山田文化大爆発!

山田ドラゴンガチャ王国も少しずつだが国としての体制が整い始め、国独自の様々な文化が芽生え始めている。


ホムンクルス初期型は基本的に無表情でロボットのようだった。

外部からの刺激も少なく、感情や言語能力の獲得も時間がかかったが、現在はホムンクルス製造機の度重なるアップグレードと拡張。ダンジョンやマッドサイエンティストからの刺激、そして統括個体を通じた、増えすぎた同胞との連結などで普通の人間のように活動している。



戦闘狂のホムンクルス魔王軍にも戦争に直接関係ない音楽隊や報道部、スポーツ部など、比較的戦闘欲望の低いホムンクルスたちが静かに集まり、のんびりと活動を始めている。


ホムンクルスは戦闘型をベースとして製造されているため、戦闘欲望が備わっている中、これは珍しい。俺はホムンクルスの戦闘欲を発散できるように、様々な施策を行っている。この負担を減らせるのならいいことだ。

戦闘以外に何か熱中できる物が出来たら、それは奨励すべきである。



その結果、山田ドラゴンガチャ王国初の国立美術館が完成した。


名づけて、山田中央記念ミュージアム!黄金の装飾で彩られた、ほぼ白亜の美術館である。





国立美術館の建設が完了したとの報告を受け、俺はオープン前にその視察に赴いた。



美術館には、スカウトマンが招致した美術家たちの作品とそれに影響を受けたホムンクルスの作品が多く展示されていた。



鎧を着た彫刻、禍々しい壺、見る物を恐怖させる呪いの仮面、血に染まった戦装束、首だけの剥製…


とにかく多種多様の展示物が隙間なく展示されている。山田美術文化はここから発展していくのだ!




さて、本美術館最大の目玉、『記憶回廊』にたどり着いた。


ここは俺と山田ドラゴンガチャ王国のこれまでの軌跡を展示している。




突然白い部屋に閉じ込められ、混乱する俺を描いた絵画。

餓死しかけて呪詛を吐いている俺をモデルにした彫刻。

イラついてガチャを蹴りつけている俺の映像。








うん、見なかったことにしよう。見ると気分が悪くなる。



回廊入口は早歩きで飛ばし、ここ最近の出来事が展示されている出口の方へと向かう途中、俺の目を引き寄せた一枚の絵画が存在した。



赤く染まる灼熱の空。周囲を焼却する炎熱の騎士。


荒れ地の中、勇敢にも突撃する山田魔王軍騎馬隊。それらが躍動感溢れる表現により見る者を高揚させる。







『炎神旋風』 作者 ムーア・ツーウィークマンデー 没入派



第38エリア『神に見捨てられた荒野』にて山田魔王軍と炎神バルキウスとの戦いを描いた絵画。

炎神バルキウスは第38層司令官【風神キク】が発生させる暴風に乗ることで、エリア全域に炎神が拡散。その熱風と燃え広がる炎に地球ユーザー達は苦戦を強いられている。


これは拡散された炎神の欠片への勝利を記念して従軍画家が作成した。







…ふむ。どうやら俺が各エリアに派遣した偵察隊が戦った記録を絵画にしたものらしい。


なるほど、上位エリアは神が司令官として君臨し、脆弱なユーザーは苦戦するなか、我ら勇敢な魔王軍は少数ながら勝利しているということか!



俺は気分が良くなり、絵画を見つめる。



「どうですか?気に入りましたか?」


「ああ、館長。すごいな、芸術のことなんて何もわからないけど、すごいと思う」


「そうでしょうそうでしょう。それじゃあ、始めますよ。えーと、ここをこうして…」


「は?始めるって何を」


「決まってるじゃないですか。山田芸術の真骨頂!没入派の真価ですよ!絵画起動!再演せよ!あぁ美しきかな!」


「は?は?はあああああああああ!?」





俺は、絵画の中に引き込まれた。














クエスト名 【灼熱騎士 再演】



クリア条件 

炎の欠片【灼熱騎士】の撃破または封印


敗北条件

プレイヤーまたは味方封印系NPCの全滅

時間切れ















「どうでしたか?楽しんで頂けましたか?」


「殺す気かおまえええええええええ!!!」


「ぐあああああああ!!!」




これ、ゲームで倒したボスと何度でも戦えるやつじゃねーか!



