第17話 パルケルス帝国への道行き・4

4月30日。AM06:00時。

 出発の日になった。

 俺と水玉は朝早くから行動していた。

 宿の従業員から、ヴルミにも小規模ながら朝市が立つという情報が貰えたので来てみたのだ。定番の焼き芋に、チキンナゲット、とれたて卵のサンドなどがあった。

 紙袋いっぱいの焼き芋に水玉はご満悦である。俺も2つ貰った。

 近くの公園で雑談しながら、主に水玉が朝食をたいらげる。


 8時になったので、早めに領主館の裏手の馬車置き場に行く事にした。

 幌馬車の点検をして、出て行く馬車を順番に並べる。

 俺たちの幌馬車が先頭、次に姫様の馬車、財宝の荷車、野営道具とジャベリンの荷車、食料品の荷車だ。出やすいように隊列を整えておいた。

 後からやってきた騎士たちが恐縮していたが、俺たちが暇だっただけなのでかしこまらないで欲しい。気にしてくれるなと言っておいた。

 それよりいつでもジャベリンを出せるようにしておいてくれと言っておく。


 そろそろ出発だ。姫様たちが馬車に乗り込んだ。乗り心地は満足なようだ。

 サラが馬を俺に並べる。もちろんゴーレム馬だが、動作を覚え込ませたらしく、普通の馬のように乗りこなしている。練習の成果だろう。

 大門が開けられ、黒龍山脈へ続く道が間近に開けた。


 俺はサラにエアロドラゴンの話をしておく。

 風のブレスが飛んでくるかもしれないが、それは俺と水玉で対処するので慌てないで欲しいと言っておく。結界を張るから、と。

 騎士はとにかくワイバーンを落として、それを相手にして欲しいとも言っておく。

「エアロドラゴンは俺たちで相手するから、サラは騎士を指揮して欲しい」

「うむ、わかった」


 サラは姫様たちの馬車の側に戻っていった。

 そろそろ黒龍山脈に入る。

 しばらくは何事も無かったが、急に道幅が狭まる。道の両端は谷だ。

 そしてその谷を取り囲むように崖が広がる。

 岩棚にはワイバーンが巣を作っていた。

 飛んでいる個体もいるが今の所襲ってくる様子はない。

 というか危なかった。馬をゴーレム馬にしておいて良かった。

 さすがにこの数のワイバーンを相手にして無傷で済むとは思えない。


 警戒しながらも奇景を観察しつつ(特に水玉)街道を進む事しばし。

 谷を通り抜け夕方になったので、ちょっと開けた場所で野営だ。

 もちろん警戒は怠っていない。

 煮炊きするのはワイバーンを刺激しかねないので、今日は保存食である。

 堅パンと、干し肉、葡萄酒を薄めた水だ。

 姫様たちは他にも何かあるだろうが、俺たちは騎士と従僕たちと一緒に保存食だ。

 

