ユーザー大集合‼

これまでもユーザーは死んできた。その数100人以上。だがそれはゲームが始まってから間もない、まだ戦力が整っていない序盤の出来事。



仲の悪い国家同士のユーザーによる交流戦での死亡が10人ほど。



第1回イベントで、観光地気分で碌に戦力も率いずにイベントエリアに侵入し、異世界軍にやられたのが数十人。



第2回のイベントではユーザー間の連携もまだ未熟で異世界軍に正面から殺されたり、暗殺者を送られ十数人が死亡。





上位ユーザー同士の潰し合いで数人。身の程知らずにも上位争いに参加したユーザーが数人。


殆どのユーザーは、積極的に他のユーザーを殺そうなんて考えていなかった。


連盟や連合だってそうだ。敵のユニットを撃破し、イベントでポイントを稼ぎ国家を発展させる。


殆どのユーザーは同じユーザーを殺し、国家を滅ぼそうなんてそこまでのことは考えていなかった。



イカれた上位陣は知らないが、下位中位ユーザー同士の中には、同じ地球人であるという連帯感のようなものがあった。いきなり王となった極限状態で、数少ない同じ環境の者同士、孤独を紛らわせることのできる相手だったのだ。


それに、殺したら非難されてしまう。指定されているされていないにかかわらず、もし他のユーザーを殺してしまったらそれは地球人を殺したら犯罪だ。もし母国に帰ったらどうなるかわからない。外交問題にまで発展するだろう。



それに、異世界軍との戦いのこともある。潰し合って異世界軍に負け、地球に転移ゲートが開いてしまってはどうしようもない。



だから、目の前で起きたことは誰も予想をしていなかった。





山田竜が武闘派であることは、わかっていた!!


だから、まさか、そんな。


こんな、躊躇いも無く殺す、人格破綻者がいるなんて⁈






黄金となり絶命した姫様。山田は躊躇なく、黄金像を殴り砕いた。



「姫様ぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」


絶叫する【恐怖政治】心酔していた姫様が、いきなり粉々になったのだ。無理もない。




そして、山田はその隙を見逃さない。




【ガチャコール】



呼び出したのは魔剣バルムンク。パニックに陥る【恐怖政治】を切り裂き、追撃として蹴り飛ばす。



【恐怖政治】は天幕の柱に直撃し、ゴキッという嫌な音とともに、動かなくなった。



【契約者】は目の前の光景が理解できなかった。

何が起きている⁈

運営のルールを上書きしたのか⁈信じられない!





驚愕しながら、詠唱を始める。

【契約者】の能力は幾つかあるが、そのうちの一つに、特別な契約書を作成、契約することで、一回限りの使い捨てではあるが契約相手の能力をワンランク落した能力を使用できるというもの。


本来なら、それ相応の代価を払い、頼み込んで契約書にサインして貰う必要があるが、陛下の意向の元、連盟内のユーザーやユニットは殆ど代価を払わずに契約して貰い、さらには捕虜とした天使を脅迫することで無償で契約書を作成。最強クラスの能力を何の代償もなしに連発できる。



使用する契約書は、氷を操る大天使との契約書。この距離で使えば、何の備えもしていない攻撃対象は即時凍死する恐ろしい代物。



だが。



「だ、大天使よ、約定に従い…」


「隙が大きい」


それは、詠唱終了まで山田が待っていてくれたらの話。発動まで無防備な隙を晒したのは絶好の攻撃機会を与えてしまい、【恐怖政治】と同じように



(そんな…馬鹿な…私がここで…)



【契約者】は自らの死を悟った。しかし、【契約者】には希望があった。姫様は不測の事態を予測して、何重にも対策を練っていたのだ。



山田は、希望を失っていない契約者の目を見た瞬間、直感。



特に何かあったわけでもない、ただ何となくそうした方がいいと感じ、後ろを向いて横に剣を振り払った。


勿論、そこには何もない。そのはずだった。



「手応えがあったな」



山田の足下にさっきまで影も形がなかった男が、体を上下に切断された状態で倒れ、絶命していた。



その男は、驚愕の表情で山田を見つめていた。



彼の能力【インビジブル】は、視覚嗅覚聴覚触覚味覚、人間の5感では絶対に感知されないという、暗殺に特化した能力者。本来は山田がルームから退出時にこっそり尾行して、そのまま山田の治める国に潜伏、スパイとして情報を入手するという能力。




しかし、山田は直感に優れていた。彼の直感の前には、無意味だった。



なんで?



