第3話 話を聞く。うんなしだな。

「アミサムはアミサム王国。ほかに言い様は無い。コンテネンス大陸を真ん中の山脈で分けて、アルテリウム王国とこの大陸を統治していた」

「ほう。そうなのか。そりゃあれだな、全く聞いたことがない」

 横を見ると、真一も首をひねっている。


「なあばあさん。地球って聞いたことがあるか?」

「誰がばあさんだ。私はまだ55歳だ」

「そうなのか? 欧米系のせいかな。それとも苦労しているのか?」

 俺が言葉を濁したのに、真一が

「そうだな。ないな」

 と言いやがった。


「ないって何がじゃ」

「いや気にするな。で、地球だが?」

「そんなもの知らん」

 自称ばあさんじゃないと言い切った、ばあさんみたいなおばさん?が知らんと言いきった。


「知らんか。真一どう思う?」

「そんなもの、ダンジョンを抜ければ、異世界だったに決まっている」

「なら、やることは一つ。速やかに、戻れるか確認しないと、まずくないか?」

「そうだな。帰らないと俺も通販で買った例のあれが届く。親に見られるとさすがに引かれるからな」

「なんだ? そんな怪しい物買ったのか」

 そう聞くと一瞬悩むが、白状した。


「ああ。999の再現を作ろうと思って、レール用に透明アクリル材料買ったんだよ」

「そんなもの見られたって、恥ずかしくないじゃないか」

「いや折角だし、同梱で送れそうだから、スペイン語で持つって言うのもついでに試そうかと思ってな」

「スペイン語?ああ。若いなお前。まあ、行方不明にされる前に帰ろうか。時間軸が同じとは限らんからな」


「おいばあさん」

「ばあさんじゃないと、言っておろうが」

「じゃあ、お嬢ちゃん。俺たちの荷物は何処だ?」

「フン言うもんか」

 そう言って、顔をそむける。

 かわいくないぞ。


「なんだと。人のものを盗って返さないのを、盗人というんだ。さっき人の事を盗賊扱いしたが、お前らの方が盗人じゃないか?」

「ぐっ。いや宿泊料だ。あんな危険な所で寝ていたのを、助けやったんだ。感謝しな」

「口の減らないやつだな。まさか海賊の女船長か? ド○ラとか言う名前じゃないよな、おとなしく返さないとな。恐ろしいことが起こるぞ」

「なんじゃ。脅しても駄目じゃ」

 じっと見つめていると、ふっと目をそらしたばあさん。


「よし。真一。返してくれと駄々っ子のように泣け」

「できるかぁ。馬鹿だろ。お前」

「ここには知り合いはいない。旅の恥はかき捨てだぁ」

「じゃあ、お前がやれよ」

「えっやだよ。あ~あ。あれ、高かったのに。山田の土佐打ち刃物の逸品なんだぞ」

「まあ。ばあさんが言わないなら、向こうにいる奴らに聞けば知っているだろ」

「それもそうか。そんじゃあね」

「あっ、ちょっと待て」


 文句を言っているばあさんを置いて、声のする方へ走る。

 まあ、俺たちの身体能力なら一瞬だ。


 開けた場所に居たのは、年寄りと子供だな。


「あれ、おじちゃんたち。出てこられたの?」

 小学校低学年くらいの女の子が走って来た。

「うん。たちの、持っていた道具は何処かな? 教えてくれたら飴ちゃんあげるよ」

「飴ちゃんてなあに?」

 うん。ああそうか。

「はい、あーん。前金だよ。口開けて」

 飴玉を取り出し、口に押し込む。

 今のはパインかな? 絵面は通報案件だな。

「んー。あまあい」


「良し喰ったな。教えろ」

「えーでもー。もっとくれたら教える」

 やはり女の子。この年で、男を手玉に取る術(すべ)を知っているとは。

「一方的な搾取は認められん。対価は必要だ。答えないなら、その腕一本置いていけ」


「ひっ…… うわーん」

 あー。ギャン泣きされた。

 これだよ。さっき真一がこれをすれば、きっと道具を返してくれたのに。

 泣く声を聞き、殺気立った者が集まってくる。


「おら、道具を返せ」

 そう言って、立ち上がる。

 殺気のお返しに、こっちもちょっと殺気を振りまいてみる。

 阿鼻叫喚とはこれ如何に。

 目線は、あっちか。

 爺が、ちらっと見た。


「あっち、ぽいぞ」

 そう言って、奥の通路へ二人で進む。


 やっぱり、ダンジョンの中だったか。

「3つ下がってドア。あそこ7階だったのか?」

「いや、向こうと同じで、10階ごとにボス部屋とは限らないんじゃないか?」

「それもそうか、このドアってさ、中に別のチームが居たら開かないとかあるのかね」

「さっき出てきていたのって、ゴブリンに、あとはコボルトとかホブ系もほんのちょっと前に出たくらいだ。絶対階層は浅いぜ」

「開けるか。……へいへいお邪魔しますよ」

 そう言って、ドアを開けて踏み込む。


 その瞬間、聞こえてくる怒声。

 居たのは、オーク君と兵隊ゴブリン。

 爺さん達とばあさん達が、俺たちの道具を握りしめ戦っている。

「あれって、ドロップ狙いか?」

「そうだな。豚肉が落ちるもんな」

 俺たちも山のように持っている。

 亜空間収納庫の中で眠っているから、傷んではないだろ。


「あのゴブリン。杖持っているし、少し大きいな。ホブだぜ」

「どうする?」

「目の前で死なれても面倒だし、道具も壊されちゃ困る」

「行くぞ」

「ほいよ」

 その瞬間。空気がはじけた。


 戦っていた爺さん達は、目の前でモンスターが爆散するのを見た。

 あるものは、鎌を振り上げた瞬間。

 あるものは、鉈を横なぎに振った瞬間。

 相手か消えた。

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