 5月1日。AM06:00。

 癖だろう、やはりこの時間に目が覚める。

 水玉が寝ているので幌馬車から出て体操を始めると、騎士たちが起きてきた。

「おはよう雷鳴、早いな」

「サラも早いな。俺はこの時間に起きるように体内時計ができてるんだ」

「ああ、それはいい事だな。どうだ、一緒に模擬戦でもやってみるか」

「別に構わないよ」


 そこで、急遽俺とサラの模擬戦が始まった。

 模擬戦なので術の類は使わず、青龍刀で真っ直ぐに切り込む。

 サラは剣でおれの青龍刀を受けたが、それは悪手だ。

 サラでは俺の力は支えきれない。もしくは剣が折れるだろう。

 疑似的に生身になっているとはいえ、俺の筋力は死者のそれなのである。

 模擬戦なので剣が折れるのはまずいだろう、一旦引いてやりもう一度切りつける。

 今度はサラは青龍刀を受け流した。普通は筋力に勝る相手にはそれでいい。

 だが俺は、受け流されて耐性が崩れるのを逆に利用し、死角からサラの胴体を峰打ちした。思わず追撃の手を緩めるサラ、ここからが本番だ。

 俺は一歩引いてよろめき、誘いの隙を作る。サラははまった。

 切りかかって来るのを水玉特製バックラーで受け弾き素早く相手の懐に飛び込む。

 剣を首にぴたりと当ててチェックメイトだ。

 歓声が上がる。


「いやあ、雷鳴殿は本当に強いですなあ」

「さよう、サラ様がまるで相手にならないとは」

「うるさいぞ、お前たち。お前たちではもっと相手になるまいが」

「ははは、耳が痛いですな」

「模擬戦ならいくらでも相手になるよ?」

「おお、それなら胸をお貸しください」


 と、そんな感じで朝の時間は過ぎていった。


 8時ごろ、水玉が起きてきた。

 俺は一通りの騎士と対戦したので、訓練を見てサラと一緒に監督している。

「雷鳴、何時から起きているんです?」

「6時だよ。模擬戦をしてたんだ。起こした方が良かったか?」

「面白そうじゃないですか。今度は起こしてください」

「ん、分かった」


 最後に姫様たちが起きてきたようだ。そこで全員朝食をとなった。

 従僕たちは忙しそうだが、交代で食事はとるのだろう。

 メニューは昨日の夕食と変わらない。


 10時ごろ、出発。

 岩壁に囲まれた、両側が谷の古い街道をがらごろがらごろと進む。

 さすがにワイバーンがウロウロしていては危ない。

 なので、姫様たちは幌馬車に遊びには来ていない。

 代わりに水玉が護衛の意味を兼ねて遊びに行っていた。


 12時頃。

 谷が終わりを告げ、道幅は広いがやはり両側は岩山のやたら蛇行する道を進む。

 多分切り開けるところを模索した結果なのであろう。

 そのうち、広場と言える場所に辿り着いた。だが―――


 先の道をふさぐ形で、竜としては比較的シャープな青い竜が立ちふさがっていた。

 おそらくこいつがエアロドラゴンなのだろう。

 周囲をワイバーンが3頭飛んでいる。

「HYUGOOOOOO!!」

 いきなりブレスかよ!直線のブレス。騎士が危ない!

