第9話 世界のジョーシキ調べもの

4月30日の夜。冒険者ギルドに帰ってきた。


 受付のメリンさんに―――他の受付の人でもいいのだが何となく愛着が―――「黄金のブランデー(無限収納庫に登録済み)」を差し出し、依頼終了の手続きをする。

 どんな罠があったか聞かれたが、話すとえらくびっくりされた。

 普段はそんなに大きな罠はないそうだ。吊り天井の部屋とか初めてだそうである。


「もしかしたら、入った人のレベルに合わせて罠が変動するのかもしれません。Aランクの人がここに挑むの、初めてですし。これは調査の依頼を出さないと………」

 なるほど、それで納得した。

 どの罠も殺意が高いわけだ。まあ難なく(?)突破した俺たちが言う事ではないが。

 

 ちなみに俺や水玉の異常性チートは話の中に含まれていない。

 冒険者ギルドでは依頼の報告義務があることは事前に知っていた。

 なので、帰り道にジンにも言い聞かせて、口裏を合わせておいたのだ。

 それが幸いして、俺や水玉の異常性は表に出ずに報告を終わらせたのである。


 報告を済ませた俺たちは、報酬を貰って2階の酒場に行った。

 食べたり飲んだりは、後で吐かなければいけないので嫌だったのだが………。

 打ち上げには参加するように!と水玉に強く求められたので仕方ない。

 

 メニューはみんなで食べる奴がいいという事で、もつ鍋をチョイス。

 味噌味と醤油味があったので、味噌味にすることにした。

 確かそれが一番ポピュラーな食べ方だったはず。

 と言うかこの世界、味噌と醤油があるんだな。

 

 あとそれに各自、酒。ジンはエール。俺は葡萄酒。水玉はバーボンである。

 酔わない割に―――酔わないからか?強い酒が好きだな、水玉は。


 追加の注文をし―――ここは焼き鳥がメインらしい―――宴は夜遅くまで続いた。

 水玉とジンより早く酒場をはけた俺は、部屋で胃を洗浄する。

 胃の中身は『キュア』の消去能力を超える量だったので『下級:無属性魔法:デリート』で消した。対象(無生物)を分解して、空気に溶け込ませる魔法である。


 明日は図書館に行こう―――洗浄を終えて人心地ついた俺は、そんな事をぼんやりと考える。まだまだ知らない事は多いのだ。

 知らないのが、自分たちにとっての不利益にならないように、しっかり知っておかないといけない。この世界は俺たちにとって異郷なのだから。


 この世界の国家の事とか、街の名前とか、それがどんな街かとか。

 各国の王や、今の王や王子王女の情報とか。

 あと一般的な魔法も知っておきたい。

 他の大陸の情報も欲しい。

 歴史書を読むのも重要だ。

 異種族やモンスターの事も知りたいな………


 そこまで考えた辺りで眠気が来た。0時10分前。寝るとするか………。


♦♦♦


 5月1日。6時に目が覚めた。水玉はまだ寝ている。


 とりあえず水玉の目が覚めるまで『凝縮液粒』を作っておくとするか。

 道具(たる)をとりだして、せっせと作成する俺。

 そうやって忙しくしていたら、水玉が起きてくるのが見えた。

 丁度、血の麦の小瓶がひと瓶、完成した時だった。

 今は9時ごろである。


「あぁ。良く寝ました。おや、いい天気ですね。お早うございます、雷鳴。今日は何をするんですか?依頼ですか?図書館ですか?」

「後の方が正解だな。図書館で調べものだよ」

 道具を片付けながら、俺は水玉に図書館で調べものだと言った。

「ああ………調べ物は大事ですね」

 面倒だけど、といいたそうな水玉にチョップ。俺の手が痛かった。

「じゃあ神殿図書館が開くまで、朝市で食事にしようか?」

「あ!はい!」

「じゃあ服を着替えて」

「はい『生活魔法:ドレスチェンジ』!」

 水玉は可愛い青の花柄のシャツに、白いレザーパンツに着替えた。上着はなし。

 今は五月なので、無理にジャケットは要らないのでなし。

 それを言うとコートの俺がおかしいな。

 俺のコートは特別製なので、薄い素材のケープに変形させておくことにした。

「よし。じゃあ、行こうか」


 朝市で屋台の朝食を(水玉が)取った後、図書館に向かう。10時だ。

「とりあえず2人で、この大陸の国家と街、特色を調べるぞ」

「分かりました!」

 