「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ。マジで死ぬかと思った。俺が冥府の火の使い手じゃなかったら死んでたぞマジで」


「それは大丈夫、絵画の中で死んでもぼろ雑巾みたいになって戻るだけですよ………おおー、クリアランクはAですね。複数パーティ推奨絵画をソロクリアとは流石です」


「はあ、はあ、はあ。これが没入派か。絵画の世界に言葉通り没入する。なんともまあ、すごい技術だ」


「絵画内で入手したアイテムは現実に持って帰れますよ。でも絵画を再起動するまでに結構時間がかかりますので、今すぐに再突入は残念ながら不可能です」


「二度と入るか!」


「まあまあ。それより報酬を渡しませんとね。館内焼肉屋へどうぞ。私からのささやかな報酬です。山田さんの大好きな焼肉ですよ。」



館長は俺に報酬として、焼き肉を焼いてくれた。

美術館の中に飲食店街があって、よりにもよって煙と匂いが強烈な焼肉っていいのか?

いや、それよりも。肉を焼いている炎、それに見覚えがあるぞ。



「…おいまてなんだそれ」


「炎神の欠片ですよ。さっき戦ったレプリカと違って本物ですよ。詳しい仕組みは知りませんけど、七輪で焼いたみたいにうまくなるんですよねこれが」



お、お前!そんな危険物を美術館に持ち込むな!

というか何で生きているんだ!はあ?封印して持ち帰った?


それも一つじゃなくて、何十個も倉庫に保管してあるだと⁈


そんな危険物持って帰ってくるな!





………え?この欠片は洗脳状態で、これを通じて本体を洗脳して服従させる?


お前、それを早く言えよ!どんどん洗脳しろ!











さて、今日のログインボーナスは5連ガチャコイン。

久しぶりの連発系ガチャコインである。



さぁ、レッツガチャ!!






ガタンッ




UC『架空兵器シリーズ 零戦2050年型』

C『シベリア産コシヒカリ1kg』

C『朽ち果てた椅子』

R『台風』

C『チョコレート(賞味期限切れ)』



相変わらずガラクタがガタゴトと宙に現れ落下する…



ん⁈台風?



俺は慌てててデバイスを起動し、つい最近開設されたTV番組を開く。





《山田ニュースセンターです!突如として大陸南部ルーキーズ海にて台風が発生しました!これを受けて魔王軍気象局は付近の海域に台風時のみ出現する嵐龍討伐作戦の実施を発表、勇敢なホムンクルスが無謀にも漁船で台風へ向かっていきます≫


《ホムンクルス以外の住民は避難してくださいね》


《現地では既に山田魔王軍空軍がスクランブル発進、情報収集に努めているとのことです。ルーキーズ海には大阪の大学より招致した博士がマグロ養殖場を建築しており、マグロ養殖計画に影響が懸念されます》




TV局の映像では、漁船に乗って水平線へと駆け出すホムンクルス達が写っていた。日頃から海でモンスター相手に戦う漁師達だ。彼らは限界速度で進み、荒波で転覆する漁船もあるが、構わずクロールで台風に進んでいく。


…ホムンクルスにとっては恵みの台風のようだ。











それでは、無料ガチャ!




