第3話 食事事情と情報収集
夜明けと同時に目が覚めた。
普通の眠りではないので、ぱちりと目が明いた瞬間から頭は起きている。
うん、やはりヴァンパイアは昼夜反転してた方が行動時間が長いよな。
普通のヴァンパイアは夜明け前に寝て、日没までは行動できないのだから。
さて今日やる事は………と考えかけたところで、ベッドが妙に狭いことに気付く。
見ると、水玉が横で寝ている。
そっと手をのばし、柔らかい頬に触れると、少し身じろぎをする。
水玉の眠りは深い。普段、深く眠る必要があったからだ。
元の世界には夢路という夢の世界があるのだが、水玉はそこの支配者だ。
眠りの深さは武器だ。だから眠りが深いのである。
だが現実の脅威に反応するため、名前をトリガーとしてすぐに起きる。
ここに来た時に起こした水玉がすぐに起きたのもそれが理由である。
だからトリガーである名前を呼べばすぐに目が覚める
「水玉、おはよう」
頬にキスをしながら呼べば、ほらすぐ起きた。
「もぉ朝ですかぁ~?人界の朝にしては暗いですね………」
「ここではガラスが高級品みたいだからな」
俺は窓は全部閉めていた。ガラスが高級品なのだろう、全部木戸だ。
泥棒除けと視線避けの木戸。鍵も掛けている。だから暗いのである。
「昨日の俺の「作業」も見られなくて一石二鳥だったよ」
「そういえば、昨日は宿に着くなり何かしていましたよね。結局何だったのです?」
「気にしてないのかと思ってたが」
「食事したかっただけで、気にはしていましたよ?」
「ん………?水玉ってお腹減るんだったっけ?」
「減ります。食べなくても死にはしませんが」
「ああ………そりゃ気付かなくて悪かった。俺は自分の食事―――血の凝縮粒を作ってたんだ。血の麦は知ってるだろう?あれの模倣。血の麦と同じだと思っていい」
「なるほど、ヴァンパイアには血のあるなしは死活問題ですものね。『教え』は体内の血を消費するんでしょう?」
「そう。普段はまだいいけど戦闘の時に備えて凝縮粒は持っておかないとな」
「で、納得したら、そろそろ水玉は着替えような」
一体いつ『ドレスチェンジ』に登録していたのか知らないが、水玉は一昨日のパジャマに着替えていたのだ。俺は倒れるように寝たので昨日の服のまんまである。
「はいはい………見てもいいんですよ?」
「そういうのは元の世界に帰って結婚してからなー」
言いながら俺はシャツに『生活魔法:アイロン』をかけるのであった。
♦♦♦
水玉が着替え終わったところで、今日やるべきことをする。
「まずは、金貨のコピーを試す。通し番号とかはないみたいだし、他の仕掛けもないようだから大丈夫だろう。『中級:無属性魔法:コピー』発動」
使ったのは各辺4メートルの立方体に入るものなら何でも複写する魔法である。
うん、ちゃんと発動した。取り合えず金貨20枚をコピーし水玉と分ける。
「この魔法もだけど『クリエイト』系も、多分世に出回ってない魔法だろう。使えるのがバレたら厄介だから、人前で絶対使うなよ」
「私を何だと思っているのです。さすがに分かっていますよ」
「ごめんごめん、一応な」
「さて、次は財布を作る。………といってもベルトに取り付けられる革袋だ『クリエイトマテリアル』で簡単に作れるから、自分のを作ろう」
俺は、ベルト通しの付いた、口を絞れる革袋を作る。色は暗紅色だ。
それと、頑丈そうな―――『クリエイトマテリアル』では質は均一のものしかできないので、普通なのだが―――暗紅色のベルトを作り出した。
水玉は俺の作業を見て、同じような物をコバルトブルーで作った。
出来上がった財布にそれぞれ金貨を移して―――金貨は20枚、銀貨はお互い使っているのでまあ30枚前後と言ったところか―――身に着ける。
不自然さが軽減されたようで、一安心といったところか。
「部屋で出来る事はこれ位かな」
「あ、じゃあ朝ごはんを食べに行きたいです」
「ここはホテルじゃないんだから、朝は頼んでも堅パンとスープとかだぞきっと」
「異郷です。それぐらいは甘受しますよ。亜空間タンクに予備の体を溜めておかないといけないでしょう?私は普通の回復魔法は効かないんですから」
「『生活魔法:リペア(修復)』で治るだろう?」
「それで治すと、しばらく体力が低下するのです」
「初めて聞いたな………なら仕方ないか。俺は食べたら後で吐かないといけないから、スキを見てそっちにスライドするな」
「そうですね、わかりました」
階下に下りると、食堂はまだ暗かった。仕込みをしているらしい少年に聞くと、パンと昨日の残りの冷めたスープぐらいしか出せないという。
「それでもいいので私に出来るだけたくさん下さい。連れは少しでいいそうです」
そういう水玉に、少年はきょとんとしていたが、すぐに顔を赤らめて「分かりました!」と言った。美人は得………と言っていいのかな?
代金を渡す時にチップをはずんでいたので、それだけではないのだろうが。
食事はすぐに出てきた。水玉は大きなどんぶりになみなみとスープ。そして多分固いな、という感じのパンが山盛り。仕込みの少年はどうも張り切り過ぎたらしい。
普通女性はこんなに朝ごはんを食べない。
だが水玉は、モリモリと平らげていく。
((こそっと)水玉。もしかして王族の試練で粗食にも慣れてるのか?)
