第6話 冒険者ギルドにて・2
俺が魔法陣の中に立つと、周りが静まり返っている。
水玉が凄かったから、期待されてしまっているようだ。どうするかなぁ。
「Cクラス試験、始め!」
魔法陣に何かが召喚されてくる。
それは
んーこれは………剣は届かない。魔法で仕留めるのもちょっと。
魔法の見せすぎはよくない。
なら、これだな。
俺はコートの中に手を入れ、こっそり「クリエイトマテリアル」する。
作ったのは石が先端についた長くて頑丈な紐だ。
俺はその紐を投擲し、石は重りとなってジャイアントバットの首にぐるぐると巻き付いた。俺はそれをヴァンパイアならではの膂力で思い切り引く。
ごきりという音を立てて、ジャイアントバットはこと切れた。
残り2匹はノコノコ降下してきた―――多分俺を鉤爪で捕まえようとしていたのだろう―――ので、剣で喉をかき切って終了。
「うぉぉぉ!すげえ、なんだありゃ!」
「あんなもん常に携帯してるのか………!」
戦闘が終わった途端聞こえる野次馬の声。
どうもモンスターが出ている間は、外の声はシャットダウンされてるみたいだ。
「Cクラスクリア!続けるか!?」
「はい」俺は気負いのない声で言う。
「ではBクラスの試験を始める!」
次に召喚されてきたのは、1体のロックゴーレムだった。楽勝!
「『中級:無属性魔法:ウィークポイント』」
ゴーレムというものには皆、核がある。そこを壊せば動きは止まる。
だからウィークポイントは効果的なのだ。
ただ、今の得物は槍ではない。なので、核を貫けるか疑問だったのだが―――。
ゴーレムとおれのファルカタは相打ちだった。
ゴーレムの核を貫いた瞬間、ファルカタもパキンという音を立てて砕け散った。
「なんだあれ!?なんで核の場所が1発で分かるんだ?」
「剣が折れたぞ!あれでAクラスの試験受けるつもりか!?」
「Bクラスクリア!続けるか?」
「はい」剣がなくても何とかなるだろう。
「ではAクラスの試験を始める!」
召喚されてきたのは、ワイバーン(飛龍)である。1体とは言えこんなもん出すか?
仕方ない。水玉と似たような戦法で行くか。
「『中級:地属性魔法:ロックブラスト』!」
ワイバーンは風属性で良かったはず。地属性の魔法で行くのは定石だ。
ただし威力増大は行わない。
多分だがエネルギーボルトより、相当派手になってしまうからだ。
地面から飛び出した大量の岩石が、空を飛ぶワイバーンにぶつかる。
よろけて落下してきたので、首に飛び乗り、コートに最初から収納されていた短剣で首をかき切る。静かになった。
会場はシーンと静まり………そして、うぉぉぉ!すげぇぇぇ!とあちこちで叫び声が上がりだした。拍手もいただいた。ちょっといい気分だ。
「Aクラスクリア!それまで!2人共見事だった!」
ギルマスの宣言と、野次馬の歓声を、水玉と手をつないで聞いたのだった。
見事というのは、2人共ほぼ相手に攻撃させてないからだろうな。
受付の女性が興奮しながらも祝福してくれた。
「おめでとう!見かけによらず本当に強いのねえ!ファンになっちゃいそう!あっ、ランク記載のペンダントを受付で作るから、また下に来てくれる?」
階下に下りると、応接室に入れてもらえた。何故かギルマスも一緒である。
ペンダントができるまで、ギルマスに質問された。
「お前たちは、一体どこから来たんだ?」
「ええと………」
俺はこの間ざっくり作った設定と、先程のゴタゴタで口走った説明をあわせて説明する。納得するかな?
