第7話 新しい仲間と冒険者
俺はやってきた奴隷商人に、熊男を買い取る話をつけた。
奴隷商人は厄介な商品が売れて喜んでいるようだ。
首輪は外す事も出来るが、呪文で締め付け、いう事を聞かせる事も殺してしまう事も出来るがどうする、と言われたので「首輪の鍵だけ貰う」という事にした。
解放してやるつもりではあるが、今は衆人環視の中なので無理だ。
「ありがてぇありがてぇ、何でもしますぜダンナ」
「俺は
「名前を呼ばれるよりいいですけど。でも、この男を連れて歩く気なら、部屋に連れて帰って綺麗にしないとダメです!本当は外で丸洗いしたいのですが………」
「目立つからお外はダメだ。俺も綺麗にはしたいから、いったん部屋に帰ろう。」
帰って来て、宿屋受付のおねおばーさんと会話したのち、熊男に1人部屋を取る。
当然俺たちよりグレードの劣る部屋だが我慢してもらいたい。
とりあえずまずは、俺たちの部屋の方に連れて行く。熊男は目を白黒させていた。
で、鍵をかけて、ブラインドを下ろしてっと。
「えーと、まず『生活魔法:ウォッシュ』」
「これは………一回では汚れが落ちていませんよ、雷鳴」
ドン引きの水玉。
こういう奴にも、訓練で会っただろうに、きっと無視だったんだろうな
「そうだな………『ウォッシュ』×10倍がけ!」
さすがに綺麗になった。次はモジャモジャの髭と伸び放題の頭髪だ。
『クリエイトマテリアル』でハサミとカミソリを出し、適当に頭髪をサッパリと整えていく。毛の質だろうか?短くなったけどやっぱりモジャモジャしている。
髭も全部は剃らないように気を付けた。大人しそうなヒゲ男に仕上げる。
「このハサミとカミソリと、鏡はお前にやるから、毎日身なりを整えるのに使え」
そして鏡で顔を見せてやったら、泣き出してしまった。家族を思い出したという。
「ほら、あなたの服です。グリーン系のものを、着回しがきくように何着か『クリエイト』しましたから、着なさい」
いつの間にやら水玉は熊男に服を作ってやっていたらしい。
確かに今は、粗末なズボンしか身に着けていないからな。
熊男が綺麗になったら、水玉も少し優しくなったな。多分ペット感覚なのだ。
その証拠に、彼の熊耳をつまんでしげしげと見ている。
さて、さて、ちょっとした実験だ。俺は『クリエイトノーブルメタル』で指輪を作る。ジンの指にはまるように大きい指輪だ。材質は目立たないように銀。
それに「クリエイトジュエル」で作った、小さなエメラルドを嵌めこむ。
そして指輪に「『特殊能力:付与術:メタモルフォーゼ(姿形変化)』!」
熊男につけてみるように言う。サイズはぴったりだった。
つけると熊男から熊耳が消え、普通の耳ができた。水玉は不満そうだが。
熊男はかなり驚いていたが「ありがとうございやす」と複雑そうに言った。
「ああ、そうだ。お前、名前は」
「ああ。名前。番号でしか呼ばれなかったのに………」
「いいから答えろ」
「あ、はい。すんません兄さん。ジンです!」
ジンは、水玉の作り出した服に着替え―――さすが水玉、サイズぴったり―――大柄な従僕、といった感じになった。
顔立ちは、剃刀をあてたこともあり、温厚そうである。
「ジン、お前にも聞きたい事はあるが、まずはこれを見てもらおう」
俺は服を脱いで、背中から竜の翼を生やした。
「あ、兄さんは有翼人だったでやすか!?」
背中を向けて服を脱いだ水玉は、コバルトブルーの鳥の羽を出す。
「あっ、姉さんも!?」
「こっちで生き残ってた希少種だけどな。だから異種族にも興味があるんだ。教えてくれ、ジン。お前たちの大陸ってどんなんだ」
「こっちと大して変わりませんぜ。ただ最近「奴隷戦争」というものがあって、奴隷は法律上は所有禁止になりましたが、こっそり使う奴はまだいるんですわ。他に特徴的なのはそれぞれの種族―――てゆうても6大種族のみですが―――の代表が大陸の方針を決めるっていう習慣がありまさあ。あっしが出てきちまった時は特に何も問題は起こってなかったはずですがね」
「アフ教徒のことは?やつらは異種族だって話なんだが」
「そうなんで?でも今回、アフ教徒はあっしを解放しようとはしませんでしたぜ?」
「認識されてなかったのかな。お前の耳、見えなくなってたし」
「はあ………とにかくあっしはアフ教徒については分かりません」
「そうか。で、こっちに来たのは偶然なんだな?」
「難破したのですか?」
あ、服を着直して、翼を引っ込めた水玉が戻ってきた。
「へい、酷い嵐になりまして………こっちに着いた時にはみんなボロボロで。大半の奴は死んでしまってたんでさ。積み荷も大したものは残ってなかったでやすねえ。それで、乗組員は異種族だからって、奴隷市場行きですわ。まずい飯でしたけど、体が資本だから食わされてたのが幸運ですかね………」