 ―――判明した事―――

 まず「街の一覧」を特色と共に紙にまとめる事ができた。

 これは、持ち歩く。で、問題は国である。


 この大陸には3つの国があることが分かった。

 ただし、国家の強さはそれぞれ結構差がある。

 統治形態は全て絶対王政である。以前は封建制だったらしいがいまはもうない。


 今、俺たちがいるのは「シェール王国」の「港町ミザン」

 3つの国家のうち第3位の規模の国家が「シェール王国」だ。首都はフルーレ。

 基本的に海洋国家であり、首都からして半島の先にある。

 税などはあまり高くなく、ゆったりとした統治が行われている。


 次に受付さんに冒険者ギルドの本部があると言われた「パルケルス帝国」

 第2位の規模の国家で、首都は「アフザル」

 身分制度がかなりきっちり決められており税なども高い。

 冒険者は自由に活動できる数少ない職業ジョブであるとか。


 最後に「ウルリカ聖王国」首都は「エザール」第一位の国家だ。

 至高神を信望している国家で、領土的野心はない。

 古来から侵略をはねのけ、侵略してきた国家を併呑してきた為、今の規模に至る。

―――以上―――


………ということが分かった。

うーん、どれも次に向かう場所としてはピンと来ない。

しばらくはこのミザンに留まるのがいいと思う。


まだ時間があったので、他の事も調べてみる事にする。

調べる事は「この世界に存在する魔法」だ。

手分けして調べて結果を総合してみた。


―――この世界に存在する魔法―――

 基本的には攻撃魔法が一般的。盛んに開発も進めているため大抵のものはある。

 ただし最上級魔法と儀式魔法は開発されても使えるものがいないとか。

 そして、それ以外の便利魔法は少ない。

 だが、開発すれば使えるようになることが判明。

 ただし『クリエイト××』『コピー』はさすがに見せるのはまずそうな感じだ。

『ドレスチェンジ』などは、案外受け入れられそうな感じがした。

『フライト』はまあ多分大丈夫。多分。

『キュア』などは広まってないだけで、魔力持ちの間ではポピュラーだそうだ。


 回復魔法は、普通に存在していた。

 各神殿に所属する魔力持ち達の研鑽の結果だろう。

 蘇生魔法まで存在するのには結構感心した。進んでるな。


 魔道具は存在しないのか?と探してみた。

 あった。

 魔法陣にも使われる、魔力を引き出す文様を、素材に刻む事で製作されるそうだ。

 それによって、空気中のマナを用いて魔法が行使される。

 おおむね、元の世界の魔道具と同じ作りである。

 魔力持ちでなくても作れるため、魔道具職人は一定数存在するのだとか。

 ジンの指輪も「筋力向上」の魔道具だとか言って誤魔化す事ができそうだな。

―――以上―――


 次は、各国の王や、今の王や王子王女の情報だ。

 これに関しては長くなるので、2人で頭に叩き込んでおいたとだけ。

 調べて覚えておく必要があると『勘』が言っていたのである。


 その辺で、図書館が閉まる時間(10時)になった。

「あとは、また明日来よう」

「また明日も調べものですか?退屈はしませんけど」

「調べものを全部済ませてから、また冒険者の依頼を受けようと思ってる」

「わかりました、さっさと済ませましょう!」


 そして俺は水玉の食事に付き合って、そして寝た。


♦♦♦


 5月2日、6時。

 昨日と同じパターンかと思いきや、水玉は俺より早く起きていた。

 まだ食べきってなかったらしい豆をポリポリと食べている。

「おはよう水玉。豆まだあったのか?腹減ったの?」

「減りましたね。豆は暇つぶし用に取っておいたんですよ。起きたなら早く朝市に行きましょう?それとは別に、私は毎日寝るとは限りませんので、書店に寄って暇つぶし用の小説でも買いたいんですけど?」

「はいはい、本屋な。図書館(知識神の神殿)の周囲にいっぱいあったな」


 そして朝市。

 食べ物屋に水玉の顔が覚えられていたようで、あちこちから誘いがかかる。

 水玉は『念動』まで駆使して―――ギョッとされていた―――食べ物を持って帰ってきた。まあ念動は魔法の基礎術らしかったから、いいか。


「まあゆっくり食ってくれ、急いで食べ―――ても水玉の場合大丈夫か」

 口に焼きそばを頬張ったまま、うん、と頷く水玉。リスのようで可愛い。

 いや、ノロケは置いておいて、俺も興味を引く屋台はないかと探してみる。

 