「親の名前は?」
「外に出ても、自分たちの事は口外するなと言われてたので、死んでるけど言いつけは守りたいですね」
「ふむ………なら場所はどうだ」
「俺たちが出て来る時、魔法で痕跡を消去して回ったので、建物すらありませんが………それでよければ場所ぐらいは」
「それも言いつけか?」
「最後に死んだ、村長の言いつけです」
ギルマスは亜空間収納から地図を取り出した。この人も魔力持ちか。
「どこらへんだ」
俺は『勘』の導くままに選んだ場所をとん、と人差し指でたたいた。
「この辺りの、どこかです」
「なるほど、国境問題のせいで人は全く近づかんな………」
「俺たちも村を出てからしばらく、無人だったので戸惑いましたから」
「ふむ………なるほど、お前たちの出自は一応分かった。信じてやろう。あまりにも得体の知れない奴にAランクはやれんからな」
なるほど、そういう事か。頼もしいギルマスじゃないか。
「「有難うございます、ギルドマスター」」
「よせよせ、俺は仕事をしただけだ」
「Aランクの認識票を持って来ましたよー。金の認識票なのです」
受付さんが、金色のドックタグみたいなものを持ってきた。
「あれ、Sランクの人の認識票は何色なのですか?」
やっと口を挟んだと思ったら、そこか、水玉。
「プラチナになりますね」
「ああ、なるほど………」
「さて、後は個人情報を打刻機で打ちます。この紙に個人情報を書いて下さい」
生年月日は「暦が無かったのではっきりしないんですけど」と言ったら暦を持って来てくれたので、読み方を教わる。
俺は星辰歴1632年6月6日、水玉は1630年7月16日に相当するのが分かった。
あくまでも年齢詐称しての年だが、月と日は本当の誕生日である。
あと名前。ここには漢字は多分ないだろうからRAINAとSUIGYOKUになった。
そう、図書館でも驚いたのだが、この世界の言語は英語なのだ。楽でいい。
最後にジョブだ。俺は魔剣士、水玉は魔闘士を選んで記入する。
「はい、じゃあ打ちますねー」
ダダダダダダダダダダ………
「完成です!首から下げるのはチェーンにしますか、紐にしますか?」
「紐で。チェーンは切れそうだ」
「私も」
「はい、ではお受け取り下さい!」
金色の認識票を首から掛けて、俺達はギルマスと受付さんにお礼を言うのだった。
応接室からロビーに出た。
ちなみに今年と来年の暦は書き写させてもらってきた。
紙は、コートの中から出すふりで『クリエイトマテリアル』だ。ペンは借りた。
さて、そろそろ次の行動を決めないとな。
「水玉、屋上に行く途中の店とか、見たよな」
「もちろん見ましたとも。という事は、お引越し、しかも長期ですね!」
「長期って言っても、図書館でこの世界の常識を調べ終わるまでのつもりだけど。
けど長期にはなると思うんだ。
歴史書も紐解くつもりだし、この大陸の事はもちろん、
他の大陸の事や異種族、モンスターの事も知りたいから」
「その合間に冒険者として活動するのですね!」
「そういうこと。力試しも一応するけど、基本的には気分が乗った奴を選んでいいと思う。最初はモンスター退治かなぁ………取り合えず宿をとりに行こう」
「はい!」
宿のある階に来た。
受付のゴスロリなおねおばーさん(としか言えない外見なのだ)に話しかける。
「なんだい、あんたたち。ここは連れ込み宿じゃないんだよっ!」
「あーいえ、そんなつもりはありませんよ。2人部屋を3カ月お願いします」
「変なことに使うんじゃないよっ!」
「はい、大丈夫です、大丈夫です」
えらい癖のある受付さんだったが、何とかお金を渡し、カギを受け取った。
入った部屋は、ガラスをレンガ代わりにして組んである、彩光溢れる部屋だった。
「綺麗じゃないですか。窓は―――ブラインドつきで、ちゃんとガラスですよ」
部屋の一画には、常に流れ続ける水と、それを受ける壺、洗面台がある。
クローゼットも完備だ。俺たちは『ドレスチェンジ』で着替えるけど。
ベッドは―――1番いい部屋を注文したので、フカフカだ。
あとは折り畳み式の物書き台、温水の作れる魔道具が置いてある。
他には観葉植物があったりして―――この部屋では武器は振れないな。
「ああ、思い出した。武器を折っちゃったんだっけか」
「3階に武器屋はありそうでしたよ?」
「どうせ冒険者の装備も買いに行かないといけないんだ。行こうか?」
「面白そうですね、行きましょう」
「へいっ、らっしゃい!何をお求めで………おお、ぞっちの坊主、さっき剣折ってた奴じゃないか!替わりが欲しいのかい?」
「もっといい品質の剣が欲しいね。青龍刀、なんて置いてないかな?」
「そりゃお前さん異国の剣だな!だがオーダーメイドなら受け負っちゃうよ?」
「作り方を知ってるなら、良質の鋼で強いのを打って欲しいな」