「『上級:無属性魔法:魔法個人結界 範囲拡大×10』!騎士、サラ、従僕に!」

「同じく『魔法個人結界 範囲拡大×4』姫、ミーナ、雷鳴と私に!」

 魔法個人結界はしばらくの間、魔法を全て阻む結界だ。

 物理には無効なので気をつけないといけない。

 サラが騎士と俺たちに向かって叫ぶ。

「騎士はジャベリンを持って前線に!雷鳴、水玉!大きいのは任せたぞ!」

「「了解!」」


「『ウィークポイント』………雷鳴、弱点は心臓と頭です!」

「分かった。なるほど、亜竜だから逆鱗はないんだな。じゃあまずは翼をやるぞ!「『中級:地属性魔法:アイアンスピア 威力×10』!」

「同じく『アイアンスピア 威力×10』!」

 飛び立とうとしていたエアロドラゴンは、両翼への大ダメージにずずんと落ちた。

 翼の大穴を確認し、水玉は『フライト』で飛び上がる。頭を相手する気のようだ。

 なら俺は四肢をさばきながら、心臓を狙うとするか。


 横目でワイバーンを狩る騎士たちを見ると、ジャベリンの命中率が悪い。

 落ちたのは1頭だけだ。あと2匹。

 一人がワイバーンに捕まりそうになっているのが横目で見えた。おいおい。

 援護で『アイアンスピア 威力×5』を飛ばす。そのワイバーンは落ちた。

「おおい、がんばれよー!」

「す、すみません!」

「雷鳴!助かった!」


 俺はエアロドラゴンの四肢をかいくぐりつつ、心臓の位置に青龍刀を突き立てる。

「GYUOOOOO!!」

 エアロドラゴンの悲鳴。場所は合っているようだ。

 俺は青龍刀を引き抜いて、もう一度同じ場所に突き立てる。

 今度は深く、根元まで刺す。青龍刀の刃渡りは1mぐらいだ。多分、届く。

 おびただしい血があふれ出す。手ごたえありだ。

 上空からも、びしゃっと血が降り注いできた。水玉が口から脳を貫いたのだ。

 俺は青龍刀を引き抜く。もうエアロドラゴンはビクビクと震えるばかりだ。


 騎士たちの方を見てみると、首尾よくワイバーンを殲滅できたようだ。

「雷鳴、毒消しの持ち合わせはないか?ワイバーンの尾に刺された者が出た」

 あ、しまった。ワイバーンの尾に毒があるって忘れてた。

 ………忘れてたって事は黙っておこう。

「解毒魔法で何とかなるよ。注意しておかなくてごめん」

「いや、こちらの注意不足だ。気にしないでくれ」

 サラの言葉に一応うなずいて、俺は解毒魔法をかけに騎士に駆け寄った。


 水玉がエアロドラゴンの頭を切り落として持ってきた。

 何に使うのか聞くと「討伐の証明をしないといけないでしょう?」と言う。

 血を魔力で吸い出し(『念動』の応用だ)捨てると頭を亜空間収納に放り込む。

 確かに向こうのギルドに報告しても、信じてもらえない可能性はあるか………

 でも牙とか角とかでいい気がするのだが………まあいいか。


 その後ケガ人に『回復』を施し、隊列を整えて俺たちは進みだした。

 ワイバーンたちは襲って来なくなり、一行は平和に進むのだった。


 1日とんで、5月3日。PM12:00。

 昼頃には黒龍山脈を抜けた。騎士や従僕たちから安堵の声が漏れる。

 俺も胸をなでおろす。やっぱり馬をゴーレム馬にしていたのは大きかったと思う。

 最近では騎士たちもゴーレム馬に馴れ、愛着を感じ始めているようだ。

 今朝など元の馬に乗ってもゴーレム馬をキープしておけるか聞かれたほどだ。

 サラ(もしくは姫様)が許せば「ついてこい」というだけで、本物の馬に乗った後をついてくると教えたが、それだと可哀想で、と感情移入していた。

 まあ何でも命令を聞くのだ、可愛いと思っても仕方ないかと思う。


 それはおいといて、もうパルケルス帝国の領内に入ったのだ。

 あとは首都アフザルまで行くだけ。道のりは15日ほどになる。

 警戒は必要だが、楽な道のりではあるだろう。


 5月18日。PM14:00。

 あっさり、アフザルに着いた。

 姫様が門のところで空に紋章を映し出すと話は早く、大門が開いた。

 宮殿に入ると、サラとミーナさん以外のお付きのものは別室にて待機だ。

 本でも読みながら首尾を待つことにする。


 2時間後、サラが現れて「援軍の件は了承してもらえた」と報告に来た。

「じゃあ、契約はこれまでだ。俺と水玉はこれで別行動になる」

「寂しくなるな………シェール王国に来たらいつでも寄って欲しい」

 サラは俺たちに1人金貨500枚ずつにもなる依頼料を払ってくれた。

「ありがとう、姫様たちによろしく」

 別れを惜しんでから、俺と水玉は王城を出て、城下町へと出た。

 ちなみに幌馬車はちゃんと王城から出した。

 街の出入り口の預かり所に預けることにして、料金も前払いしておいた。


「さ、これからどうしますか、雷鳴?」

「まずは冒険者ギルドに行こう。エアロドラゴンの件を早いところ報告しないといけないだろうし。ついでに推薦状を提出してしまえばいい」

「分かりました。宿も冒険者ギルドにあればいいですね」

「あるんじゃないか?本部なんだし」


 露店のおじさんに場所を聞いて、冒険者ギルドに辿り着く。

 アフザルの城下町は、色んな様式の建築が入り混じっている。

 このまりのギルドは、ミザンの冒険者ギルドと同じくガラス張りの建物だ。

 ミザンと同じく、煉瓦は使用せずガラスをレンガ状に加工した物を使っている。

 そう言えばヴルミの街では、冒険者ギルドも石造りだったことに思い至る。

 冒険者ギルドはその町の力を現すのかもしれない。


 受付の人は、さすが本部。訓練の行き届いたにこやかな女性ばかりだ。

 一番丁寧な人(わずかな差だったが)を選んで、列がはけるのを待つ。

 混む時間帯らしく待たされそうだ。先にギルドの中を探検しようと水玉が言った。


 ギルドの中はとても広い。

 酒場は受付や事務室とは別棟の建物だ。

 建材は一緒(主にガラスやガラス製煉瓦)で、ミザンより広い。

 この時間には冒険者たちが集まってきているな。


 2階は防具屋、武器屋、魔道具屋、よろず冒険屋と区分の決まった店が並ぶ。

 ひっくるめていたミザンのよろず屋とは少し趣が違うな。

 魔道具店があるのはちょっと目を引いた。

 ミザンでも街には一応あったが、ギルドでは扱ってなかった分野だ。

 ここは後で寄ってもよさそうだな。興味がある。


 3~4階は宿屋のようだ。カウンターに料金が貼ってある。

 泊まるかどうかはまだ分からないので、酒場に下りた。


「受付の列、だいぶはけてきたな。並ぶか」

 それでも1時間近く待ったが、やっと順番が来る。

「依頼の報告ではないんですけど、ヴルミの町で黒龍山脈に出るエアロドラゴンを倒したらここに報告してくれると助かると言われまして」

「えーと、何か証明するものはお持ちですか?」

 受付嬢は牙とか角とかを言いたかったのだろうが、水玉は空気を読まずに亜空間収納から首を丸ごと取り出してカウンターの前の床にどん、と置いた。

 絶句して言葉に詰まる受付嬢。しかしすぐに立ち直る。さすがだ。

「………分かりました、こちらで証拠品お引き取りと、討伐の受理をしておきます」

 彼女は後方の事務室に男手を頼んでいる。そりゃそうなるよな。


「あのー。それとですね、俺たちミザンの町からSクラスへの推薦状を持って来たんですけど。受理してもらえますか?」

「あ、はい!。推薦状をお預かりします。おそらく明日、お呼び出しすることにになると思いますが宿の方は?お決まりですか?」

「ギルドの宿を利用しようと思っているのですが」

「ではお名前をお伺いします」

「俺が雷鳴、こっちは水玉です。推薦状は2人分です」

「わかりました。明日は宿にいて下さい」

「「はい」」


 宿はスムーズに、いい2人部屋が取れた。とりあえず契約は2ヶ月だ。

 とりあえず今は、1階の酒場で依頼終了の打ち上げをしようか!

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