 するとアクセサリーの店があった。

 じっくり吟味して、青いガラスの蝶のついたヘアピンを選ぶ。

 当然自分のではなく水玉のものだ。俺はそれを購入した。

「水玉、はいこれ」

「!嬉しいです。雷鳴、つけてもらえますか?」

「いいよ………うん、似合うな」

「うふふ………」

 なんだかいい雰囲気になりつつ、俺たちは本屋を目指して歩きだした。


 さて、図書館が開くのと同時にほとんどの本屋は開店していた。

 『勘』の導くままに本屋を選んで、水玉と一緒に入る。

 別々に見て回り、好みの本を選ぶ。俺は怪奇小説やホラー小説が好みだ。

 水玉はというと、恋愛小説が好みなようである。ハーレクインのようなやつだ。

 それぞれ大量に買い込んで店主を驚かせた。

 水玉は俺の買ったのも読ませてくれと言っている。雑食だな。

 俺は恋愛小説は、ちょっと。


 買い物も終わり、図書館に入った。

 今日調べるものは

 「他の大陸の情報」

 「歴史書」

 「異種族やモンスターの情報」


 手分けして情報を仕入れ、後で『情報球(頭の中の情報を、球を取り込む相手に伝達させる魔法)』で交換する事にした。


―――まずは他の大陸の情報―――

 今俺たちがいるのは「東の大陸ルマーシュ」

 人間が治め、その他の種族はほとんど見当たらない。

 もしいた場合でも奴隷扱いだ。

 ただ、公式に異種族は奴隷としてしか存在を許さない、とする国はない。

 ウルリカ聖王国は「亜人」扱いであるし、差別されるが市民になる事も可能。

 数は少ないものの、この大陸の異種族はウルリカ聖王国に集まっているようだ。

 昨日の情報でも見たが、国家は全て絶対王政である。


 異種族のいる「西の大陸レン=グラント」

 人間とは見た目が多少異なる種族「異種族」が多く住む大陸。

 大きな出来事は6大種族会議で決議される。

 6大種族とは、有翼人、ドワーフ、エルフ、獣人、レプラコーン、妖精である。

 最近、ダークエルフ族が奴隷階級とされていることに反対する地域と、賛成する地域とで大きな戦争があった。戦争は反対地域の勝ちで、奴隷は解放された。

 しかし解放された奴隷は、行く場所がない。

 なので元の主人が正式に雇い直したりしているそうな。

 そうでない奴隷は、多くが職を求めて西地域(奴隷制反対地域)に旅立ったそうだ。


 悪魔族の治める「南の大陸 ソークランド(別名魔大陸)」

 ここの情報はほとんど調べられなかった。

 唯一調べられたのは、魔王を頂点とする絶対王政であること。

 大陸は魔王により統一されているということぐらいだ。

 どんな住民が住んでいるかは不明。


 こちらの大陸に略奪部隊を送り込んで来る、厄介な「北の大陸 バルバロイ」

 この大陸は東の大陸に比較的近いが、それで問題が起きている。

 近いせいで、時々大きな船団を組んで「東の大陸ルマーシュ」に略奪に来るのだ。

 被害は主にシェール王国の、半島にある首都フルーレ、港町ミザン。

 時折パルケルス帝国の港湾都市イシュランまで被害は及ぶという。

 住民の種族はジャイアント。

 背の低い者でも2m半、大きいものだと4mは背丈のある種族だ。

 このミザンまで略奪に来るというのは見逃せないポイントだな。

 あとで受付のメリンさんに詳細を聞こう。

―――以上―――


 次に歴史書だが、これは一通り頭に叩き込んだとだけ。

 必要な時に知識が出てくればそれでいいだろう。


―――異種族とモンスターについて―――

 基本的には知性があり、なら異種族だ。

 例えば人間を食料にする奴などは知性があってもモンスターという事だな。

 他にも死人(幽霊とか)は知能があってもモンスターに分類される。

 例外は色々あるが、それ以外の種族はモンスターでなく異種族だ。

 西の大陸レン=グラントにはかなり種々様々な種族が住んでいそうだった。

―――以上―――


 調べ終わった頃には夜になっていた。

「ふう………さすがに疲れましたよ、雷鳴」

「俺もちょっと疲れたな………宿に帰るか?」

「はい、食事に付き合って下さいね」

「後で胃洗浄するけど大丈夫か?」

「仮にも悪魔が、そんな事で怖気づくわけないでしょう」

「気持ち悪くないかって言いたかったんだが………まあいい、それなら付き合うさ」

「はい!付き合って下さい」


その夜は、水玉に付き合って寝る寸前まで酒場にいた。

胃洗浄は明日の朝だな。

それと新しく冒険者ギルドの依頼を受けるつもりだから、ジンを呼ばないと………

その思考を最後に、俺の意識は暗闇に沈んだ。


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