第4話 魔法についての調べもの

 水玉と合流した。既に肉串を食べ切っていた水玉に、豆の袋をわさっと渡す。

「さすがにこれは多いですよ?でも食べます。………あそこの空地で食べましょう」

 水玉は、屋台通りの端にある空地を指さした。ベンチにできそうな丸太もある。

 多分何かの作業現場なのだろうが………作業員が来るまではいいか。


「雷鳴、あなたも何か聞き込みをしていたのでしょうが、先に私の方を言いますね」

 ちょっと驚いた。水玉は単なる世間話をしていたのだと思っていたのだ。

 そうだよな、王族の試練ではそれぐらいできないといけないか………。

 水玉の事を見直した。


「ここでは、魔法は希少らしいです。

 どうも魔力を持つ人間自体が珍しいらしいですね。

 私たちは魔力を授かって生まれてきた子という扱いになるみたいです。

 力が授けられたのは神の加護とするのが普通ですが、判定方法はないらしいです。

 あと、魔法の知識は知識神神殿の図書館で得られるようです。

 武器防具店よりかなり早く開くようなので、先にそっちに行きませんか?」


「なるほど………魔法を使ってる人間がいないと思ったらそういう事か。確かにこの世界にある魔法を知っておくのは大事だ。水玉の言う通り、先にそっちに行こう」


「で、雷鳴はどんな情報を仕入れて来たんです?」

 俺は小声でおばあちゃんとのやり取りを話した。

「何でそんな事聞いたんですか?奴隷への哀れみではないでしょう?」

「俺も魔界の住人、悪魔だ。同情とかはない。ただ、こっちでアフ教徒の事を聞いた時からずっと気になってたんだ。『予感』の一種だな」


「ふうん………では私も覚えておきましょう」

 と言い、水玉は豆を他人に見えないように「亜空間収納」に収納した。

「さすがに一気には全部食べられなかったか」

「食べてもいいんですけどね、おいしいですし。でも夜に一人で食べるのにちょうどいいなと思いまして。私は必ずしも寝ませんからね」

「なるほど、じゃあこの後、屋台通りでは―――?」

「今日はいいですが、また来ましょうね!」

 ああ………「庶民の味」が気に入ったのか。


「で、水玉。知識神の神殿ってどっちだ?」

「あっちの方で頭一つ抜けて見えてる、商業神の建物の向かいだそうです」

「あのデカいの、商業神の神殿だったのか………」

 しばらく歩き、活況の商業神の神殿をチラ見しつつ、知識神の神殿に来た。

 知識神の神殿は、活発に話している人たちが複数組見受けられた。

 商業神の神殿に、ある意味劣らない熱気がある。

 入口の神官に聞いてみると、図書館以外では議論が推奨されているのだとか。

 ちなみに、図書館は誰でも使用できるそうだ。

 この世界、識字率はそれなりにあるんだろうか?


 図書館に来た。

 白い石壁が見えなくなるほどたくさんの本。かなり広い部屋一面がそうだった。

 壁が白い石壁と想像したのは単に天井がそうだったからだ。

 ため込むだけため込んでいるだけなのか、利用者自体はそれほどいないようで、すり減った書見台はそれなりに空いている。

 看板などを見て分かっていたが、ここの言語は元の世界の人界の言語だ。

 本をめくって改めてそれを確かめた俺たちは、手分けする事にした。

 

 俺は魔力を授かった子について。

 水玉は魔法について調べる事にした。


 一通り調べたら、合流して付き合わせる。


 俺の調べた事。

 魔力を持って生まれた子―――魔力持ちは生まれた時はそうと分からない。

 だが、ごく幼い頃、2歳までに魔力を使った何かの現象を起こすのが普通らしい。

 可愛いもので哺乳瓶を手元に取り寄せたり、玩具をフワフワと浮かせたり。

 可愛くないものだと、竜巻で部屋を壊したり、火事を起こしたり、気に入らない人を氷漬けにした、というような例も、少数ながら報告されているという。

 魔力持ちは神々の加護を受けたとみなされる。

 いずれかの神の信者とならないといけないが、どの神に帰依するかは自由らしい。

 多いのは知識神か、戦女神だそうだ。

 成長した子供は、軍関係の仕事に就くことが多いとか。

 それと、魔力を持つと認定された子は、右手の甲に刺青が施される。

 その図案と使われる色の指定は『特殊能力:写真記憶』で頭に叩き込んだ。

 なので、後で自分に刺青を入れる予定だ。

 水玉は自分の体の表面の色を操作できるから、楽でいいな。


 水玉の調べた事。

 魔法は、軍事・戦闘での利用が基本であり、魔力持ちが学ぶのは攻撃魔法であることが多い。だが生活魔法はある程度本から学ぶことができるので、魔力持ちにはある程度生活魔法を使う人もいる。が、俺たちほど多く生活魔法を使う例はほぼない。