「金貨で20枚だ!」
俺は亜空間収納から出すふりをして『コピー 』した金貨をおじさんに渡す。
コピーする金貨はいつも1枚の「モデル」を使っている、傷も特徴も何も無いやつを使うのだ。おなじ瑕疵のあるやつを使うと不審がられないからな。
おじさんは握り拳を作って「任せろ」と請け合ってくれた。
さて、だったら当座の剣が必要だな。
数打ちのロングソードの中から適当に選んで、おじさんから購入する。
あとは冒険者の装備か。おじさんに聞いて選ぼう。
亜空間収納は使えない地域もあるそうで、あくまで担ぐ前提で選ばないとダメらしい。なら冒険者セットは必須か。
ランタン、火打石、白墨、くさび、ハンマー、鉤付きロープ、獣の胃を使った硬い革の水筒、腐りにくい糧秣。
これに入っていないものといえば。まずそれらをしまうバックパックだな………
あとは毛布、簡易テント、寝袋、できれば松明といったところか。
糧秣は買い直しが必要かもしれないが、その他はこれでいいだろう。
もう魔力持ちはバレているようなので、俺たちは買ったものをどっちの物か区別をつけるため『生活魔法:ダイ(染色)』で色を付けていった。
勿論俺が濃赤で水玉が水色である。
「買取品とかも引き受けてるから、また来てくれよ!」
「「分かりました。ありがとうございます!」」
いっぺん宿に戻って荷物を下ろす。すると水玉が
「着たきりスズメは嫌なので、服を買いに行きたいです!あとお風呂!」
と言い出した。いつか言い出すとは思っていたので驚きはない。
「服は買いに行こうか。風呂の方は、あるだろうけど公衆浴場なんて嫌だろう?」
「服はショッピングでいいですが、公衆浴場は嫌です」
「だったら部屋で簡単だけど大きい樽に湯張って作ってやるから」
「ううん………仕方ない。それで取り合えず我慢します………」
「よし、じゃあショッピングだ」
♦♦♦
外に出てみると―――
「奴隷が逃げたぞ―――!」
「犯罪奴隷もだ!」
「畜生アフ教徒の奴ら―――!?」
大騒ぎだった。
子供の手を引いて、家路を急ぐご婦人。野次馬根性で通りに出る奴ら。
その他にも身を守ろうとした連中で、その辺の店はいっぱいだった。
その通りを、猛スピードで駆け抜けていく熊のような巨体の男。
どうも、街の門を目指しているようである。
民間人には目もくれてないな。
街の衛兵が、その男を阻止しようとしているようだが駄目だなありゃあ。
衛兵の方が装備は充実しているが、逆にそれを奪われて無力化されてしまう始末。
門兵が止められるといいんだが―――ダメか。拳の一発でダウンだ。
「どうする水玉?」
「どうもこうも、何とかする義理あります?」
「じゃあ、俺が止めるわ。アフ教徒の事も気になるし」
「えぇ!?じゃあ私も行きますよ、仕方がないですね」
という会話があり、俺たちは門兵が倒される前に現場に着き、男をタコ殴った。
倒れ伏した男の顔に、水袋から水をかけて意識を戻し、質問に答えるように言う。
男は恐怖を目に宿しながらコクコクと頷き、応じる意思を見せた。
「(意図的に大きな声で)君はアフ教徒の手引きを受けて脱走したのかな?」
「アフ教徒なんか何の助けにもなりませんや!俺は自分で脱走したんでぃ!」
「(意図的に大きな声で)そうか、それならいい。素直にお縄についてくれるね?」
「そ、そこを何とか。ダンナ!素直になるようにって拷問されちまう!」
うーん、それは自業自得である。
だが、俺は男の頭に注目していた。ぼさぼさの髪に隠れているが、これは―――。
うん、どう考えてもクマ耳である。
そして人間が本来耳を持つ場所には、何もなかった。
(お前、熊の獣人だったりするの?)
(そうです。船が流されてこんな所に漂着し、何もやってないのに犯罪奴隷にされたんでさぁ。助けて下せえ、ダンナ。何でもします!)
(助け………ああもう。よし、任せろ)
(あ、確か雷鳴は戒律で、助けてと言われると断れないんでしたっけ………)
(そうだよ!)
ヴァンパイア一族「カインの血脈」には氏族というものがある。
俺にも俺のヴァンパイア氏族があり、必ず守らなければいけない戒律がある。
破ると、何と言おうか、魂にダメージが入るのだ。凄く荒んだ気分になる。
続けて破っていけば、いずれ魂は獣のようになり、暴走する。
よほどのことがない限り守らなければいけないのだ。
これが戒律だ。
癒しの氏族の戒律―――
1:助けを求められたら断ってはならない
2:相手の同意なく血を飲んではならない
3:相手より先に攻撃してはならない(知性のないモンスター除く)
4:グールを作ってはならない
俺はこれを遵守しなければならないのである。
よって、熊男は助ける事に決定した。
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