第5話 冒険者ギルドにて・1
武器防具店は、鍛冶の音ですぐに判明した。
港に面しており、平屋で、トンカンキンキンいっているのは港の方を。
武器を売っている店舗部分は通りの方を向いている。
俺たちは当然店舗部分の扉を開けた。
「いらっしゃふぁー」
気の抜けたような店番の声、あくびまじりである。ちょっと頼りない。
「防具は選んだら、サイズ直しとかはやってくれるのか?」
「それぐらいはやりますよー」
頼りないが仕方ない。
「わかった」
俺と水玉はそれぞれ武器防具を選びにかかった。
まずは簡単な方から。武器だ。色々見て回っていたら気にいったものがあった。
幾つかあるので珍しくはないのだろう。ファルカタという曲剣だった。
断ち切るタイプの用法で使う武器で、切れ味が悪いと何にもならない。
なので、俺は刃を入念にチェックする………うん、及第点かな。
それと短剣(ダガー)を選んで手に取り、次は防具選びに行く。
防具は武器ほど俺には重要でない。
ヴァンパイアの不死身っぷりを舐めてはいけない。いわゆる「木の杭で心臓を刺す」以外なら何でどこを貫かれても俺は平気である。
木の杭で心臓を刺された場合でも、木の杭を引き抜いたら復活するが。
怖いのは出血多量だが「血の麦」で対処可能。
血の補給さえできれば傷口はすぐ塞がるからだ。
だから防具は革鎧の上下で。金属鎧は要らないな。
だがそもそも、当たらなければ余分な血は消費しない、だから盾は買っておく。
バックラーでいいだろう。受け止めるのではなく打ち払う盾だ。攻撃にも使える。
普段は腕に括り付けておけば邪魔にもならないだろう。
そして水玉は、武器防具両方ポーズで構わないのだが気にいる物があったようだ。
ニコニコとその手に持っているのは凝った装飾の、鉄器で出来たナックル。
それと重そうな投げナイフが3つ。これは真剣に選んだようだ。
防具は付け心地が悪いから俺と同じ盾だけでいいと、結局買わなかった。
まあいい。確実に防具より水玉の方が固いだろう。
俺の防具は店員にサイズをあわせてもらい、水玉と一緒に店を出る。
もちろん買ったものは全部装備している。これから冒険者ギルドに行くのだから。
冒険者ギルドはすぐ近くにあった。すぐ見つかった―――というか目立ったのだ。
何と、4階建て程度ではあるものの、ガラス張りの建物だったのである。
この辺の建物はみんな石造りなので、キラキラした建物はとても目立った。
♦♦♦
特に絡まれたりする事は無かったが、容姿のせいか粘っこい視線を感じる。
だが今すぐどうこうという感じではないようだ。
「あの、すみません。冒険者登録をしたいんですが」
「ああ、はいはい。説明とか要ります?」
受付のお姉さんは、俺たちを見て目を丸くした後そう言ってくれた。
「お願いします」
以下はお姉さんの説明である。
冒険者には上からS、A、B、C、Dとランクがある。
普通に登録するなら、Dランクのメンバーズカードが発行され、それに応じた依頼 を受けることができるようになる。
普通でない、というか力に自信があるなら、査定付き登録をすることもできる。
その場合、ギルドの屋上に上がってもらって、そこにある大きな魔法陣の中で、召喚モンスターとの戦闘を行ってもらうという。
なんでも、Aランクまではその査定でランクを上げる事が可能なのだそうだ。
ただし召喚されたモンスターは、完全にガチの戦闘を行ってくるらしい。
A、B、Cランク1つにつき1戦闘。回復時間はなしの連戦になるそうだ。
ギブアップの際は魔法陣を出る事。逆に言うと事故でも出たら負けだ。
Sランクは、しばらく仕事をこなしてもらい、人格と実力を査定したうえで与えられるランクで、ここ「ミザンの街(初めて聞いた)」の冒険者ギルドではなれない。
代わりに推薦状を書いてもらえるので、隣国パルケルス帝国の首都アフザルにある冒険者ギルド本部にそれを提出し、試練をこなしてようやく認定されるのだとか。
「こんな所かな、あはは、説明しすぎたかな?キミたちは普通登録だよね?」
「「いえ、査定付き登録で」」
「えっ!モンスター出るのよ!?」
「もちろん分かってますよ」
「Aランクに挑戦します」
