任せて、隊員を10人連れて行く。案内するよ」


 そこはごく普通の村だった。戦争前なので防柵などは対策されているようだが。

 兵士たちが聞き込みに行って、若い男性を連れて戻ってきた。

 若い男性曰く。

 自分は狩人だ。森の中で獲物を狙うために身を伏せて隠れていた。

 そうしたら4mはある巨大な蛙が跳ねてきた。

 その上には蛙のような顔をした太った男が座っていたのだという。

 巨大な蛙の周囲は、20体近いゾンビに囲まれていた。

 その事から、伝え聞くウルリカ聖王国の勢力ではないかと思ったらしい。

 見かけたのは16日以上前の話であり、もう森にいないかもしれない。


「そうですねぇ、雷鳴、どう思います?」

「まだ、森にいるような気がするな。兄ちゃん、その森、遺跡とかなかったか?」

「大きな古代の墓があります。気味が悪いので誰も近寄りませんけど………」

「そこの死体をゾンビ………は無理があるからスケルトンにして。別動隊として準備してるとしたら脅威になるかな?」

「多少はなるだろうけど。その程度って感じもするね」

「まあ、ダメもとで(本当は『勘』が働いている)いちどその古代の墓とやらに行ってみよう。でないと少なくとも村に脅威になるかもしれない」

「確かにそうだね。それに指揮官は君たちだからね、従うよ」


 そして昼なお暗い森の奥。

 そこには俺が言っていたのとほぼ同じ光景が広がっていた。

 違うのは墓から蘇ったスケルトンがただのスケルトンではない事だ。

 ブラックスケルトンとでも言えばいいか?白い骨ではなく黒い骨で、骨の隙間が見えなくなるほど骨太で、手には骨で出来ているのだろう、棍棒を装備している。

 多分、ただの兵士と比べるとこいつらの方が強い。それが20体。

 普通のゾンビは10体ほどだが、存在感としては薄い。

 そして、こんもりと山になったような墓の頂点には、巨大蛙に乗った蛙男がいる。


(マックス、兵士たちには黒いスケルトンと接敵したら、2人1組であたらせてくれ。出来たら得物は鈍器がいい―――相手の得物を奪い取れ。もしくは剣の柄を使え。お前なら1体1でスケルトンでも大丈夫だろうけど無理するなよ。)

(わかった)

(雷鳴。先制の一撃行きますよ。ロックブラストの広範囲化で揃えましょう)

(わかった、いくぞ!)

「「『中級:地属性:ロックブラスト 範囲×5』!」」


 ゾンビはこれで壊滅させることができた、これは特製ではなかったらしい。

 兵士達の相手は自動的に、倍の数のブラックスケルトンになるな。

 だが、皆なにがしかの損傷を負っているので弱体化しているから、大丈夫だろう。

 俺と水玉は親玉の所に真っ直ぐに進んだ。


「ビヨ~ン!俺様の、折角作り上げた別動隊がぁ!許さんぞ貴様らビヨ~ン!」

 き、気が抜ける。その喋り方はどうにかならないのか!?

