第6話 わしらが悪かった。食わせてくれ
暴力的な匂いが、ダンジョンに充満していく。
鶏肉は、さっと焼き肉のたれをくぐらせてある。
どうだ、さっき手を上げなかった奴ら、匂いの誘惑は強烈だし、目の毒だろう。
本人たちは気が付いていないようだが、じわじわとこっちへ来ている。
子供たちは、結構早い段階で、ごめんなさいをして混ざっている。
ぼちぼち、焼きそばの第1弾ができたな、暴力的なソースの焦げる匂い。
皿に取り分け、鰹節を乗せマヨネーズと、からしを脇に添える。
そうそう、紅ショウガも要るな。
おれはその脇で、飯盒と土鍋の音を聞く。
うっすらとする焦げた匂いを嗅ぎ、それと同時にぴちぴち言い出せば、蒸らしに移行する。
本当は、最初に30分から1時間浸水するが、今回は省いた。
そして危険だが、一気に沸騰させて焚き上げた。
うまくいけばその方がうまい。
お焦げの状態が気になるが、今はそんな事も言っていられないしな。
塩と海苔でどんどん握って行く。
クエン酸がいるよな。
三角は梅干し入り。
俵は何もなし。
最初は握り飯が何か分からなかったようだが、俺や真一が食っているので、子供たちの手が伸び始めた。
「三角のは酸っぱいが、気にせず食え」
そう伝えたが、見事な酸っぱい顔が見れた。
人種は関係ないらしい。
「あっあの」
「なんだ?」
「わしらにも、分けてくれんか」
「分けて欲しいなら、言う事があるだろう? 違うか」
「あっああ。閉じ込めてすまなかった。わしらも怖かったんじゃ」
一応次々にごめんなさいと言い放ち、皿を持って行く。
一応、木製のフォークも出してあるが、手掴みでみんな食っているな。
「うまい。なんじゃこれは」
「この肉は、同じものか?」
「この黒いのが、うまい」
そう言って、皆がたれをなめ始めた。
「たればかり食うな」
中には、涙を流し、「もう死んでも良い」という奴まで出始めた。
魔王来ないよな?
その後、落ち着いた奴らを前に、説明をする。
「町へは俺たちが行って、様子を見て来る。その間に、食える物は少し置いて行く。日持ちするように、焼きおにぎりやスープも作ってある」
そう言うと、「おおー」という歓声と、拝む奴まで居る。
食い物は偉大だな。
「こっちの女の子なら、食い物で釣れるんじゃないか?」
真一が小声でそんな事を言ってくる。
困っている人間の弱みに付け込み、食い物で釣るなんて…… 真一の心ない言葉に、おれは…… WIN-WINか? と考えてしまった。
ちくしょう。もてない環境が、俺の心を、濁らせてしまった。
神よ、なぜこんな試練を与えるのです。
まあ、そんなことを聞いても、しらんがなと言われるだろう。
いや、神は何も答えない。ただ見守るのみだったか。
いいなあ。神になりたい。
「まあそれは、最後の手段だ。この人数。ずっと食わすと破産する」
すると、真一は首をひねる。
「一番金のかかりそうな肉は、ドロップするだろ。米は売るほどあるし、野菜は近所の休耕田を借りりゃ一発だろ」
「馬鹿野郎。全部持って来て、向こうの税金や光熱費はどうするんだよ、おれは、去年トラクター買ったんだ。ローンもあるんだぞ」
「ばかだなぁ。だから貸すって言ったじゃん」
「おまえ、一回3万て言っただろ」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
「でもよ、使うのなんか一時期だろ」
「そうだよ。一回3万でも安いことに、買ってから気が付いた」
「馬鹿だろ」
「お前に言われたくない」
そんな言い合いを、周りを囲む年寄りと子供たち。言っている内容は理解できないだろうが、静かに俺たちを見つめている。
そんな謎の空間。
はっと気が付き、周りを見る。
「まあなんだ、行って来るよ。町の方向を教えてくれ」
そう言うと、皆がバラバラの方向を口々に言い出した。
「ちょっと待て、あんたらばらばらに来たのか?」
「このグループは、近くの町プローペから来た」
「わしらは、近くの村じゃ。はぐれた奴らは、どこか別に避難をしておると思う」
「まあ状態は分かった。順に回ろう。じゃあ、大事に食えよ」
そう言って、一度ダンジョンから出た。
「まあ帰れるか、試すのが先だな」
そう言って石板に手を当てる。
最終階層だと思える、立派な扉の前に無事に到着できた。
「ああ無事に。帰る方の石板もあるなあ」
「なあ、広大一度帰らんと、食料のストックがやばいぞ」
「そうか俺もだな。一度帰って仕入れるか」
「それに畑も見ないとな」
「それは俺も一緒だ。帰るか」
その2日後。
「いい加減行こうか」
「そうだな」
そう言って、二人で潜った。。
「ああ、あんたら、助けてくれ」
アミサム側のダンジョン入り口へ、飛んだ瞬間、そんな声が聞こえた。
「なんだ?」
「食い物をくれ」
「はい?」
涙を浮かべて、訴える爺。
「おいていた、食い物はどうした?」
「それがじゃな。食ったら、無くなっちまったんだ」
不思議だろうという顔をしているが、何でだよ。
「そりゃそうだろう。無計画な奴らだな」
「いや周りで迷っていた奴らが、合流してな。人数が増えたんじゃ
」
それを先に言え。
「あー分かった」
俺も大概、お人よしだと思いながら、ダンジョンを下りていく。
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