俺がそういうとギルド内のムードが変わった。
ムードは2種類だ。好奇心満々のムードと、険悪なムード。
「おい、Aランクとか言ったか、このガキ共」
中でも凶悪な人相の男が俺に鼻息を吹きかけつつ迫って来る。
鼻息が臭いし、来るな。面倒くさい。
「………面倒くさいんで、からまないでくれません?実力は試験で証明しますから」
「なっ、なんだと!?この俺でもBランクなんだ!ガキがなれると思うなよ!だがまぁ顔だけはいいな。歓楽街にでも行けよ!男でもお相手は沢山いるだろうぜ!」
追従の笑いがこだまする。同レベルの奴が服数人いるか。度胸はなさそうだが。
「雷鳴。この男は私と貴方を侮辱しました」
「うん、そうだな。けどな、ここで騒ぎを起こして出入り禁止はごめんだぞ」
「むぅ………でしたらどうするのです?任せますよ?男、命拾いしましたね」
水玉の「命拾い」は多分本当の命だと思うので、止めた俺に感謝して欲しい。
「そういうことなんで、どこかに行ってくれません?」
男は血管を浮き上がらせて震えている。
「お前らを叩き出して、それから(ピー)して(ピー)して(ピー)してやらァ!舐め腐りやがってガキ共が!俺はBクラスだぞ!お前らも来い!」
その声でニヤニヤしてた連中から、4人がこちらに向けて歩きだしてくる。
こいつに従うという事は、C、Dクラスなんだろうな………。
受付さんは警備兵を呼んでいるようだが―――赤い「緊急」と書かれた笛を吹いている―――まだ警備兵らしき姿は見えない。
面倒くさいが、魔法で一網打尽にするか………この魔法ならいいだろう。
「『中級:光属性:ルーンロープ』範囲拡大」
光の縄で対象をぐるぐる巻きにするだけの術だ、普通は1人に向けての術なので範囲拡大が必要だった。ダメージ術にしなかったことに感謝してもらいたい。
「ま、魔力持ち………」
誰かが呟いた。
「流行り病で逝っちまったけど、戦士と魔力持ちの師匠持ちだ。半端な教育はされてないよ。ああ、けど俺たちは姉弟じゃなくて恋人だから間違えるなよ?」
誰に聞かせるともなく言う。狙いは静まり返っているので全員だが。
いや、今できた設定なので実は水玉に聞かせている面もあるのだが
水玉はすました顔だが、設定が増えた事は理解しているはずだ。
そのタイミングで、警備兵が来て―――雰囲気冒険者なので、もしかしてバイトだろうか―――すぐ呆気にとられる。
「これは―――」
「あ、俺がやりました。半日ほどで勝手に解けますが………外しますか?」
「君は魔力持ち―――?」「彼女もです」「そ、そうか」
「えー。解くかどうかか………。いや、でもこいつは度々問題を起して、確かギルドも困ってたんじゃ?」
「そうです!この機会に反省させてやってください。解く必要ないですよ!」
受付さんも、こいつが普段からコレだから警備兵を呼んでいたみたいだ。
「動くとダメージの入る拘束の術もありますけど?」
そう言ったら水玉以外の全員がぎこちない笑顔で首を横に振った。何故。
「お前らは半日反省室で、身動きできないまま神父の説教だ!野郎ども、運ぶぞ!」
警備兵は転がっていた連中を俵担ぎにして去っていった。
「あのー。変な横やりが入りましたけど、査定付き登録、できますか?」
「え、ええ。それは大丈夫。たださっきのもあって野次馬がいっぱいつくと思うけど………いいかしら?別の日に変更する?」
「いえ、野次馬は構わないですよ。俺たち二人とも、神経太いんで」
受付嬢は何か言いたげな表情になったが、俺たちを屋上に案内してくれた。
ちなみに上がっていく途中で見えたのだが、2階は酒場、3階はよろず冒険屋と言った感じ、4階は宿屋になっているようだ。
宿屋のカウンターには「長期滞在承り」と張り紙がある。
冒険者になったらここに移るのも良さそうだ。
屋上は、驚いたことに空間拡張されていた。とても広かったのである。
植樹された木々が生い茂り、公園のような見た目の屋上。
その中心にその魔法陣はあった。
見事な召喚魔法陣。直径は20mぐらいだろうか。
屋上といい魔法陣といい、冒険者ギルドの上層部は実力者がいるらしい。
「受付さん、この空間拡張と魔法陣は一体誰が?」
「うふふ、気になる?
