第16話 パルケルス帝国への道行き・3
4月28日。AM10:00。
昨日の夜は何というか………疲れた。
朝方までゴタゴタしていたせいで、こんな時間なのにまだ眠い。
領主の奥さんの鬼ババみたいな顔を夢にまで見たような気がする………
水玉も疲れたのか、まだ寝息を立てている。
水玉は睡眠不要と言えども、疲れたら寝るのが一番だからな。
「水玉、起きろ。今日はやる事がある」
「うう~ん、起きましたけど、まだ眠いです。何時ですか、雷鳴」
「10時だ。起きて身繕いしてたらすぐ11時になるぞ。姫が用事があるそうだから、オッサ………領主殿の館に行くんだ。昼食を一緒させてもらう。思い出したか?」
「そうでしたね。恥ずかしくない格好で行かないと」
「たしか水玉は高級な服も買っていたよな」
「あなたの分も買っていましたよ?ドレスチェンジに入っているでしょう?」
「え、マジ?(ドレスチェンジの中を検索………)ホントだ」
「………買い物疲れで認識していませんでしたか?」
結果、俺たちはどこぞの令嬢と、身なりのいいお洒落な青年になった。
髪も綺麗にし、俺はオールバック、水玉の髪は俺が結い上げてやった。
準備を整え、宿から出て領主の館に向かう。
ここに来てからは忙しかったり、疲れてたりしたのでよく見てなかったのだが、この街には石造りの建物しかないんだな、とあらためて思う。
おそらく近くに石切り場が沢山あるのだろう。
領主の館を思い出すと、大理石を産出する場所もあるのかもしれない。
俺たちが泊まっている宿も家具は木製のものもあるが石造りだ。
領主館に着いて、取次を頼むとすんなり通してくれた。兵士が一人案内につく。
姫の部屋について、兵士は緊張気味にノックをし、用件を告げる。
「雷鳴様と水玉様をお連れしました!」
すぐに扉が開いてサラが顔を出した。
「ご苦労」
サラは兵士を帰し、俺たちを姫の部屋に招き入れる。
「水玉ちゃん可愛い~!」
姫の第一声である。気が抜ける。
「水玉ちゃんは何を着ても可愛い気がしますけど」
これはミーナさんの台詞。水玉は2人とすっかり仲良しらしい。
「雷鳴、私は雷鳴の服も新鮮でいいと思うぞ」
サラがほっとかれた俺をフォローしてくれる。
「ありがとう、サラ。まあ水玉の見立てなんだけどね」
俺とサラさんが壁際でそんな会話をしている中、姫とミーナさんと水玉は服の話題に花を咲かせていた。俺も服飾の知識はあるが、魔界のものなので黙っておこう。
水玉は後々シェール王国の首都フルーレに来た際には、姫のお古を貰う約束までしていた。姫の体形は水玉と似ており(実に女性らしい体型だ)身長も高い。
後、初めて聞いたのだが姫は22歳。設定上の水玉の年齢より上なのだ。
もっと少女っぽく見えるので、俺は水玉と同じぐらいだと思っていた。
と、そんなこんなでサラ以外の女性陣が賑やかにしていると、領主の館の侍女が「食事の用意ができました」と知らせに来たので、移動する。
やたら長いテーブルの端に姫様が座り、俺たちはその対面に座る。
ミーナさんとサラは立って姫様の後ろに控える。
しばし無言の食事が続く。
姫様はどうか知らないが故郷の宮廷料理になれた俺と水玉には美味しくなかった。
最後のお茶というところで、姫様が口を開いた。
「サラから聞いたのですが、雷鳴さん」
「雷鳴で結構です」
「では雷鳴。あなたはゴーレムで馬が作れるとか?」
「はい。水玉にもできますよ」
「え、そうなの?水玉ちゃん?」
「ええ、私たちの使える魔法は、ある程度共通していますから」
「そうなの………実は騎士たちの馬も含めて、生きた馬はここに置いて行こうと思っているの。全ての馬をゴーレムの馬に変えて、扱い方を皆に教えてくれないかしら」
「ああ………そんなことなら、一向に構いませんよ」
「それとね………私達の馬車もここの領主殿の紹介の商人から買って来て欲しいの。出来るだけいいものをお願いね。それと荷馬車も丈夫なものを選んで買い替えを。2人の幌馬車も大きいのに買い替えるといいわ。マットレスもね」
前半はともかく幌馬車は………遊びに来る気満々だな、姫様。
姫様はポンと金貨1000枚だという革袋を俺たちに渡した。
「それとね、食料用の馬車と野営の道具用の馬車は分けて下さる?足りない御者は領主殿に借り受けましたから。食料も野営の道具もここで仕入れさせますので。
あと、購入したジャベリンは野営道具と一緒にしておきますね」
「ということは、食料用の荷車、野営用の荷車、財宝用の荷車、姫様たち用の馬車、ですね。後俺たちの幌馬車にまで気を使って貰ってすみません」
