別れられない私と別れろと言う幼馴染

折上莢

第1話

「言い訳はしない。全部僕が悪いよ」


 はっきりとそう言い切る目の前の男に、言葉が詰まった。


「僕が悪い。もう二度としないよ」


 彼はわかっている。結局私が許してしまうことを。だから、私が許す前提で話をする。

 唇を噛む。彼の浮気は、もう何回目かもわからない。三回を超えた時点で、数えるのをやめた。その頃からだろうか、彼は言い訳すらしなくなった。「僕が悪い」と、理由は話さずそれしか言わない。


 どうしてこんな不安定な関係になってしまったのか。もう彼に対する信用はない。なのに、私は彼に縋るしかないのだ。

 涙を堪えながら頷こうとした。しかし、首は動かなかった。


「…いい加減にしろよ、お前」


 頭を抱き寄せられ、分厚い胸板に押し付けられる。怒りの色が滲んだ声音が向けられた彼がたじろぐ。


「何回も何回もりかを傷つけやがって。俺がどんな気持ちでこいつを諦めたか、わかってんのかよ、おい」


 ぎゅっと肩を抱かれ、堪えていた涙が溢れ出してきた。


 幼馴染のあつやは、彼氏を上から下まで睨みつけて、鼻で笑った。


「お前は俺のこと知らねえと思うけど、俺は知ってるぜ。お前の名前も、お前がりかを裏切った回数もな」


 なんで知ってるんだろうと、混乱した頭の冷静な部分が首を傾げる。あつやには、彼氏のことを相談したことはないはずだ。


「あ、あつや」

「大丈夫、俺がいるからな」


 優しい声が降ってくる。一瞬だけこちらを見た彼の瞳はどろりと煮詰まっていた。


「お前が悪いのはそりゃそうだ。二度としないとかいうお前のセリフは信じられない。今すぐ、別れろ」


 歯噛みした彼氏は、私を一瞥した後、悔しそうな顔をして去って行った。

 終わったんだ、と思った。でも、喪失感はなかった。


「大丈夫か?」


 そう言いながらこちらを見るあつや。心配そうな瞳の中に、執着が浮かんでいた。なんで、と思うより前に温かな体温に抱きしめられ、何も考えられなくなった。

 

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