【インビジブル】は信じられないという表情で、絶命した。



【インビジブル】ルシウス・ボルテックス死亡。

【契約者】ロイド・ガリバルディ死亡。





さて、残るは外にいる有象無象か。警戒すべきは、あの騎士達だな。あいつらだけ練度が桁違いだ。



そのとき、バサリという音がした。天幕の入り口の布が開かれるようなそんな音。


山田が気づいた。さっき天幕の柱に蹴飛ばした男がいないということに。

観察すると、血痕が天幕の出入り口まで続いている。





「仕留め損なったか」




瀕死の状態で天幕の外に逃げ出した【恐怖政治】は残った全ての力を振り絞り、絶叫する。




「ロイドと姫様がやられた!プラン変更だっ!今直ぐにこいつを」




【ガチャコール】


ゲパルト対空戦車、対空砲のみ召喚。



そのまま構え、【恐怖政治】に弾丸の雨を放ち、絶命させる。



【恐怖政治】ハリス・ブルーフィールド死亡



そのまま山田は辺りで目の前の光景が理解できないと言わんばかりに固まったユーザー達を相手に掃射する。



「ペギィ」

「ガハッ」




直撃こそはしなかったが、数人のユーザーに命中し苦痛を与える。


だが一人のユーザー【結界師】はすぐに対応し、冷静に味方に結界を構築、弾丸の雨を防いだ。




「おお、やるなぁ!」




「助かった‼俺たち二人でやるぞ‼」


「気にするな!クソッ、銃器の持ち込みだと?ルール上は不可能なはずなのに‼」




そのまま【結界師】は山田の周辺に結界を構築。逃げられないように動きを封じた。


山田は結界を剣で切り開こうとする。



「堅っ⁈」


【結界師】の構築する結界は最高クラス。山田でさえも斬るには時間がかかる、非常に細かく練り上げられた芸術の域。



『結界師』フー・ウーの能力はさまざまな結界を張ること。もし山田が仲間になることを拒否した場合、最高レベルの結界を張り餓死寸前まで閉じ込めることが役割だった。




身動きの取れなくなった山田に、【人狼】が襲いかかる




「龍の顎!」


『人狼』グリム・フェルトの能力は捕食した生物を模倣再現する物。


グリムは自らの右腕を龍の首に変え、山田を捕食しようと襲いかかる。



山田は回避が不可能と判断。左腕で受け止める選択をした。



【人狼】の攻撃が結界に衝突する直前に結界が解除。その隙を突き、山田は犠牲が左腕だけで済むように体勢を整える。





そのまま、山田の左腕は噛みちぎられた。


「グッ、がガァぁぁぁぃぁぁぁぃぁぁぁ‼いてぇ!」



根元からやられた‼まずい、左腕だけじゃなく、肩まで持って行かれた‼


左腕はいくらでもシルバースライムとして即時再生できるが、肩はそうはいかない。山田は左腕の再生の前に、肩をオートで発動する回復魔法で治癒しなければならないが、その回復速度は非常に遅い。





