第4話 助けてくだされ。えっやだよ。
「おい。道具を返せ」
そう言って、手が出てくる。
はっと気が付き、つい鎌を振る。
しかし、簡単につかまれ鎌を盗られた。
「何をする」
「やかましい。これはもともと俺たちの物だ」
「ちっ、ちがう」
行き倒れの若造め。
業突く張りの爺め。
「ほう。ここに書いてある文字。この土佐とはどこだ? 打ち刃物ってなんだ? さらにここに貼られた、シールのキャラは何だ? 言ってみろ」
「そのキャラというのは、スライムじゃ」
ああ、しまった。
遊んでないで、収納しよう。
「なっ魔法」
こいつ、ひょっとして、名のある冒険者か?
「せっかく手に入れた、わしの武器をかえせ」
「武器だと。ふざけるな。これはな、俺達農家の為に鍛冶屋が一生懸命作ってくれた草刈り用の道具だ。そっちの鉈も枝を払ったり木を細かく割ったり非常に大事な道具だ。武器になどするんじゃねえ」
そう言うと、年寄りたちはガーンと雷に打たれたようになり、膝をついた。
冒険者かと思ったのに、農家じゃと。
「あんたら、農家だったのか」
「そうだよ。だから返せ」
そう言って取り上げる。
「鞘とベルトも返せ」
このオタクのシールは、真一のだな。
「そう言えば真一。ここ異世界のようだから、本気を出せよ」
「うん? ああ、そうか。しまったなぁ。まあ明日からは本気出す。たぶんな。俺の本気はすごいからな。めったに見せられないんだ。残念だよ」
そう言って、へらへらと笑ってやがる。
「それ、絶対しない奴の、言い訳だよな」
こそこそと、ドロップした肉を拾っている爺。
そう言えば、これも不思議なんだよな。
「なんでオークなら、肉をドロップなんだ? それも豚肉っぽいし」
「そんなことなら、ダンジョンだからで、なんとなく理解できそうだが、なんで言葉が通じるのか、そっちの方が不思議じゃないのか?」
げっ、真一が…… 真一のくせにまともな所を、疑問に持ちやがった。
なんという事だ……。
「それはだな、ご都合主義。それとも、どこかで力を貰った」
「ご都合といわれりゃ仕方が無いが、途中爺さんにも女神さまにも会ってないぞ」
「爺とばばあなら、今も会っているじゃないか」
「いや違うだろ」
ちょっと考える。
「いいか真一。人類の創生から、ゴールデンば…… 間違い。もう一回。いいか真一。人類の創生から、人類は言語を喋っていたわけではない。そうだろう?」
「おう。そうだな」
「たまたま偶然、生命が誕生して、人型生物が誕生する奇跡。それに比べれば、異世界の基本言語が日本語だったという偶然くらいあるだろう。もしかしたら、地球の神様と此処の神様が仲良しで、遊びに行った地球で、日本語を聞いて素晴らしいとなって、ここの人類に授けたかもしれないじゃないか。そうだろう。そうだよな。納得できるだろ。納得できると言え」
「おっおう。そうだな」
「よし。なんの問題も無くなったな」
「あのう。あんたらいったい、どこから来なすった」
「さっきも言ったじゃないか…… 別の婆に……。 いやすまん。地球だよ。地球それは素晴らしい奇跡の星。銀河系のオリオン腕に存在する、太陽系第3惑星。月と言う衛星を持ち、その重力により干満が生まれ、奇跡のような生命がはぐくまれた星だ。そこの日本だな」
それを聞いて、爺さん達は当然呆然とする。
「よく分からんが、アミサム王国の人間じゃないのか?」
「違うな」
「そこの農家が、どうしてこのダンジョンの前で、倒れていたんだ?」
「うーんー? よく分からないな。こっちへ来たら、気持ち悪さと頭痛がしてな」
「ああ。魔力酔いか。この辺り、魔王の使った大規模魔法の影響で、魔素が異常に多くなってな。あの攻撃の後。皆1~2週間ほど寝込んだんじゃ」
うん? 魔力酔い?
「炎よ。わが手に集いて、かの敵を撃て獄炎」
すると、今まで自分で撃ったことの無いような、炎の球が出た。
「うひゃー」
シールド。
「あー、びっくりした」
ああ。真一までびっくりしている。
「なんだ今の?」
「すごく軽く撃った、ファイヤーボール」
「あれが? まあ、お前が訳の分からん詠唱するときは、基本しょぼい魔法だものな」
「びっくりだぞ。お前も撃ってみろよ。火は危ないから氷辺りかな」
「じゃあ撃つぞ。ほれ」
「ドン」
と凄い音がして、直径1mはありそうなアイスニードルが出た。
床や壁にぶち当たり、砕け散りながら降り注ぐ。
「なっ。危ないだろう」
シールドを解除しながら、俺がそう言うと、真一は壊れたように頭をぶんぶんと振り頷く。
「いままで、ゴブリンくらいにしか、効かなかったのに。すっげー」
「やっぱり。あんたたち、名のある魔法使いじゃったのか。助けて下され」
「えっ、やだよ。俺たち、ただの農家だもの」
そう軽く言うと、周りのジジババから、
「「「うそをつくな」」」
と大合唱が来た。
「いや、本当だよ」
そう言ったのに、勝手に身の上を喋り始めた。
「昔々、ここは緑豊かな国でな、わしの若いころはばあさんと、弁当を持ってな……」
俺は腕をくみ、威圧をかけながら言う。
「そんな昔からかぁー、とは突っ込まん。喋るなら、魔王の件からにしろ」
「ちっ。せっかくラブラブな逢瀬を、語ろうと思ったのに。魔王が来るまでは、いい場所があったんじゃ。外でするのは癖になるぞ」
俺はそっと鉈を取り出し、爺の首に当てる。
「武器にしとるじゃないか。おう、そうじゃな。魔王魔王と…… 魔王が来てな、困った」
その時。俺の頭の中で、何かが切れた。
「言葉はな、大事なんだぞ。多すぎると聞いてもらえないし、少ないとなぁ。勘違いで鉈が滑ることもあるんだ。分かったか」
「短気な奴じゃな」
「爺のジト目はいらん。まともに語れ」
「語って良いのか?」
「本気で切るぞ……」
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