第一次山田竜 報告書

現在我ら山田軍は第14エリアを攻略中なのだが、このエリアにいるのは山田軍だけではない。


当然とも言えば当然だが、このエリアには入場制限が無いのだ。入場しようと思えば入場できるし、攻略にだって参加できる。


実際初日は他のユーザーの軍隊も結構いた。


だが彼らのほとんどは俺の軍隊を見て帰ってしまった。俺の送り込んだ軍隊の規模を見て帰ってしまった。俺にこのエリア攻略の美味しいところを全部取られてしまうと考えたのだろう。



「何でこの規模の軍隊で、こんな下位エリア攻略に全力出してんだよ…もっと上のエリア攻略しろよ…」



そう言ってみんな帰ってしまった。だが彼らも全員は帰らず、俺の監視用にそれぞれ数十人のユニットを派遣しているが戦争に参加せず、まるで観戦武官のように遠くから戦いを見物している。


まぁ俺も各エリアにスパイを送り込んでいるから何も言えない。


第1、2回のイベントに参加しなかった俺のことに相当注目しているようだった。もっと俺を見て評価しろ。


しかし全てのユーザーが見ているだけではない。何人かのユーザーは割と真面目に攻略に参加してくれている。


例えばオーストリア指定ユーザーの『叡智』のヨーゼフ。


ヨーゼフ軍は強力な魔法使いで構成された軍隊で、『重魔法部隊』などがまるで爆撃のように天使陣地を薙ぎ払ってくれる。この前も超長距離狙撃魔法により、山脈に建設された要塞の一つを蒸発させた。


さらにホムンクルスに攻撃力上昇のバフや敵天使の【神の加護】を剥がしてくれるなど、割と活躍してくれる。


そんな魔法使いたちは魔法を研究する学者でもあるらしい。この土地や天使の遺体や兵器などを回収し、様々な研究をしている。俺は彼らに友好の証として、他のエリア攻略で得た様々な物品の山を譲渡したのだが。





「サンプルが多すぎる⁈徹夜しても分析が終わらないぞ⁈どうすればいいんだ⁈」


「甘えるな!こっちは欲しいサンプルをこの中から探さないといけないんだぞ⁈サンプルがあるだけマシだ!」


「実験に次ぐ実験…いつになったら終わるんだ…講義に出る暇がないぞ…」


「あああああああああ⁈研究費の申請に落ちた⁈何で⁈はぁ⁈俺の研究よりも譲渡された聖遺物の研究の方が優先だって⁈くそがぁぁぁぁぁぁぁ⁈」




………………何かごめん。









そんなこんなで今日もガチャである。


どうやら敵の防御は固く、少ししか進めなかった。まぁその代わりに敵兵を殺しまくっているようだが。


ここで何か、役に立ちそうなアイテムをくれ!






無料ガチャ、グルグルグル!




ガタンッ





C『流し素麺』


竹製の樋に冷水と素麺を流し、流れる素麺を上手く箸で取って、ネギや生姜で味付けされた麺つゆに付けて食べること。

しかし殆どの人はうまく箸で挟むことができない。スルスルと流れる素麺を箸で掴むのは難しいのだ。






出現したのは、木の箱に収められた素麺だった。

茹でられる前のスパゲッティのように固い。バラバラにならないように白い紙で縛られている。


俺は素麺を触ってみるが、特に変わった点は見当たらず、流し素麺要素も見当たらない。箱も何の変哲もない質の良い木の箱だ。



とりあえず茹でて食べてみるか。箱の中の素麺は10束ほどある。1束くらい食べても問題はないだろう。


俺素麺食べるの久しぶりだなぁ〜、ホムンクルスと一緒に流し素麺でもやるか?


俺はホムンクルスに竹を調達してくるように命じ、束を解き、鍋の中におく。



青空クッキングというわけだな。気分がいいなぁ。



ヒュルルルルルル…




あっ、風だ。少し強いな。寒っ。



「今日はちょっと冷えるなぁ。天気魔法で無理やり夏にでもするか?」




俺が震えていると、流し素麺は風に乗って空高く流れていった。







……





おーい、帰ってこーい。









その後、回収された流し素麺は軍服に加工された。ホムンクルスに渡された純白のかっこいい軍服が目の前にある。


は?




どうやらあの流し素麺は非常に軽いにも関わらず、普通の人間が歯で噛みきれないぐらい強靭かつ伸縮性に優れており、いざという時はホムンクルス限定でだが食料にもなる夢の新素材らしい。


この素材を研究して応用、軍服として生産を開始したとのこと。生産コストが高いため、上位士官から優先的に配布するようだ。



俺は服についてあるタグを確認する。


・製造元『ミナモトファッション』

・素麺100%使用




素麺が服の材料って、なんか嫌だなぁ。









ログインボーナスは植物確定コイン!さぁ、レッツガチャ!