だが【人狼】はミスを犯した。


別にわざわざ、食べる必要は無かったのだ、竜の吐くブレスで吹き飛ばせば、それで終わりだった。


ユーザーを喰らい、その能力を得る。欲が出てしまったのだ。



●寄生虫が発動します



突如として【人狼】の皮膚をつき破り、蛆虫が【人狼】の体を貪りだす。





「あああああああああああああああ‼」



堪らず、【人狼】は左腕を吐き出す。

しかしそれで寄生状態は解除されない。



「リチャード⁈」


「俺のことは良い!ぐるぞぉぉぉおぉぉぉ」



「余所見すんなよ」


「ッ、四季結界!」


結界師は山田の攻撃を防ごうと、自らの周りに結界を張る。

それは、あまりにも悪手だった。

【結界師】は、右腕の黄金を見ていないのである。


「ざーんねん‼」



山田は、結界を右腕で触れた。ミダースの手の発動である。



「しまっ」


結界は、使用者を守る物でなく、閉じ込める黄金の檻となった。


身動きのとれない【結界師】を黄金ごと魔剣で一刀両断。


黄金は真っ二つに切られ、切り口から赤い血が流れ出す。




【結界師】フー・ウー死亡


【人狼】リチャード・ホーエンハイム死亡






「軽くなったな。何かしてたな?」


結界師は、事前にルーム内に味方に対するバフとデバフを行う結界を張り、能力上昇効果を付与していた。だが死亡してしまい、その結界も解除される。





さて、次は…


「バキュン!」



飛来する、世界から隠された魔弾。


【魔弾】マイケル・クリスハイトは、多種多様な弾丸を生成する。


1発で仕留めるため、あらゆる生命体から察知されない、世界そのものから隠す、正に神出鬼没の弾丸。



だが、直感に優れた山田には効果がない。




「今のを避けるか!信じられねぇ!」



魔弾を撃ち続ける。死の概念が込められた魔弾、全てのエネルギーを吸収する植物性の魔弾、魂を殺す魔弾。


【魔弾】が貯めていた、高級弾丸を出し惜しみもせず、撃ち続ける。



だが、それらは魔剣により弾かれる。




「どうみる?」


「まぁまぁだな。アイテムがホムンクルス製造機っていうのは間違いだろう。だが、能力がホムンクルス育成説は外れたな。あそこまで戦闘型の能力だからな。どういう能力かは不明だがな」


「それがわかれば十分だ。不要なリスクを負う必要はない。さて、帰るぞ。うん?どういうことだ?なぜ退場できない?」


「マジかマジかマジか!」


「お前も弾丸を無駄遣いするな。さっさと帰るぞ」


「そんなこと言ってる場合か!来るぞ!」


「は?」


「ギャハハハハ‼命頂きィィィィィ」



山田は魔剣を投擲し、それは瞬く間に3人の首を刈り取った。



『魔弾』マイケル・クリスハイト死亡

『記録員』ピーク・ダンドア死亡

『記者』エドガー・ラッセル死亡





「ガチャコール」


山田は投擲した魔剣を呼び出す。




そして周囲には、4人の騎士が山田を取り囲む。




四騎士。イギリス人ユーザーと彼に忠誠を誓う3人のユーザーで構成された、連盟の精鋭たち。特にリーダーの【太陽剣】は特定条件下で不死身という恐るべき能力を保持しており、戦闘能力はトップクラス。



「先走るな!四方向から同時に行く!右腕に気をつけろ!触れたらそれで終いだ!得体がしれん、最大限警戒しろ!」


「事前情報とは大違いだ、クソッタレ…!能力はホムンクルス育成じゃなかったのか⁈」


「何としてでも、ここで仕留めるべきだ!ホムンクルスと合流されたら手がつけられなくなるぞ!」


「地球人同士なのに、どうしてこんな事に…」


彼らの周囲に突如として、高純度の光属性エネルギーが巻き起こり、手元に収束し、一本の剣状となる。あらゆる邪悪を祓う、聖なる剣。

物理的にも概念的にも、文字通り純粋な光は、全てを蒸発させる。



『光の剣』


イギリス指定ユーザーであるダン・ウィンストンの能力『太陽剣』を磨き、熟練度を一定以上の数値にまで達し、かつポイントを使用して獲得した派生スキル(もちろん山田にこの機能は解禁されていないし派生スキルの存在自体知らない)


三人とここにはいない数人のユーザーに対して配布済み。



無から生み出せるため、武器持ち込み禁止のこのルーム内でも携帯し武装可能。



4人の連携攻撃があれば、山田相手に相打ちにまで持っていけただろう。




だが、そうはならない。



彼らは、ただ、運が悪かったのだ。


最初の犠牲者となったのは、【従者】ウィリアム・ヨーク。彼は一人のユーザーを指定することで、そのユーザーの能力を飛躍的に上昇させ、その好感度、忠誠相手の素のステータスに応じて従者自らの能力も上昇させる。