(もちろんですよ。モンスターを食べていたのです。アレに比べれば………)
(そっか。俺の認識不足だったな)
(?)
(惚れ直したって事だ)
(!)
水玉は明らかに上機嫌になり
「この旅で、お互い惚れ直すでしょうね!」
などと言っている。
「今までの俺は予想通りか?」
「いえ、あまりに色々できるので、驚いていますよ?」
「そう言ってくれるとモチベーション上がるよ」
「そうですか?ふふ、私をリードして下さいね?」
「それが「お姫様」の望みなら」
他愛ない会話の間も水玉はモリモリと食べ続け、完食した。
気持ちいい食べっぷりである。
俺はいつまでも食べなければ怪しまれる。
だが今はいいだろうという事で、食べたふりで水玉にパンとスープをこっそりパスしておいた。夕食は食べなきゃいけないだろうけどな。
「よし、水玉。武器と防具を揃えに行くぞ」
「武器と防具ですか?でも私は………」
「そのままの方が強いのは分かってる、お前の素手は下手な鈍器よりよっぽど強い。だけどそれは不自然だから。あと、俺は普通に装備欲しいから」
「………まあ、そうですね。あと雷鳴が必要なら行きましょう。開いてますかね?」
「まあ、観光しながら行けばそのうち開くだろう『勘』でルートを選ぶか」
「期待しています!」
俺は水玉を連れて、大通りの方に向かった。朝から屋台が出ている。
水玉が目をキラキラさせてこっちを見ている。俺は苦笑して頷いた。
水玉は肉を串に刺して売っている店を選んだ。
両手に持てるだけ買ってるようだ、親父さんが慌ただしく肉を焼く。
俺は『勘』に従って、何種類もの豆を売っている店を覗いた。
天幕の中におばあちゃんがいて、表に飴が並べられている。
水玉が好みそうな―――かつそのままでも食べられるやつを聞いて、たくさん買ってから、俺はおばあちゃんに耳打ちする。
「おばあちゃんは、情報とかも売ってくれるか?アフ教徒について聞きたい」
「あんれまぁ、私の知ってる事なら何でも話すけどねぇ」
「金貨1枚。それでいい?」
「そんなにかい?そんな価値はないかもしれないよ、ぼうやぁ」
「それでもいいよ」
おばあちゃんから聞けたのはこんな話だった。
アフ教徒とは、奴隷の解放を功徳とし、教義にもしている連中だそうだ。
普通に考えたらいい事なのかもしれないが、彼らは「やりすぎる」のだという。
寒村から売られてきた奴隷、盗賊団なんかに捕まり売られてきた「裏の」奴隷の解放は、まあ「いいこと」なのかもしれない。だがそれでは済まないのだ。
アフ教徒は市民奴隷(市民が望んで奴隷になった奴隷。理由は様々。大抵将来解放の目がある)や犯罪奴隷(犯罪を犯して奴隷落ちした奴隷。死刑の1歩手前の刑)や戦争奴隷(戦争で捕まった兵士が奴隷とされる)も区別なく解放しようとするのだそうだ。
市民奴隷にしてみたら、逃げようとしたと思われるのでいい迷惑。
犯罪奴隷は本人たちは望む所かもしれないが、治安は確実に悪化する。
戦争奴隷も、結局行き場がない者たちなので、無法者と化しやすい。
戦争奴隷は今戦争がないのでいないそうだが、それを除いても犯罪奴隷の解放は迷惑だろう。それにこの街は港街なので、商品として奴隷が集まって来る。
アフ教徒によってもたらされる混乱が大きい町なのだそうだ。
それと………とおばあちゃんは、声をひそめて
「あいつらは人族じゃないって話だよぉ。魔法で姿を偽っているだけでねぇ。アフ教徒っていうのは別の大陸から来たんじゃないかって噂だよぅ。この大陸にはほぼ人族しかいないから、それが本当ならアフ教徒は別の大陸から来たって事になるねぇ」
「別大陸からここまで来るのは簡単なのか?」
「北方大陸からなら大変でも船で来れるけどねぇ。だけど北方に居るのは人族と巨人族だけなんだよぉ。異種族のいる西方大陸には魔の大渦領域があってねぇ、船ではよっぽど迂回しないと来れないんだよぉ。アフ教徒は時間をかけて来たか、何か移動手段を持ってるんだろうねぇ」
「アフ教徒は何人ぐらいいるのか分かるか?」
「さあねぇ。混乱の中で確認されたのは、数人なのさぁ。だから詳しい事は………」
「なら、異種族ってどういう種族がいるのかは?」
「ありとあらゆる姿のものがいるとしか、聞いた事はないねえ」
「翼のある種族は?コウモリや、鳥の翼とか」
「ああ、それなら有名だぁ。この大陸にも有翼人はたまにいるんだよぉ。隠れ里があるって噂だねぇ。両方の翼が存在するはずだよぉ」
「ありがとうおばあちゃん。これ、お礼」
俺はおばあちゃんに、金貨を2枚差し出した。
「おやおや。こんなにくれるならとっておきを教えようかね。アフ教徒は「アフ神の聖名にかけて」とつけられた質問には正直に答えるらしいよ」
「ありがとう、おばあちゃん」
お礼を言い、俺は豆の袋を持って水玉の所に戻った。
この情報が、いつどんなところで役に立つのかは不明だ。
でも必要だと思ったのだ。『予感』もそう告げていた
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