ガタンッ




HR『竹』



イネ科の植物。古くから日本では建材や玩具として利用されてきた。

成長速度が速く、1日で1メートル伸びることもある。





「うわぁっ!」



突如、俺の足元から槍のように竹が伸びてきた。


凄まじい成長速度だ。竹はすぐに太くなり、葉と枝を伸ばしてきた。一瞬で成長してしまった。


目の前には普通のサイズの竹が一本。花を咲かすこともなければ、筍が周りから生えて増殖することもない。特に異常性もない。



今竹かぁ。もう既に流し素麺パーティの準備は終わっているんだけど。



ピロン!


●ここを切るべきだ →



視界に矢印が見えている。えっ、何お前そんなことができたの⁈



…こいつ、他にも何かできるのか?まぁ一旦それは横に置いておこう。これを切れというわけだな。



俺は空気中に魔力刃を生成する。これを使うには結構な量の魔力とタメ、そして指を切るようなモーションが必要だ。



「『斬』」



竹の中身を傷つけないように魔力刃を動かす。


竹の中から、様々なものが出てきた。



宝石のような植物の枝、神聖な気配を醸し出す石、動物の皮、貝、龍属性の珠。




竹…竹とんぼ…筍…竹…竹…かぐや姫?



これはもしや……鑑定



●燕の子安貝


かぐや姫が求婚者に要求した物の一つ。

安産のアーティファクト。保有しているだけで母体及び生まれる子供の健康に関するボーナス発生。











その後、竹はマンションになった。


一瞬で成長するという点に着目して品種改良を行った結果らしい。


筍を埋めると一瞬で成長、しかもガチャから出た竹とは違いより太く、長く伸びる。その長さなんと100メートル!!


しかも繁殖せず、枝や葉を生やさない。このまま竹の内部を改造して超高層アパートへと改造するらしい。


たった数時間で超高層アパート団地が完成していた。




【住宅が必要な方は『タイラ都市計画』まで!】











スイス指定ユーザー エマ・ミュラー視点



『第一次 山田竜 報告書』




山田軍の主力となる戦力は【ホムンクルス】という戦闘に特化した人造生命体である。


どの個体も思考が幼く本能的であり、欲望に忠実。好奇心旺盛。

製造直後と思われる個体は会話をせず、感情も乏しいが凄まじい速度で成長し個性を獲得する。



多種多様なホムンクルスを製造しており、個体ごとに戦闘能力に差が存在し、十二魔将、特に【セブン】と呼ばれる個体は上位ランカーのユニットにも劣らないと推測。



ホムンクルスの山田氏に対する好感度及び忠誠心は非常に高い。

これが山田氏の人徳なのか、それとも製造されたホムンクルスがそのような特性を備えているのかは不明。



以上のことから、山田氏の能力及びアイテムはホムンクルスを生産する物であると予測する。

しかしホムンクルスとは別の存在が確認されており、不確かであるため早期の判断はすべきではない。


また、山田氏が前線で戦うことを複数回確認しており、非常に強力である。




私は報告書を読み終え、側近であるユニットに意見を求める。


「どう思う?君の考えを聞きたい」


「そうですね…この報告書では、ホムンクルスの戦力ばかりが強調されてあります。ですが重要なのは、山田氏が大規模な軍隊を維持できる体制を維持しているという点です。物質的にも、財政的にもかなりの余裕があると推測されます。」


「それが原因で売上が予想よりも低いのかな?」


「想定外です。我々は傭兵と軍需品を輸出することで稼いできました。ですが山田氏は傭兵に必要な食料、燃料、弾薬といった、軍需品を自前で生産し揃えてしまいました」


「大規模な工場と資源が存在するということか」


「それだけじゃありません。コピー品、いえその改良型とも言える兵器が出回っています」


「最新式の兵器を輸出しなかったのは正解だったな」


「あとはとにかく兵士も多いです。文字通り第14エリアはホムンクルスで埋め尽くされる勢いです。あそこまで練度の高い兵士を揃えることができるのは、生まれつき戦闘が可能なホムンクルスならではでしょう」


「…なるほど、中位連合が彼を仲間にしたい訳だ。中位ユーザーは皆、なんらかの弱点を持っている。その弱点の大半が物資不足だ。彼のように生産能力に優れた仲間が何としてでも欲しいのだろうね」


「しかし、何故日本政府が彼を指定しなかったのかが分からない。少子高齢化に悩むあの国はホムンクルスなんて労働力として欲しいだろうに。キリスト国家でもないんだ。抵抗は少ないはずだ。何かあるぞこれは」


「中位連合に取り込まれる前に、こちらから山田軍に攻撃を仕掛けて隷属させますか?」


「それは止めて。絶対に」


「何故です?我々と中位連合との戦力差は開く一方です。中位連合が物資不足という弱点を解決すれば、追いつくのは不可能になります。」


「君はユニットだからそう考えているんだ。君が思う以上に地球人には連帯感というものがある。もし正当な理由なくこちらから攻撃したら、下位連合からの離脱者が現れる可能性がある」


「じゃあどうするのですか?」


「放置よ」


「は?何も手を打たないということですか?」


「あれは台風の目だと思うの。自分の敵対する者全てを巻き込んで破壊する、台風の目。」


「私たちはただ兵器と傭兵を格安で売りつければそれで良いの。あとは勝手に、彼が全てを滅茶苦茶にしてくれる。そうすれば、私たちの順位も上がるでしょ?」




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