 特にクリエイト系やコピー魔法は他の人に見せるのはまずそうというのが結論だ。

 何故か魔術の構成や理論は、俺たちの世界と酷似しており、俺たちが普通に攻撃魔法を使ってもおかしなことにはならないと思われる。

 あと、オリジナル魔法は結構作られているので、魔力持ちなら街中で使っていても問題なさそうだという。もちろん注目はされるが刺青があればなんとかなる。


((他の利用者もいるのでこっそりと)なるほど………まずは宿に戻って俺の刺青を入れるのが先決だな。水玉も体表に図案を固定してくれ)

(はい、とりあえず急いで宿に帰りましょう。昼食はお預けですね)


 俺たちは大急ぎで宿(焦げたチーズ亭)に帰る。今回は2人部屋が取れた。

 今だったら、刺青はあったっけ?で済む範疇だ。急がないとな。

 まず水玉に『生活魔法:記憶球』で図案と色を伝える。

 『記憶球』は術者の記憶を光球に込め、他者に吸収させる術だ。

 水玉が集中すると、綺麗なモザイク柄の五芒星が右手の甲に浮き上がった。

 模範的な出来上がりである。


 俺は『クリエイトマテリアル』を駆使して刺青の道具と染料を作り出し、自分に刻印する事にした。見本は水玉の「刺青」である。水玉のは刺青ではないが。

 苦心してほぼ同じにするが、やはり見劣りするので、水玉にも刺青の完成度を落として貰う事にする。故郷は同じという事にしたいので、不自然さを無くすためだ。

 ちなみに刺青の図案は五芒星。

 これは元の世界では、逆さにすれば慣れ親しんだ悪魔のシンボルである。

 刺青として入れるのにあまり抵抗がなくていい感じだ。


「水玉。俺たちの故郷の設定を作っておこうと思う。まず、過疎の村で生まれた」

「なるほど、村では他の子どもはおらず、あなたと私は幼馴染、というやつですね」

「それでいいと思う。刺青は大地母神の老神官が入れてくれたという事で」

「了解しました、それで?」

「流行り病で、神官を含む大人がほとんど死んでしまい、残った大人は村を捨てた。

成人して間もない(この世界の成人は16歳らしい)俺たちも、親を亡くして村を出る。その後は傭兵稼業で食いつないできたが、この街に来て冒険者になる事にした―――といったところでいいだろう」


「分かりました。誰かに聞かれたらそう答えましょう。ところで「冒険者」ですが、この世界にもその制度があるのですね。登録するのですか?なぜ?」

「うん、依頼で倒す敵で自分たちの強さを計ろうと思う。それと、社会的信用を多少なりとも手に入れる為かな。傭兵よりマシと推測した。まだギルドの仕組みは知らないけど、価値がないと思ったら名乗らなければいいんだし、試してもいいだろう」

「分かりました。でもかなり時間を使ってしまって夜ですから、夕食にしましょう」

「ああ、今日はここまでだな………っと忘れる所だった。刺青は普通隠すらしいから、指無し手袋を両手分作ろう」

「分かりました。いざとなったら、外して見せるのですね!」

 俺たちは『クリエイトマテリアル』で指無し手袋を作り、装着して酒場に下りた。


 水玉は食べるのに専念し、俺は程々にしつつそれを眺める。

 周囲は―――主に厨房の人たち―――「よう姉ちゃん、昨日は凄かったな」「今日もたくさん食えよー」などという反応である。

 俺について聞かれると、水玉は「恋人です!私と同じぐらい強いですよ!」と胸を張っていた。好奇の視線が突き刺さるが笑顔で流しておいた。

 ………そのうち昨日の奴らがお礼参りにやって来そうな気がしなくもない。


 どうせ食べても「吐く」ので、俺は程々にして宿の方に上がることにした。

 「吐く」ためである。

 水玉は少しぐらい放っておいても大丈夫だと、ここ2~3日で感じていたからだ。

 宿に上がって『クリエイトマテリアル』で洗面器とメスを作ると、胃のある部分の体表を切り裂き、胃を取り出す。胃を切開して『生活魔法:コールウォーター』で中身を水洗い。この間、血は自分でコントロールして出ないようにしている。