「海の底に落ちなくて良かったですね?それで、帰るあてはあるのですか?」
「冗談よしてくださいよ姉さん。あるわけないじゃないですか」
「では他の仲間はいるのですか?」
「犯罪奴隷として複数いやす」
「ふうん、アフ教徒とやらは興味がないのでしょうかね?」
「いっぺん会ったら聞いてみたいことが増えたな」
「へ、へぇ。そうでやすか?ところで姉さん。さっきからあっしの頭をいじくりまわしているのは、何故で………?」
「綺麗になったらお前の頭、フワフワじゃないですか。ペットなったつもりでいなさい。常にこの質をキープするように!」
しばらく水玉は綺麗になったジンの頭をいじくりまわしていた。全く。
ジンがフワフワを維持できるはずもない。水玉が構い倒すのだろうなと思った。
「ジン、いまから奴隷の首輪を取ってやる」
「はっ?」
「(かちゃり、と鍵をはずして)ほら」
「ええええと、あっしはどうすれば………」
「取り合えずその恰好で、さっきのお前と結び付ける奴はいないだろうな」
「金貨20枚程度の支度金はあげます。冒険者になってみたらいかがです?」
「ジンならランクはCは確実に行けるだろう。頑張ればBに届くんじゃないか?」
「ここの常識が分からないんでさぁ………」
「なら、冒険者資格を取った後、俺たちと一緒にしばらく冒険するか?」
「それで大体学べると思いますよ」
「強さを示せばここでもやっていけるだろう」
「………やってみます」
絞り出すように言ったジンを、決意が鈍らぬうちにとよろず屋に連れて行き「旅立ちのプレゼント」だと言って装備一式を整えさせる。
ちなみにジンの得物は斧だ。鎧は板金鎧。ヘルムもつく全身鎧スタイルである。
それが終わるが早いか受付に連れて行き、試練に放りこむ俺たち。
ジンは、Bランクになった。ボロボロになったが、回復し、綺麗にもしてやる。
あとは、冒険者証(認識票、銀色)を作ってもらった。首にかけるジン。
「これで、俺たちと同じ冒険者だ。ついてくるか?」
「アレより強い魔物を余裕で倒す………お二人は次元が違うでやすね………でも足手まといにはならねえ覚悟ですぜ。恩返しとしてついて行かせて下せえ!」
「ん、許します」「まあ、そこから始めればいいさ」
ここで、23時になったので俺は部屋に帰る。
水玉とジンは2階の酒場で、一緒に食事してから帰るそうだ。
水玉に、今回俺たちの使った術の口止めをしておくように伝えた。
ジンに宿のグレードは好きに変える様に言い、俺は部屋に辿り着き、即座に寝た。
♦♦♦
4月23日。朝6時に俺は目覚めた。
水玉はもう起きて、暇そうにしていたが、俺が起きるとパッと笑顔になる。
「雷鳴、昨日はジンの一件でお買い物に行けませんでした。それで―――」
「うん、今日行こうな。でもまだ早すぎやしないか?」
「そうですね。でも朝市なら開いてるでしょう?」
「服は売ってないんじゃないか?」
「はい、ですからそこはデートという事で」
俺は苦笑した。そういうことか。
「朝食は、朝市でかな」
「はい!」
まだ暗いロビーを抜けて、外へ出る。
準備中だがそれなりに活気のある商店街を通って朝市へ。
まずは水玉がタコ焼きと唐揚げを頬張る。
その間に俺は目当ての物を置いてある出店を見つけていた。
暦関係の店で、4月はじまりのスケジュール帳を買ったのだ。
文具全般を置いていたので、万年筆も買っておく。替えのインクもだ。
その後は水玉の気の向くままに付き合ってやった。
この後本番のショッピングなのだが………俺はもう疲れてきてしまった。
女って凄いな………。
10時、服屋の多い通りが開く時間だ。
青か赤の色の服を選んで探していく。意外とたくさんあるな。
「雷鳴ー。これはどうです?」
水玉が見せてきたのは青と水色の、涼し気な花柄の服だった。
「いいと思うよ。これからの季節にも丁度いいし」
「じゃあ買います!」
そこからは、大量に買ったのでよく覚えてない。
水玉は自分のだけでなく、俺のも勝手に選んで買っていたようだが………。
荷物持ちに必死で、あまり見ていなかった。
宿に帰って荷物をほどく。よくまあこんなに買ったものだ。
「全部『ドレスチェンジ』に登録してしまいましょう!」
『ドレスチェンジ』するには1度身に着ける必要がある。
勢いそのまま、ファッションショーになるわけで………。
魔界の公爵である以上、服の着せ替えは慣れているが………好きな訳ではない。
けどまあ、水玉が楽しそうだから良いかと苦笑する。
ちなみに『ドレスチェンジ』に登録した服は亜空間に収納されるので消え失せる。
