第2話 定番。知らない天井。横には見知ったおっさん
「ああ。知らない天井だ」
目を覚まし。起き上がろうとするが、あれ? 芋虫状態に縛られているんですが。
「おい。真一、起きろ」
こそっと、静かに叫ぶ。
もぞもぞと、体を動かして回転する。
幸せそうに寝ている真一を蹴る。
思ったより、クリティカルに決まったらしく、
「がはっ」
とか叫びやがった。
「馬鹿やろう。叫ぶな、静かにしろ」
思い返せば理不尽なことだが、焦っていたんだよ。
「おう、広大。うん。こりゃ一体なんだ?」
「知らねえが、おれらダンジョンの入り口で倒れたよな?」
「ああそうだ。確かに気持ち悪いし、頭痛はするしで、最悪だった」
「ああ。今も、状況を考えると最悪だ。木の格子が組まれた、どう見ても牢屋だ」
真一は足元側の格子を見て、理解したのだろう。一言。
「うそーん」
とつぶやいた。
「外の状態を、見られるか?」
「ちょっと待ってろ」
体を回転させて、ころころと転がり、組まれた格子へと近づく。
格子の材木は太いから。見える範囲が狭い。
「あー洞窟っぽい」
確かに、壁や天井を見て、それっぽいとは思ったが、やっぱり洞窟だな。
「ダンジョンが、盗賊のねぐらにでもなっていたのか?」
「さあな。じゃあまあ、先にロープを切ろうぜ」
「そうだな」
農家の癖で、仕事着の至る所に道具が刺さっている。
鎌や鉈はとられたようだが、マルチツールを取り出し、切ろうと思って、力を入れたら勝手にロープががちぎれた。
「何だこれ? 何か草を編んだものだな。簡単に切れるよ」
そう言って、ぶちぶちちぎる。
「あら、本当だ。少し力を入れれば、ちぎれる」
「さあてと、武器は、マルチツールと、チェーンソー用目立てやすり」
「なんで目立てなんか持ってんだよ。俺はライターとタバコ。ポケット瓶。中身はバーボンだ」
「いいなぁ。後で分けてくれ。さてと、良し。何も聞こえない。この格子はどう組んであるのかな?うん? おい。これって完全にはめ殺しだぜ。うーん? ああそうか」
そう言って俺は、一番下を持って手前に引く。
「ゴン」と言って何かが引っ掛かっている。
腹ばいになって、のぞき込む。
3か所ほど棒が出ているな。
マルチツールを、マイナスドライバーにして棒を持ち上げて見る。
うーん。連動してない。
手探りで、ロックを探す。
「ここと、ここ。後はこれか」
縦棒に、横木を刺す閂タイプのロックだった。
「よいせっと」
持ち上げてくぐる。
そっと閉じて。真一が言ってくる。
「なあ。苦労したところすまん。これって、収納すればよかったんじゃないのか?」
「……おまえなあ、早く気づけよ。這いつくばって馬鹿じゃないか」
当然俺たち、魔法も習得している。
亜空間収納なんて、初期装備だ。
それに、見えているんだから、転移でもよかった。
「お前が気が付いても、よかったんだぜ」
「まあなんだ、お互い様だな」
耳を澄ませて、周囲の様子をうかがう。
「あっちから、声が聞こえる」
「じゃあ反対側が出口か?」
俺が指さす逆を、真一がこぶしを握り親指で指さす。
「うーんまあ、行ってみるか」
そう言って、声のしない方へと向かう。
何と言うことでしょう? 進めば声が聞こえ始めた。
「なあここ。くるっと回っている?」
「そうだな、ウォークインクローゼットみたいな感じかな」
「牢屋だから、収納には違いないな」
「ぷふっ。馬鹿。笑わせるなよ」
声を殺して笑っていたが、気配を感じて壁に張り付く。
当然、出っ張りとかがあるわけじゃないので、壁に張り付いたおっさん二人。
私は壁。気が付かないで。
そう願ったが、無理なようだ。
「お前たち、どうやってあそこから出た」
「「歩いて」」
「おう、気が合うな」
「何年の付き合いだと思っている」
そう言って、ハイタッチをする。
気を取り直して、目の前の婆に聞く。
「と言うことで、なんで俺たちをあそこに閉じ込めた。俺たちはただ静かに、気を失っていただけ? だったはずだ。そうだな」
そう言うと、真一も頷く。
「あんな所で気を失っているのは、大馬鹿ものか、どこかから逃げてきた難民か盗賊だからじゃ」
ばあさんに言われて、考える。
「うん? 難民でも盗賊でもないな」
「じゃあ俺たち、大馬鹿ものだな」
真一がぼける。
「まあ正解だよな。具合が悪くなったとき、すぐに飛べばよかったもの。だろ」
「だろ。じゃねえ。すぐに人のせいにするな。お前も倒れたじゃないか」
ウーと唸りながら、にらめっこをする。
ばあさん訳が分からず、きょろきょろとしている。
「でだ。ここは何処だ? 俺たち、盗賊が出るよな場所は、知らないんだが」
「そうだな。たまに消防署の方や電話局の方から人が来るくらいだな」
「馬鹿野郎。最近はなあ、日本瓦に塗装をするのが流行りなんだぞ。焼結された釉薬が10年でダメになるらしいぞ」
「なんだと。そりゃ知らなかった。世の中結構知らないことが多いな。あれってガラスみたいなものだから、湯のみや茶碗も釉薬が剥げるのか? 体に悪そうだな」
そう言っていると、ばあさんはまたおろおろし始める。
「お前さんたち、一体どこから来たんじゃ?」
「本山の方から」と俺が言うと、同時に真一が「高知の方から」と言いやがった。
「馬鹿野郎違うだろ。日本の方からです。ここは何処でしょうか?」
「そんなもの、アミサム王国に決まっとろうが。元じゃがな」
「「どこだよ。それ」」
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