 こうでもしないと、普通に吐いただけだと体内から腐敗臭がしてくるのだ。

 ちなみにこれは、ヴァンパイア皆について回る悩みではない。

 物を「食べられる」「おいしそうな匂いだと思う」というだけで珍しいのだ。

 普通は匂いだけでダメである。避けて通る。


 でも、数少ない消化できるものもある。「血酒」だ。

 普通にアルコール摂取するのはダメで、血と混ぜたものに限定される。

 これを寝かせた物は「血酒」と呼ばれヴァンパイアの嗜好品になるのだ。

 俺は酒場から芋の蒸留酒を買って来ていた。

 これを樽の中に半分ぐらい作った血に混ぜておく。飲めるのは来月ぐらいかな。

 ちなみにアルコール以外の成分は、血の成分に溶けている扱いで飲める。


 明日の予定を色々立てながら、俺は眠りについた。

 

♦♦♦


 パチリと目が明く。朝だ。水玉は?

 パリパリポリポリ………という音。水玉は小動物のように豆を食べていた。

 ふにゃり。気が抜ける。いや可愛いんだけど………な?

「おはよう、水玉。それいつから食べてるんだ?」

「おや、おはようございます、雷鳴。私も睡眠をとったのですが、飽きてしまって。豆は………多分2時間ほど前から無心に食べているような?」

「………それで、朝ごはんも食べるんだな?」


「それなんですけどね、雷鳴。ここには朝市というものがあるそうなのです」

「食べ物の屋台でも出てるのか?」

「そうです。料理長に、朝もっとマシな物が出ないか聞いたら勧められました」

「わかった。朝市なら普通もうやってるだろう。出かけようか」


♦♦♦

 

 勧められるだけあって朝市は盛況だ。

 ありとあらゆるものが揃っていそうな活況である。

 水玉は肉まんとかクレープの店に引き寄せられて行き、俺は別のものを見つけた。


 聖印をアクセサリーにしたものが売っている。

 店主に聞くと、信者に人気なのだそうな。

 大地母神の聖印は?と聞くと、盾をモチーフにしたものがそうだと言われた。

 円形の飾りの中に、模様の付いた盾をあしらった、色付きの凝った物を見つけた。

 舞踏会の飾りとはいかないが、傭兵や冒険者にとってはきっと華やかな物だろう。

「お兄さん、この青いのとこの赤いの、ください」

「はいよ、1個、金貨1枚だよ。2つで2枚になるよ」

 屋台の物にしては高いかもしれないが、俺の目は確かだ。その価値はある。

「はい、これ」「またよろしくー」


 水玉はその頃には買ったものを食べ尽くしていた。底なしとは恐ろしい。

「水玉、プレゼントだ」

「えっ?」

 目がキラキラし始めた………今回は期待にそえるか分からないぞ?

「はいこれ。腰から下げるタイプで、大地母神のシンボル。色違いだ」

「(小声で)シンボルは抵抗ありますけど、必要なんですよね」

「(小声で)ああ、脇を固めておくのには必要だ」

「まあ、色違いのお揃いというなら………受け取りましょう!」

「そう言ってくれて良かったよ、お姫様」


「ところで探し物があるんだけど」

「何でしょう?」

「時計。俺が眠くなる前に分かるように」

「ふむ、探してみましょう」


 探した結果、何と朝市に出ているのを見つけた。

 どっちかというと、売ってる店の情報を探していたのでビックリである。


 店先はカラフルだった。赤・青・黄・緑………様々なバンドと台座の色が躍る。

 そこは色ガラスでできた台座と蓋、帆布でできたベルトが売りの時計屋だった。

 タイプは3つ。「最新式」の自動時計で、腰に下げるもの、腕時計、置時計だ。

 濃い色ガラスの台座には蓋がついており、見本から刻印もできるという。


 俺たちは腰に下げるものを選んだ。腕時計では戦闘で破損しかねないからだ。

 金属製なら腕時計にしたろうが………ここの時計はカラーが綺麗だしガラスでもここの製品を買いたいと思わせる感じだった。だからベルト吊りでもいいと思った。

 金額は結構したが、他でも同じようなものだろうから、ここが良かった。


 水玉は濃い青、俺は濃い紅にした。

 どうも、この世界での自分カラーになりそうな色だな。最初は適当だったのに。


 2人共、刻印は五芒星だ。この世界ではスタンダードなお守りの印。

 だけど俺たちには逆さにしたら故郷を示す印だ。2人共迷わなかった。

 俺たちは刻印された時計を手に入れて微笑み合った。


 さあ、そろそろ武器防具の店も開いていることだろう。

 買ったばかりの時計は10時を示していた。

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