「あなたたちの相手は私たちです!ゾンビを使うヨゴレ!さっさと死になさい!」

 水玉は動じない。不愉快そうな表情で挑発をするだけだ。

「「ビヨ~ン!」」

 蛙男と巨大蛙は同時に舌を俺たちに向かって伸ばしてきた。避ける。

 俺はダッシュをかけると、ダブル蛙に肉薄する。

「『中級:無属性魔法:ウィークポイント』!乗騎の蛙の弱点は口の中か」

 口の奥に槍を突き込むのは何だか嫌な『予感』がするので『アイアンスピア!』

「ゲロォ!ゲロゲロォ!ゲロッパ!」

 効いてはいるようだが、また舌を伸ばしてきた。足りないか。

 舌が伸びて来て俺に巻き付こうとする。

 そんなもの、青龍刀ですっぱり切り落として………ってぬめって切れないな。

「『教え:瞬足10』出し惜しみなし!これでどうだ!」

 超高速の切りつけに粘液が負けて、乗騎の蛙の舌は半ばで断ち切られた。


「ゲロゲロォ!!」

「ゆっ、許さんビヨ~ン!!」

「あなたの相手は私です!」

 『フライト』で宙を舞い、側近?に肉薄する水玉。

「このトードマスターのオロンに勝てるとでも思ってビヨ~ン!!」

「………あのね、あなた軍の中でも馬鹿にされてるでしょう?」

「なっ!なんだとぅ!」

 ムキになるのが真実を浮き彫りにしているな。

「だからこんなつまらない任務任されるんですよ」

「やかましいビヨ~ン!呑み込んでやるぅ!」

 水玉に舌を巻きつけるオロン。でもそれは舌が伸び切るという事で………

 あっさり舌を切断されるオロン。

 体に巻き付き残った舌を、水玉はゴミのように払った。

 いや、ま、確かにそれはゴミだけどな!

「気持ち悪い!唾液が汚い!『キュア』」というのが水玉の反応だ。


 俺は乗騎の蛙にケリをつけることにした。

「『アイアンスピア 威力×10』口の中へ!」

「ゲ………ロ………」

 巨大な槍に刺し貫かれて、ぐったりと崩れ落ちる大蛙。

 オロンは焦ったのだろう、水玉から逃げようとする。

 だがそれは無駄だ。

「『ルーンロープ 威力×10』!」

 ぐるぐる巻きになるオロン。死ねとか言っていた割に冷静な対応だな、水玉。

 ま、呪文が使えるわけでもなさそうなので、これでおしまいだろう。

 

 え、呪文が使えないのに何でスケルトンを作れたのか?