【従者】ウィリアム・ヨークは山田に対して斬りかかる。



【従者】ウィリアム・ヨークの足下には、とある物が落ちていた。



左腕が、落ちていた。



【自爆】発動



「ドカン!」


地雷を踏んだかのように後方に吹き飛ばされていく。


『従者』ウィリアム・ヨーク死亡。




「ッ、ウィリアム!」


密接な感覚が仇となった。他の2人は犠牲を覚悟の上、従者の死を無駄にしないために、速度を緩めることは無かった。


だが、【正義】のハリー・クロスロードは、見捨てることができなかった、生きているという希望を捨てることが出来ず、足を止めてしまった。




「馬鹿もん、止まるな!」


「梅花剣法」


「ッ、く、くそががががががががっががあ」



後方に注意を払った瞬間を山田は見逃さない。迎撃体制も取れず、体勢を崩しながら受け止めようとする。


しかし、それでもなお。【正義】の剣術は山田を上回っていた。【正義】の能力は対象のカルマステータスと自らのカルマステータスを比較し、その差が大きければ大きいほど能力が上昇する。山田の天敵であった。




しかしそれも、正面から戦えばのこと。体勢が崩れた【正義】を斬り捨てるのは造作も無いことだった。




『正義』ハリー・クロスロード死亡。



「うわぁぁぁぁぁぁ、よくもぉ!」


「待て‼一度引いて立て直すんだ‼」





半狂乱となった騎士は、【太陽剣】の声も聞こえずに突撃する。


たった数秒で二人も盟友を失った。理性で判断することができなかった。



【機械人間】クリス・マッケンジーは、自らの体を機械へと改造している。


目はカメラに、内臓はより高機能の機械に。



彼の高性能な演算装置は、すでに山田の剣術を学習していた。単純なステータスではユーザーの中でも上位に位置し、学習能力と適応能力はユーザーでもトップクラス。



惜しむべくは、彼も運が無かった。山田が天敵であったのだ。




●錆神【滅】権能発動。対象の金属を限界まで酸化。




機械人間、クリスマッケンジーは、茶色の粉と成って崩れた。

光の剣だけが、地面に突き刺さる。



【機械人間】クリス・マッケンジー死亡





「ぬおおおおおおぁぁぉぉぉぉぉ‼」





山田は太陽剣に全力で攻撃を加え続ける。



硬いな、いやそれだけじゃない。傷を与えても即時再生する程の再生能力!体から満ちあふれる高純度の魔力!


だがいちいち攻撃が大雑把!回避しやすいが、純粋な力では最高レベル!1発でもくらえば全身がズタボロになるぞ!



…そして。彼もまた、山田が天敵だったのだ。




●太陽特攻発動中。


落ち着いて観察すれば、確かに太陽の光が目の前の騎士に集まっているように思える。

そしてこいつはさっきから、俺の影に入ることを避けている‼



なるほど、これがこの太陽に照らされたルームを選択した理由か!


おそらく、こいつは太陽が出ている間は無敵‼倒しきるのは困難‼






なら、天候を変えれば良い。



【ガチャコール】



召喚したのは、黒いリモコン。ボタンを押すだけで、猛吹雪へと天気が変わる。



たった一瞬で、周囲が曇り、吹雪が吹き始めた。


先ほどまで圧倒的な存在感を誇っていた【太陽剣】は、今では見る影も無く弱体化してた。



「斬」



「ありえん…この私が…」



【太陽剣】ダン・ウィンストン死亡。





「さむっ」








あたり一面に転がる死体。つい先程まで生きていたため、まだ温かい。


返り血に染まった、剣を持つ男。





「ひっ」




「時間がない。さっさと終わらすぞ」





「あ、ぁ…四騎士が死んだ…」


「何で退出できないんだ!運営!不具合だはやく修正してくれ!」


「やるぞ!敵はたった一人!数ではこっちが有利だ!全員でかかれば勝ち目はある!」


「死にたくない死にたくない死にたくない」


「俺がぶっ殺して、出世してやる!」


























●ユーザーを49名殺害しました。関連業績を獲得しました。




敵は全て潰す。


中位ユーザー同盟


あと218人




________________________________________


運営「ああああああああ、人気ユーザー達が大して活躍もしないまま、あっけなくしんでいくぅぅぅぅぅぅぅぅ‼」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る