「ええ………凄いですね」
元の世界でも人間でこれだけの事をできる奴は多くない。
あくまで人間にしてはだが、凄い事だと言える。
魔法陣の所に辿り着くと、コントロールパネルのようなところに、いかめしい顔つきの、髭がダンディな義足の男が立った。
受付さん曰く、彼がここのギルドマスターだそうである。
水玉とそろって「よろしくお願いいたします」とお辞儀。彼は頷いた。
「どっちが先に行くんじゃ」
「私が先に行きます!いいでしょう、雷鳴?」
「いいよ、行ってらっしゃい」
水玉はギルマスの指示に従って、魔法陣の真ん中まで進み出る。
「よし、では始め!」
ギルマスがコントロールパネルのボタンを操作すると、召喚が開始される。
俺としては、コントロールパネルの仕組みに興味津々だ。
まず、水玉の目の前に召喚されたのは「ジャイアントラット」3匹だった。
大人の背ほどもあるドブネズミであり、噛まれればダメージだけではなく病気の心配も必要だ。食い殺されなければ、だが。
だが水玉にそんな心配はいらない。歯が通るわけないのである。
水玉は余裕をもって、高速のナックルの一撃で1匹の頭部を一撃。
その一撃で頭を砕いて見せジャイアントラットは死亡となった。
「おいおい、どんな筋力してるんだよ」
「速ぇ………」
野次馬の声である。
その間にも水玉は頭を狙って、ジャイアントラットに攻撃を仕掛けている。
ほどなく残り2匹のジャイアントラットも、最初の1匹の後を追った。
水玉にはかすり傷もない。
「Cクラスクリア!続けるか!?」
ギルマスの声に「はい!」と返事する水玉。
「ではBクラスの試験を始める!」
次に召喚されてきたのはマミー。要はミイラだった。3体だ。
俺の記憶では魔法を使ってきたと思うのだが、ここの世界では剣で戦うようだ。
かなり素早く、しかも手に持つ剣は両手剣、フラムベルジュである。
水玉は『中級:無属性魔法:ウィークポイント(弱点看破)』を使った。
目に見える効果が無いので、観衆には魔法を使ったと思われていないようだが。
だがそれは確かに効果を発揮していた―――水玉はマミーの心臓を打ち抜き、掴みだしたのち砕いたのである。それで1体のマミーが崩れ去った。
「すげぇ、一瞬で―――」
「見ろ、他のマミーにも向かって行くぞ!」
途中で1体のマミーが水玉に命中させるも、弾かれてダメージにならず。
「今のは何だ!?」
「きっと防御力に関係した魔法なんだ!」
誤解してもらえる分にはその方がいいな。俺は当然という表情を作った。
水玉は、残りの攻撃を盾で弾き、受け流してマミーの懐に入り、撃破した。
念のために言っておくと、マミーは決して弱くない。
弱点さえ突かなければ、その不死性を大いに発揮して相手を苦しめるだろう。
今回は水玉の『ウィークポイント』を使うという判断が良かっただけだ。
まあ弱点が分かっても活用できるかは人によるのだけど。
「Bクラスクリア!続けるか!?」「はい、続けます!」
「ではAクラスの試験を始める!」
出てきたのは1体。だがそれで十分だろう。
何せ巨大なアイアンゴーレムだったのである。普通、一人では倒せない。
だが水玉は不敵な笑みを浮かべた。俺でもそうだったろう。
水玉は『下級:無属性魔法:エネルギーボルト』をMAXまで強化して使った。
相手の攻撃はあったものの、鈍重なゴーレムの攻撃。回避できないはずがない。
魔法のダメージはゴーレムに蓄積し続け―――やがてゴーレムは崩壊した。
「ま、魔力持ちってこんなにすごいのか………」
「バカ!あれは特別だ!スゲェぜ!」
「良かった、俺。からんでなくて………」
「Aクラスクリア!もう一名と交代!」
水玉は俺とすれ違いながら肩を叩き「上手くやって下さいね」と言った。
分かってるさ。
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