第7話 町の様子

 奥に潜ると、確かに人数が増えていた。


「どいつもこいつも、栄養状態が悪そうだな。先に浄化と治療をしよう」

 口には出さなかったが、すごく匂いがやばい。

 不潔な状態で、ケガの悪化した奴が幾人もいるようだ。


 ちょっと聖魔法を使ったら、突風が吹きやがった。

 そして、空間に聖魔法特有のきらきらした光が降り注ぐ。


「これだけ派手だと、体に悪そうだな」

 そうつぶやいたら、

「うっ腕が生えた」

 とか、

「紫になっていた、足が生え変わった」

 と声が聞こえる。


「ああまあ、効いたのなら良い。おい真一、料理のお時間だ。状態が悪そうだから中華系の卵スープから行こうか」

 これは、鍋で湯を沸かして、鶏がらスープ系の中華ス-プの元をぶち込む。

 沸いたら鍋の中をぐーるぐるとかき混ぜながら、卵を入れるだけで誰でも作れる。


 アレンジとして、今回は細かく切ったハムと玉ねぎ、人参、エリンギ。それに長芋をすり込んだ。キノコは、エノキやシイタケでもいいし、ほかに春雨やふかひれを入れてもうまい。

 滋養たっぷりだが、死ぬほど熱くなる。

 そして冷めにくい。

 くくくっ。とどめに、片栗も入れてやろう。


 やはりこういう料理は、顔へ下からライトをあて、くくくとかひっひっひと言って作らねば。

 どうだトロミの付いた、何の罰ゲームかと思えるスープだ。

 慌てて飲めば98.382%は驚くだろう。

 ちなみに、不足分1:1.618は長方形黄金比だ。

 黄金スープにかけてみた。試験に出るぞ。


 一応、

「ゆっくり食えよ」

 と言って、今回買い込んできた、深めの椀に入れていく。

 わざわざ、100均で食器類とか倉庫にあった段ボールごと買って来た。

 こっちでも、違和感のないと思える木製の器。

 それと俺は、今回の件で、某大手通販会社で安物のCNC旋盤を買った。


 木材の加工品なら、自分で作った方が安い。

 まあ、真一がこっちで売れるんじゃないか? という口車に乗っただけだが。

 金貨や銀貨があれば、鋳つぶして日本側で売れるだろうという魂胆だ。


 そして、みんなが叫んでいる間に、また米を炊く。

 羽釜を買って来たので、竈を土魔法で作り熱を加えて焼成する。


 壁際に、蛇口付きのタンクを設置して、魔法で水を充てんする。

 きちんと0.4 mg/L 以下になる様に、次亜塩素酸ナトリウムも入れておく。

 家の井戸水調整用だ。


 その間に、シェフ真一は今回、焼うどんを作っていく。

 前回食った奴らは、変な顔をしているが知らん。

 乾麺は、日持ちするから便利なんだ。


 食い方。まあゆで方は、教えてやろう。

 

 それにプレゼントとして、手斧を数本持ってきた。

 爺たちの武器なら、こっちがいいだろう。

 足を切る危険性はあるが、振り回さなければ大丈夫だ。

 むろん良いものではなく、ホームセンターで1本2千円程度の安物だが、きちっと研ぎ直してある。


「まあ食っていろ。俺たちは様子を見てくる」

 時間が思ったより経ち、ダンジョンの外はすっかり薄暗くなっている。

 だがしかし、俺たちの目は気合を入れると暗くとも、昼のように見れる。

 残念ながら、昼とは違い白黒に見えるところが残念だ。

 ちなみに、服は透過できなかった。


「まあ町から行くか」

 そう言って、見えるところへ、転移する。


「爺さん達が言っていたのが本当なら、この先……。こりゃあ、すげえなあ」

 町を見つけたが、その先は何もなかった。

 隕石でも降ったのかと思えるような巨大なクレータがあり、変成作用で底がガラスのようになっていた。


 周辺には、魔王の軍団関係者だろうか? 角が生えたやつや翼をもつ奴、足が蛇の奴や、蜘蛛、ムカデ。

 言っちゃ悪いが、逃げたい。


「正面からは無理だな」

「壁も結構高いぜ」

「お前がこう、補助をしてくれれば俺は越えられる」

 股の所で指を組み、振り上げる真似をする。


「お前は良いが、俺はどうするんだよ」

「そうかロープ。今度持って来よう。今短いのしかないし。軽トラの荷台用ゴム紐じゃだめだよな」

「お前なあ、せめて標識トラロープ位持っとけよ」

 真一が俺にぼやく。

「そう言うお前は、持っているのか」

「おう。任せろ。家にはある」

「馬鹿野郎。俺だって、家に帰ればあるよ」


「さーて、どうするか?」

 悩んでいると、真一がポンと手を打つ。

「良いこと考えた。魔力をさ。こうソナーみたいに撃つんだよ」

「索敵みたいにか?」

「そうそう。やってみる」

 真一が撃った瞬間。理解できた。だがこれまずいんじゃ。


「おお。なんとなく分かったよ。だが欠陥があるなあ」

 のんきなことを言う真一。

「皆まで言うな、分かっている。絶対敵も感じてやって来るぞ。逃げようぜ」


 そう、魔力を扱える奴なら、今の強力な魔力は、きっと頭の中で鐘がなるほどの勢いで感知できただろう。

 そしてそれは、確実に敵へと居場所を知らせたが、俺たちが予測したようには相手は動けなかった。


「今のは一体?」

 慌てているのは、四天王のビサモである。

「慌てなくていいよ。思いっきり興味がわいた。私が見てこよう」

「魔王様自ら? 私たちがまいります」

「何を言っているんだい。今も、足がガクブルじゃないか」

「申し訳ありません。しかし今の魔力。下手をすると魔王様より……」

「うーんっ? いま、何と? ビサモ。怒らないから言ってごらん」

 キラッと、目が光る魔王。


「はっ。いやしかし、魔王様なぜ握りこぶしを? 全然安心ができません」

「はあぁっ。まあいい。ちょっと行ってくるよ。領主さんとの話は詰めておいて」

 魔王の視線の前には、門を破られ攻め込まれた後。捕らえられ魔王軍に下れと言われたが、かたくなにを拒否して、手足を切られて転がっている領主がいた。

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