ガタンッ





R『聖女』



聖女。聖なる力を持つ女性。

ファンタジー作品ではバッファー、または魔法使い職として活躍する。一般的に光属性の使い手が多く、純粋無垢な傾向にあるが近年では成りすましや性格の悪い聖女の場合も多い。





「おおーー、ここが山田ドラゴンガチャ王国ですか。変な名前の国ですねーー」



目の前に現れた聖女は、俺が気にしている事を一番に口にした。



ぐはあ、恥ずかしい!





鑑定!




●星読みの聖女 ライラ

星読みと言っているが星占いに関する知識はない。ただあれが何の星か、星座かを知っている程度。自分勝手に星を解釈する。


「なんか星光ってますね〜これ、私に対する祝福では?」



作戦方針『前進あるのみ』『逃走なんてあり得ない』『全軍突撃って盛り上がるよね、好き』


特性『血の狂乱』


スキル『突撃』『直感』『猪突猛進』『一番槍』『進軍』『槍術』『歩く地獄』『無策』『脳筋』『蹂躙』『突破』『前進』『鼓舞』『体力』『突破』『撲殺』






ば、バカだ!馬鹿がここにいる!


なんだこのスキル構成⁈聖女要素が何処にもない!

ツッコミどころがありすぎる!聖女失格だろ!


って、うわあ⁈


「あら?よけましたか」


「な、なにしやがる!くらえ、右パンチ!」


「なんか馬鹿にされた気がするんですよね、ほい頭突き!」


「ぐおおおお!重い!なんて馬鹿力だ!お前強いな!」


「ええ、そうです!私は強いんです!まあ私に任せてみてください!すぐに戦果を出しますよ!」








その後、ライラは山田十字軍を結成。すぐさま戦場へと向かった。



何故十字軍と言うのかだって?彼らは全員、十文字槍で武装しているからだ。決して何か宗教的なこだわりがあるというわけではない。




彼らは死体で埋め尽くされた地獄の前線に出撃し、何重層にも折り重なる複雑かつ堅牢な防衛線を強引に一点突破、そのまま血の道を舗装しながら山脈部へと到達し一つの要塞へと攻城戦を開始。


哀れ、守護していた天使たちの充実した防衛設備は粉々に打ち砕かれ、要塞は機能停止。一兵たりとも要塞からの脱出は成功せず要塞司令部の高級士官、その他軍団司令部ごと、血の海へと沈んだ。




ぷるるるるるるるる。


「もしもし?」


「孤立しました!四方八方天使だけです!要塞も壊しすぎて、まともに立て篭もることはできません!」


「…はぁ。わかった。今すぐ砲撃支援を行う」


「必要ありません!この程度の軟弱な敵、私の敵ではありませんので!」


「…そうか。まあ、頑張れ」


「はい!聖槍起動!とりゃああああああああああ」



地面の削れる音と、天使達の断末魔が電話越しに聞こえた。




…俺、聖槍なんて渡してないけど。









妙物管理機構報告書



●炎神の欠片


飛散した炎神のカケラ。それら一つ一つが意思を持ち周囲の敵を燃やし尽くす。一部個体は炎神に対して反抗的。

確保した個体群を通じて本体である炎神へ洗脳魔法を行使、その権能を奪い服従させる計画が進行中。

計画実行のためより多くの欠片の確保が必要。


使用例 焼肉の火種 火力発電所 聖火へと加工 洗脳準備中




●台風


大陸南部ルーキーズ海にて発生を確認。嵐龍討伐後、山田魔王軍先進兵器開発局が急遽完成させた台風破砕砲により消滅。幾つかの国家より輸入要請があるが地球環境及び軍事バランスを考慮し弱体化して輸出。


兵器評価 台風破砕砲は欠陥兵器。台風より効率的にエネルギーを取り出す兵器を開発中。





●賞味期限切れチョコレート

【第1級隔離措置実行中】【微量の神性確認】



食レポ 暴食の邪神 納豆みたいな触感。味は下水道のようだ。













_________________________________________________________________


聖女は要塞を守護していた天使から聖槍を奪いました。



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