同盟締結‼これからよろしくな‼

俺は総動員令を発令し、招待制ルームへと入場した。



そこは、辺り一面に広がる緑色の草原だった。


空に静止する太陽から放たれる心地よい日光が周囲を照らす。雲一つ無い青空だ。



………んんーーー。結構広いな。会議室みたいな空間をイメージしてたんだが。まあそれもそうか。敵は49人、わざわざ数の利を活かしにくい閉所で戦うことはしないだろう。




俺は開かれた扉の後ろに回り込もうとしたが、透明の壁に阻まれてこれ以上進むことが出来ない。イベントエリアが区切られているのと同じような物か。どうせ破壊不能オブジェクトだろう。




俺はこのルームの存在を知らない。だがこういったルームはゲーム的に考えて、ある程度のカスタマイズが出来るはずだ。わざわざ障害物のない、太陽輝く草原を選んだ理由が何かあるはずだ。





そもそも、殺傷行為が禁止とあるが、具体的にはどう禁止されているんだ?


例えば、デバフ。ステータスを低下させる行為は傷つける行為になるのか?

また、殺傷行為が適応されるのは人間だけか?物に対して破壊を行っても、それは殺傷行為になるのか?


物を傷つける行為が禁止なら、何か食べるということもできない。食べ物を歯でかみ砕き咀嚼するという行為が物を傷つけるということになるかもしれないからだ。



そしてこの中規模ルームは招待制、つまりはホストに招待されたユーザー以外は参加することができない。俺が護衛としてホムンクルスを連れて行こうとしたができなかった。


だが、ルーム内でホムンクルスを生成する場合はどうなる?




………今考えると、いくらでも抜け道があるような気がする。



俺は未だに機能の大半が制限されている。権利などの商品を購入できるショップも未解放。これまでのイベントも参加しなかったせいで使える通貨もない。だがこいつらは違う。こいつらは何度もルームを開き、様々な検証をしているはずだ。きっと何か、抜け道が存在し、俺を嵌めるために幾つもの策を講じているだろう。




それに、1対49…まさに飛んで火に入る夏の虫。味方がいない孤立した状況。何かあれば間違いなく不利。敵は万全の状態で待ち構えているだろう。こっちが正面から戦うのは困難。奇襲により幹部を仕留め、リーダーを失い混乱している所を各個撃破すべきだ。



もし戦争になったら、最低でも40人は道連れにしてやる。




そもそも、ただの交渉の場に、49人のユーザーも必要か?

どう考えてもいらない。俺に対する圧力のつもりか?








そうして考え込んでいると、迎えが来た。騎士のような装いの男が3人。




「山田だな。こっちへ来い」



俺は大人しく従う。



…強いな。日々の鍛錬を怠っていない。能力やアイテムに頼りきることなく、真面目に鍛錬を行なっているということか。


俺に対して油断すること無く、全力で警戒している。なかなか骨が折れそうだ。




そうして連れられた先では、一つの天幕が貼られていた。



………恐ろしいな。天幕の外からでもわかるくらい、凄まじい魔力が感じ取れる。あの中に【中位ユーザー連盟】の盟主がいるのだろうか。



…しかし。天幕の外で仁王立ちして警備をしている全身白亜の甲冑で武装した男以外は、皆軽装だ。しかも俺に対して警戒するという訳では無く、俺のことを無視して談笑していたり、こちらを見てひそひそと話している。飯を食べている奴もいる。




…雑魚だな。それも統率の取れていない、有象無象。


下位ユーザー連合の奴らは上位中位と比べて、与えられた能力やアイテムが大きく劣っており、その結果一人一人の軍隊は弱い。


そのため能力不足を補うため、ユーザー自らが前線にでて戦いレベルを上げている。

そして下位ユーザー連合社長である女傑の元、一致団結して連携の取れた作戦を実行し、合同での訓練に励んでいる。


そして驚くべきはその組織力。ほとんどのユーザーは女傑のカリスマにより心酔し、女傑の指示を何の躊躇も疑問もなく従う。ユーザー間の仲も良好だ。




しかしどうだ?こいつらは。


おそらく戦闘は有能な味方のユニットに任せ、下位ユーザーと比べて練度が低いのではないだろうか。




…いや、油断するのは良くない。優劣はあるが、運営がユーザーに与えた能力やアイテムは強力だ。


もしかしたら、俺と致命的に相性が悪いアイテムや能力を持つユーザーや、面倒な能力持ちがいるかもしれない。組合せだってそうだ。中位ユーザー連盟には、尖った能力持ちが多いらしい。能力を発動させる前にやる。