「うふ、いいのよ。遊びに行くのですもの」
「あ、はい、そうでしたね」
俺は苦笑する。自由な姫様である。
それで昼食はお開きになり、サラが案内役についてくれた。
まず、騎士の馬をゴーレム馬に変えるのだ。
といっても、愛馬はここに置いていく(不安だが世話は領主に任せる)だけなので、しばしの別れである。俺は騎士たちそれぞれにどんな馬がいいか聞いていく。
それぞれ好みがあるだろうからな。
サラが、そんなに本物に似せて大丈夫か、と聞いてきたので説明する。
ワイバーンは温度で物を見る(サーモグラフィー視覚)もちろん獲物もだ。
なので、いくら似ていても、冷たいゴーレム馬は対象外だと。
サラは俺たちの知識にしきりと感心していたが、神殿で得た知識なんだけどな。
この世界の人は、あまり図書館に通う習慣がないのだろうか。
姫が領主に言って、岩石が豊富な広場での作業と訓練を同意させていたので、俺たちはそこに行って、騎士たちの好み通りのゴーレム馬を作ることにした。
俺は『上級:無属性魔法:クリエイトロックゴーレム』で騎士たちの馬を作る。
その馬に水玉のオリジナル彫刻魔法で作った精巧な眼球をはめる。
それから馬の体を『ダイ(染色)』で染める。
目や尻尾、たてがみは体と色を別にする。
あと、毛の流れを表現してあったりと芸を細かくしてみた。
うん、いい出来だ。近寄らなければ本物に見える。
その後は、今は俺にあるゴーレムの命令権を、騎士たちに譲渡していく。
そして大事な動かし方の説明だ。
「ゴーレムは基本マスターの「言葉」による命令のみを受け付ける。結構細かい命令まで受け付けるから、いろいろ試してみてくれ。体で操作していた時とは違うけど、この動作をしたらこれ、みたいに事前に言い聞かせることはできるよ。頑張って慣れてくれ。それとゴーレムには核がある。心臓みたいなもんだな。腹の奥に設定しておいた。それが破壊されない限り頭がもげても動き続けるからな」
その後は荷車用のゴーレム馬を作る。これは一律茶色の馬にしておいた。
これが六頭。あとは姫様たち用の馬車の馬2頭だが、これはやはり白だろうか。
計8頭頭作ってそれぞれの御者をやる従僕に操作方法を教えた。
後で購入した荷馬車を届けて、実地で訓練してもらわないとな。
さて、岩場で訓練するゴーレム馬の持ち主たちを置いて、俺たちとサラは領主から紹介された商人の店に行く。ちゃんと各種の荷車や馬車、幌馬車が置いてあるので安心した。元奥さんの実家の商店を紹介されたのではたまったものではないからな。
「店主、まずは一番いい馬車を見せてくれ」
店主は手をもみながら「こちらになります」と店の奥へ案内してくれた。
薄紫の外観は綺麗で、中は水玉に乗ってもらったがクッションも及第点との事。
「じゃあそれに決めるよ。あと2頭立ての中で、可能な限り頑丈な荷車を3つ」
それも良さそうなものがあった。3つならギリギリ在庫があるとの事だ。
「最後に幌馬車なんだけど、できるだけ上等なもの、ある?」
「大店の商人が自分で商いをする時、注文するようなものになりますが………」
要はあるということだ。確認してみると3つほどあった。
俺たちはよく乗り心地を確認して、そのうちの特に立派なやつに決めた。
幌馬車以外を借りている訓練場の岩場に移してもらい、俺達は支払いを済ませた。
その後、ゴーレム馬に幌馬車を引かせて移動。
水玉は馬車の幌を淡いピンクに染めていた。目立つ。
その幌馬車で寝具店を訪れた。
お店の人はマットレスを馬車にひくと聞いて目を白黒させている。
それに構わず、マットレスはできるだけスプリングの効いたものを選んだ。
靴を脱ぐスペース以外に敷き詰める。これで女性陣は満足だろう。
ついでに上掛け布団も新しくしておこうかな………
領主の館の裏庭に幌馬車を停めると、俺はサラに資金の残りを返した。
無駄な買い物はしなかったので、かなり残っている。
サラはまた出発時に、と言って去っていった。
ちなみに出発は、ゴーレム馬に皆が慣れないといけないので明後日だ。
俺たちにはそんな訓練は不要なので明日は暇になるな。
「雷鳴、ここの街にも
「はいはい。今日は宿の食事で我慢してくれよ?」
「う~ん、宿の食事は嫌なんですけど。夕食はどこか他のところにしません?」
「わかった。でもとりあえず冒険者支部に行く。黒龍山脈の事が聞きたい」
道行く人に聞いて、冒険者ギルド支部を教えてもらい、ギルド支部へ。
