第一世界 火の国の女王の憂鬱
鼻歌を歌いたいながら、片付けをしていると、コン、と杖の音が聞こえた。
「いいかしら」
「はいどう……眩しいっ!!」
思わずお客様に対して、手で顔を隠す。フフと笑い声が、なんとも余裕のあるお声だ。
「火の国の、女王陛下じゃありませんか!!」
キラキラとオーラを放つ女性は、紛うことなき火の国の女王だ。
「何やらおかしな移動喫茶が来たと聞いたから。フールだったなんて」
ふふふと笑いながら、ひまわりのドレスを軽くあげて椅子に座られる。一瞬王国の姿を想像出来て、ため息が出る。耳が早い上に、行動的なのは、どの世界でも一緒らしい。
「メニューは何があるの?」
「あ、こちらがメニューですが、お酒も取り扱っていますよ」
「そう。じゃあ、赤ワインのサングリアで」
ふふん、とご機嫌な様子の女王様に、似合うメニューだと思いながら、フルーツを刻み始める。
「先程、知的なお嬢さんが来ましてね、恋愛したいと相談されたんですよ」
「まぁ、可愛いこと」
「女王陛下は魅惑的なので、そういうご経験は豊富そうですね」
「……フール?」
「あっ、失礼しました」
トポトポと、赤ワインを注いでいく。
「まぁ、困りはしなかったけれど……今ちょっと息苦しいのよ」
「あら」
グラスを引き寄せて、女王陛下も先程のお嬢さんと同じようにため息をつく。
「今、側近が口うるさいの」
「あらあら、それは」
「聞いてちょうだい」
相談事でも、目が輝いているのは、女性性が溢れる方だからだろうか。
「女の教師なんだけれどね、あれはダメ、これはダメ、って本当にうるさいの」
「あー……」
想像出来る。
この女王陛下は、情熱的なところがあるから、色々なところに遊びに出たりしたいのだろう。それを、きっちりした女教師さんになると、同じ女性でも節操がない、と思うのだろう。
「本当に息苦しいわ。あの人何とかならないかしら」
グラスのリンゴを齧りながら、女王陛下は言う。
少し考えてみる。
「教師として、お伝えしたいことは多いとは思いますが、女王陛下の方が立場は上なので、全てに耳を貸す必要はないのでは」
「……は?」
フルーツを食べていた手が止まる。
また変なことを言ったかと、焦って口をどんどん動かす。
「情熱的な火の国の女王様が、魅力を発揮されなくてどうするんですか。自信を持って、輝いていた方が、国のためになるかと。大人しい女王様はお似合いにはなりませんよ」
両手を振って、言い訳をする私に、しばらくポカンとしていた女王陛下だったけれど、しばらくしてクツクツ笑い始める。
「それもそうね!!」
ぱぁ、っとオーラがさらに増す。
本領発揮しているようだ。
「この件、夫にも伝えてみるわ」
「国王に」
しばらくして、首を横に振った。
「クビなんて、そんな事されるのは」
「何を考えているの、フール。けれど貴方は、もっと愚かに考えてもいいと思うわ」
クスクス笑いながら、ドレスが揺れる。完全に吹っ切れたようだ。
「ありがとう。美味しかったわ」
「あっ、はい。またお会い出来ることを、楽しみにしています!!」
立ち上がって頭を下げると、ひらひら手を振って帰っていかれた。
とても目立つだろう。まぁでも、そこが魅力なのだから、いいか。
そう思いながら、サングリアのコップを片付ける。
『解説』
お客様:クイーンワンド
お話:吊るされた男、女教皇逆位置
アドバイス:魔術師
結果:皇帝
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