なので、買い物の痕跡はどんどん部屋から消えていく。
どんどん部屋が綺麗になっていくな。
時間は16時になった。
『ドレスチェンジ』登録に結構時間を使ってしまったらしい。
「この後どうする水玉?食事か、依頼掲示板を見に行くか、図書館に行くかだが」
「んー。どれも後回しでいいですよ。食事には行きますが。それよりお風呂です!」
あ、忘れてなかったか………じゃあ、やるか。
「じゃあ『中級:無属性魔法:クリエイトマテリアル・ラージ』!」
部屋の真ん中に、大きな樽型の浴槽が出現する。要はタコつぼだ。
「『コールウォーター』樽がいっぱいになるまで!」
「どうやって暖めるんですか?」
「こうやる。『召喚術:火属性:サラマンダー』その樽の中身だけを暖めろ。そうだな、温度は42度ぐらいでいいだろう」
「ああ、なるほど、精霊使役ですか―――」
「風呂には豪華だけどな。はいどうぞ。火加減はサラマンダーに言ってくれ」
水着に着替えて―――こんなのも買ってたのか―――風呂?に入る水玉。
大変眼福だ。
「雷鳴が一緒に入れたらいいのに」
「同じものを作って俺も入ろうか?」
「気分だけでも、そうですね。水着はあったでしょ?」
「ええと、これか(と、ドレスチェンジする)」
俺はもう一つタコつぼを作って、水玉と同じように入った。
「あなたはいつでも、必要ないのに私のお風呂に付き合ってくれますよね」
元の世界―――魔界の話だな。
「水玉がそれでリラックスしていたからだよ」
「………ありがとうございます」
「お風呂の後はどうする?」
「食事にして、寝る前に依頼張り出しの掲示板を見に行きましょう」
「ああ。本格始動は明日からか」
「うふふ、どんな依頼があるのか楽しみです」
「最初に選ぶのは水玉に一任するよ。好きなのを選ぶといい」
「どんなのになっても、文句は言わないでくださいよ?」
「はい、はい」
ゆっくり湯船につかって、体に『ウォッシュ』をかける。
湯は洗面台に流し―――時間はかかったが―――サラマンダーは精霊界へ帰した。
またどこかで、ゆっくり風呂に入れるのを期待しよう。
それまではこれが限度だ。
時間は19時になった。着替えて、2階の酒場に行く。活気があって良い。
さて、俺としては人の匂いの方が食欲をそそられるのだが―――何注文しよう。
ふと、目に止まったメニューがあった。
「モンスター焼肉。日替わりでモンスターの肉が出ます。下処理しっかり!
美味しいよ!今日はジャイアントボアと、ハーピィ、ミノタウロスだよ!」
「水玉、2人前からだからこれ食ってみないか?」
「んー。今日のラインナップは比較的マトモですね。いいでしょう」
「………昨日は何だったんだ?」
「試験でCクラスのモンスターとして出てきたあれと、サンドワームでした」
「………それは食いたくねえなぁ」
「でしょう?でも今回はまともそうなのでチャレンジです」
「わかった。お姉さーん、モンスター焼肉………」
「3人前で!」
「はーい」
?と、水玉の方を見ると、酒場の入り口を指し示した
なるほど、ジンがいる。こいつの分だったのな。
「ジン、一緒に食おう」
ジンはペコペコ頭を下げながら、俺の横に座った。
モンスター焼肉は意外とおいしかったことをここに告げておく。
21時だ。水玉はまだまだ飲み食いしたそうだったが、ジンに酒場で待っていてもらい後で合流という事で、後回しにしてもらった。
そろそろ行かないと依頼掲示板が撤去されてしまいそうだ。
階下に下りると受付はまだ明るかったが、ロビーは薄闇に包まれていた。
たむろしていた冒険者たちも、今はいない。受付の人も1人だけである。
水玉は迷いなく人気のない掲示板に歩み寄り、しばらく吟味している。
俺も掲示板を見回すが、討伐クエストが多いな………。
「雷鳴!これがいいです!」
水玉が、1枚の依頼書を剥がして、胸の前で開いて見せる。
「………はぁ!?トラップハウスから「黄金のブランデー」を持ち帰れー!?」
「はい!」
「人工のダンジョンみたいなもんだと思うぞ?」
「分かってますよ?」
「俺の盗賊技能はそこまで高くないぞ?」
「何とかなるでしょう。嫌な予感はしますか?」
「いや………(何故か)しないけど………」
「じゃあ決まりですね!提出して来ます。ジンは巻き込んだらいいですよね?」
「ちょっと可哀想だが………もうそれで。呼んできてやるよ」
ジンも加えて、初回の依頼は「トラップハウス」に決定したのだった。
どんな目に会わされるのやら………
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