受付前の列がはけた頃合いを見計らって、見ていて一番仕事が丁寧だった受付嬢に話しかける。彼女は嫌な顔一つみせずこちらに応対してくれた。
「すいません、近々複数人で黒龍山脈を通り抜ける者なんですけど、ワイバーン以外に気を付けることってありそうですか?」
「そうですね、ワイバーンも亜竜カテゴリですけど、もっとランクの高い亜竜が出没しています。エアロドラゴンではないかという話です。知能が低いだけで、能力は下位の真竜に迫るとか。街道を縄張りと思っているようで、街道を通るものに攻撃してきます。いま討伐依頼を出していますが………?」
「こちらで始末をつけてしまっても構いませんか?」
「その自信がおありなら依頼を受けて下さい、Aランク冒険者さん?パルケルス帝国の冒険者ギルドに報告してもらえれば、こちらでも知ることができますので」
どうもそういう魔道具があるようだ。
「今は貴人の護衛なので、通り過ぎる間に出て来なかったら倒せないんです」
「それでしたら、依頼を受けずにお行きになって、もし討伐したらパルケルス帝国の冒険者ギルドに報告だけでもしてくださるとこちらが非常に助かります」
「分かりました、護衛対象の状況によって多少遅れるかもしれませんが、倒した場合は必ず報告します。情報ありがとうございました」
「いえいえ」
話を聞き終わって受付を離れようとする。すると水玉が受付さんに話しかけた。
「冒険者にお勧めの店ありませんか?宿の食事は半端に上品で口に合わないのです」
「あーなるほど。冒険者さんにお勧めなのは「片目の熊亭」ですね。道順は―――」
受付さんは簡単な地図を持たせてくれた。感謝である。
「お前も中途半端に上品だと思ってたのか」
「はい。普通の人が食べると高級な食事なんでしょうけど。私たちでは、ねえ」
「うん、庶民の味の方がマシだと俺も思う」
その夜は久しぶりな感じに、周囲の冒険者と一緒に遅くまで盛り上がった。
どうも俺たちがAランクの認識票を下げていたから一目置かれたらしい。
さらにおごりだと宣言する事でその場はさらに盛り上がったのだった。
4月29日。AM08:00時。
いつもより遅く目が覚めた。頭が痛い。何世紀かぶりの二日酔いだ。
自分に『治癒魔法:キュア―ポイズン(解毒)』をかける。
キュア―ポイズンの使いどころとしては邪道だが、二日酔いは回復した。
さて、水玉が二日酔いな訳はない。体にアルコールは巡らないのだから。
なので、まだ寝ているのは単に惰眠をむさぼっているだけだろう。
昨日は大男を飲み比べで負かしていたしな。反則である。
俺は水玉が起きるまで「血の麦」作りをしていることにした。
10時ごろ、水玉が自力で起きてきた。
「んー。血の臭いがします。雷鳴、今何時です?」
「10時。そろそろバザールが開くころだ。行くか?」
「行きます。朝ごはんを食べたいですね」
「………もう昼だけどな」
俺たちは部屋を片付け、身繕いをして出かけた。
バザールの食事で、水玉が特に気に入ったのは焼き芋だ。
ヴルミ産の石で焼かれた石焼き芋で、俺も凄く美味しいと思った。
その他には、この辺の特産らしいトウモロコシを焼きトウモロコシにしたもの。
その他にはいわゆるじゃがバタ。
素材感あふれる野菜料理がここの特徴らしかった。
腹を満たしたら―――水玉は底なしだが程々にして―――普通の買い物だ。
やっぱり鉱石や石材の店が多い。武器防具の店や農耕器具の店もだ。
俺は砕いて使えば魔法陣の(今研究中のやつのではないが)材料になる鉱石を見つけては買っていった。魔法薬になるやつもだ。
水玉は細工物を見ていたが、お眼鏡に叶う物はなかったようだ。
その後は服である。今回は貴族とは言わないが大商人が行くような高級店に行く。
舐められては困るので、服は領主の館に行った時のものにした。
水玉はドレスとはいかないが、貴族の服と言われて通用する物を注文しているようだ。さすがに仕立てることはできないがサイズ調節はしてもらう。
任せきりというのも情けないので、俺も自分でオーダーすることにした。
大体18世紀頃の
高額な支払いを済ませて、宿の部屋に帰ると、恒例のファッションショーという名の『ドレスチェンジ』への登録が始まった。コーディネイトしては登録していく。
3パターンぐらいの着こなしが完成した。
その後は宿の食事を断って「片目の熊亭」へ。
昨日ほどではないが程々に飲み食いして、深夜に宿に帰った。
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