俺が騎士の案内に従い、天幕の中に入る。



椅子に座っている、3人のユーザーがいた。



………なるほど、こいつらが幹部だ。騎士以外の有象無象とは違うな。



左から、スーツを着た男性。約50歳ほどの男性。書記官か何かなのか、ペンを持ち紙に書く準備をしている。



真ん中は、まるで姫のような色鮮やかな大きい宝石と、美しいドレスを着飾った聡明そうな若い女性。こいつが別格だ。おそらく一番強い。俺以上だ。ちょっときついな。


右には、身なりの良い、質の良さそうな服を着た若い男性。ずっとこちらを睨んでいる。



「よくぞ来た!山田竜よ!」




「私こそが!アルカディア帝国指定ユーザーにして、帝国の華麗なる姫!美しき美貌を持つ姫!帝国一の魔法剣士!マレ二ア・ユグドラシル・ワンである!」



………訂正。馬鹿っぽい。



……これは、あれかな。


「コスプレか?」


「違う。姫様は第2回イベントにおいて、ユニットでありながらその活躍が認められ、報酬としてユーザーとしての立場を得たのだ!我々のような、運営により王位を与えられた偽物とは違う、本物の姫なのだ!」



若い男が怒りを露わにする。ずいぶん慕っているようだ。



しかし、ユニットがユーザーに。そんなこともできるのか。確かに名前も地球人にはいなさそうな名前だ。それに、アルカディア帝国指定ユーザー。もしや、地球の国家ではない?


まさか。こいつが指定された国というのは、盟主の支配する国、そういうことか⁉


「あんたが盟主じゃないのか」


「私と陛下を間違えるな!確かに私の纏う姫オーラで誤解するのはわかるが、私などとは比べものにならないくらい偉大なお方だ!陛下への侮辱であるぞ!」


「………盟主は来ていないのか。」


「陛下はお忙しいのだ。貴様と会う時間も惜しい。会えるほど貴様は偉くもない」



………いや来いよ。



「さて、時間が惜しい。単刀直入に言うぞ、陛下に従え」


「すると思うか?こんな脅迫じみたことされて」


「不服か?もちろん、それ相応の対価は用意してある。連盟に入り次第、直ぐに貴様の必要とする物を最大限融通しよう。」



「そういう問題じゃねぇよ。こんなことされて、大人しく従うとでも思ってんのか」


「それは仕方のないことだ。お前、あいつをボコボコにしただろう」








あいつ?



俺は記憶を探った。





「ははははははは、どうだ?今私が何をしたかわかるだろう?ショップで購入できるランキング表示権だ。それも高額、下位ユーザーであろう貴様では買うことすらできない非常に高価な権利だ。私はこの他にも多くの権利を閣下より与えられている。これで魔王軍の力がわかったはずだ。わかったのならさっさと我らが魔王軍に忠誠を誓えグハァッッッッッッ!」





「さあ、陛下に従え!」



「お前みたいな偉そうな奴に従うかボケ!」



峰打ちパンチ!!!



「グハァァッ!」








…あっ。




「我々にもメンツというものがある。一方的に殴られて、こちらが頼み込んで連盟に所属してもらうというわけにはいかんのだ。圧力をかけ、従った。それが重要なのだ」


「お前らの事情なんか知るかよ。人に物を頼める態度じゃないって話をしてるんだ」


「最初はみんなそうだ。陛下に対して不満を言う。だが陛下の素晴らしさに、最後は皆従うのだ!」


「陛下は天才だ。これまで幾度となく我々を導き、不利な戦局を覆してきた」


「俺が断ったらどうする?直ぐにでも戦争をしかけるか?」


「そんな物騒なことはしないさ。同じユーザーじゃないか」


「アイテム禁止権を使い続ける。一つの権利につき、24時間という制限はあるが、連続して使い続ければ問題ない。貴様が屈服するまで、権利消滅寸前に何度でも使い続ける」




…馬鹿な、おそらくアイテム禁止権はその効力からして、かなりの高価な代物だ。そんな権利を使い続けるだと?