 それは恐らく身体検査したら出てくると思うが、呪符が理由だろう。

 なぜならスケルトンが出たとおぼしき墓にはみな同じ呪符が貼ってあるからだ。

 反魂の呪符だ。ただし邪悪な。俺や水玉には馴染みのある物である。

 おそらく親玉が作ったものとみて間違いないだろう。


 俺たちはスケルトン掃討を手伝う事にした。

 まだ10体以上残っているが元は20体いたのだ、兵士たちも頑張っている。

 参戦したらカタはすぐついた、とだけ言っておこう。


 掃討を終えたらマックスに呪符の説明をし、オロンを引き渡す。

「舌を切ったので尋問しにくいかと思いますが、よろしく。あとこの光の縄は12時間立つと消えてしまいますのでそれまでに改めて捕縛してくださいね」

「生け捕りありがとう。本当に側近なのか怪しいけど、尋問はしてみるね」


 その後、近くの村に大事なかったと一報を入れ、ザニスの町まで帰った。

 オロンは地下牢に入れ、いったん『ルーンロープ』を消したうえで捕縛し直した。

 舌の再生はもう始まっているようなので、十分注意するように言っておく。

 引き出せる情報があれば明日あたりに上がって来るだろう

 ちなみに地下牢は、拠点として一時的に借り受けている領主の館のものだ。

 後続の軍勢は入りきらないだろう。だから、俺たちは最終的には町の前の平野に展開する事になるのだろうが、それまでは自由に使っていいと言われている。


 9月04日 AM6:00

 昨日は特筆する事が何もない1日だった。

 だが今日は朝早くから起こされた。

 オロンから取れるだけの情報を搾り取ったというのだ。

 あの蛙男は本当に末端とはいえ幹部だったらしい


 オロンによると、新国王の正体は先代の国王の弟、フランキーだという。

 フランキーは穏やかな国であるウルリカ聖王国の中では異端分子だった。

 他国への進攻を唱えて、一度など謀反しようとしたのである。

 持て余した家族は、フランキーを修道院送りにしてしまう。

 だがフランキーは修道院で殺人を犯した挙句逃げのびた。

 金はない、野山で生きるノウハウもないフランキー。

 そのまま野垂れ死に、というところに助けの手が差し伸べられた。

 それが全ての元凶である死霊術師ネクロマンサーだった。


 死霊術師はひねくれているものを好み、フランキーのことも気に入った。

 弟子にとり、死霊術を叩き込んだのである。

 そして、祖国に復讐したい、というフランキーに応えて、死ぬ前に2つのものを授けたという。


 1つは「暴威の闇宝珠グランド・ダークマター」詳しくは知らないが死霊術の至宝らしい。

 オロン曰く、王都全域の生者を生ける死者に変えたのは、恐らくこれの効果だろうということだ。なんつう強力な効果のアーティファクトだよ。

 ただ使うには半年近い充電期間が必要だ、とフランキーが漏らしていたらしい。

 2つ目はオロン達幹部5人だ。

 死霊術師の実験体がフランキーに授けられの5将になった瞬間だった。

 死霊術師は気に入った人間をキメラにするのが趣味だったという。

 実験道具から救い出された自分たちは、みなフランキーに従っているとのこと。

 というか裏切るとコマンドワード1つで殺されるので従わざるをえないらしい。


 あと引き出せた情報は、ウルリカ聖王国崩壊の日のこと。

 フランキーは、御用商人の部下になりすまし、王城を訪れた。

 そして国王の部屋までに、立ち塞がる者を皆ゾンビにしながら進み、王を殺した。

 その後は、周囲を脅しながら各国に王の交代を伝える使者を出した。その後。

 ―――首都エザールを地獄に変えたのである。

 ゾンビ化は兵士、騎士、平民問わず、成功7割、死者2割、生き残り1割だったという。生き残りはさらに数を減らしながらも王都から逃げ出したという。

 おそらく、キンナルの町かメラスの町に避難したのだろう。


 幹部の情報だが、仲間意識が強いらしく(フランキーには恐怖で従っているだけだという)大した情報が得られなかった。

 が、二つ名と、向かった地域はがわかった。

 妖狐のサメール。ザニス侵攻へ。

 ゴリラ背負いのグンゼ。キンナル侵攻へ。

 蝙蝠のランザーネ。ザニス侵攻へ。

 イッペラポスランサーのイムニス。メラス侵攻へ。

 つまり、当面当たるのは「妖狐のサメール」と「蝙蝠のランザーネ」なわけだ。


 オロンから得られた情報はそれだけだったが、フランキーに心から従ってないせいかフランキーのことはべらべら喋ってくれたな。

 マックスは、そろそろ到着するだろう上司にこの情報を話しに行くので、俺たちもついてくるように言う。確かに俺たちの方が畳間に当たるので当然であろう。


 本隊の到着が近いので俺たちは領主の館から出て、街の外に天幕を張る。

 俺たちは馬を外した幌馬車で、部隊の位置をアピールすることにした。

 ライム連隊(自称)である。

 北門近くの城壁沿いが、俺たちの野営地だ。

 ここはゾンビの臭いも多少マシとはいえ、向こうも増えてきている。

 しばらく水玉はしかめ面だろうな。


 本隊が到着し始めた。4個軍団、約20000人の軍勢だ。

 俺たちにポンと1000人も任せるわけである。

 途中で合流した各領主軍も1個軍団。5000人には上るだろう。

 シェール王国に行っている分、減っているようには見えない。

 俺たちの故郷は少数精鋭が基本だった。こんな大規模な行軍は見た事ないのだ。

「なかなか、壮観な眺めです。ゾンビをさっさと追い払って欲しいですね」

「マックス、ゾンビにやられて死んだら、ゾンビになるっていうのは常識?」

「安心してくれ、常識だよ」

「頭を砕くと死ぬっていうのは?」

 ちなみに『教え:観測:説明書』で確認済みである。距離があっても使えるのだ。

「それは初耳だね。徹底させよう。それも上申するかな」

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