「不可能だ」


「高額だが不可能ではない。それだけの余裕がある」


「別にいいさ。俺はアイテムをもう既に十分使った。惜しいけど、絶対必要というわけじゃない。無駄遣いでもしてろ」


「貴様がアイテムを使えない間、他のユーザーはアイテムを使い、国を発展させ、イベントで活躍するだろう。ランキングの順位も低いままだぞ」


「それがどうした。ランキングなんてどうでも良い。勝手に馬鹿みたいに争え」








「貴様、運営を信じているのか。」



は?



「は?」



「運営はこの悪趣味なゲームの終了条件も、終了時間も明言していない。勝者には地球の支配権が与えられると言うが、それはいつ、どのタイミングだ?極端な話、この第3回イベントが終了した時点でゲーム終了だってありうる。」




…確かに。



そもそも、地球の支配権とは何だ?大統領的なことか?


地球以外の、ユーザーが治める星や国家は従えることができないのか?



「敗者はどうなる?」




どうなる?勝者に隷属?それとも、国が奪われたりするのか?





「もう一度言おう。我々には、時間も選択肢もないのだ。君が欲しい。共に1位を目指そうでは無いか」


「そこまでして俺が欲しいのか」


「当然だ。君のほぼ一人でエリアを攻略出来る、多様性のある兵力、それを支える物資生産能力。どれをとっても魅力的だ」



「共に偉大なる陛下の元、1位を目指そうでは無いか!」


「あんたのクランは、陛下以外に役職持ちはいないのか?」


「ああ、我がクランは陛下による絶対君主制だ。一応、陛下の側近である私には臨時代表権があるが、それだけだ。」







「俺をNO.2にしろ。話はそれからだ」


「……貴様、立場がわかっているのか?」


「困るのはそっちだろう?俺に対して権利を使い続けるのは、相当な負担になる。こんなことに使っている暇があれば、もっと違うことに使いたいはずだ。それに不満がでるぞ。利益のないことに使い続ければ、連盟からの離脱者もありうる。言っておくが、俺は一度決めたらやり遂げる男だ。」


「貴様!先ほどから馬鹿げたことを‼」


「よい、構わん」


「しかし………」


「陛下に従うというのなら何でも良い。【契約者】‼契約書の作成を急げ‼」




書記官だと思っていた男が、契約書を作り始める。魔力を感じるな、これがこいつの能力か?




「契約書にサインしろ。これが終わったら、皆で宴だ!外の奴らに酒と肉の準備をさせておけ!」


書記官が契約書を作成し始める、だが特に何の力も感じない、紙切れだ。

契約書だ。


「………これ、いるか?こんな紙切れが役に立つのか?」


「その点は心配ない。私の右にいるユーザーの能力【契約】で結ばれた契約は絶対だ。神でさえその縛りからは逃れられることができない。」


「へえ、有用な能力だな。こき使ってやるよ。」


「いきなりNO.2にするというのは、他のユーザーが納得しないだろう。ある程度時間をかけ、物資提供により皆が貴様を意識してから副盟主に格上げする」


「決まりだな。俺にメリットしかない契約だ。」


「今後もよろしく頼む」


「あぁ、感謝する。全ては陛下のために共に上位を目指そうではないか!」



俺は右手を前に出し、握手を求めた。姫様もそれに応じ、俺たちは手を握り合う。









●ルールが改変されました!


殺傷行為の禁止→殺傷行為無制限許可

武器持ち込み禁止→武器持ち込み無制限許可

退出自由→サバイバル制 勝者一名のみ退出可能


制限時間3分




「じゃあな、姫様」


ミダースの手、発動。グッバイ。



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あいむしんかーとぅーとぅーとぅーとぅとぅー

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