すねを剃る、スカートを穿く。

物部がたり

すねを剃る、スカートを穿く。

 一枚の布切れの下からさらされる曲線美。

 一挙手一投足が醸し出すチラリズム。

 人間の本能を刺激するファッション。

 れいはスカートというものが不思議でならなかった。

 どうして、布切れ一枚という無防備な格好で出歩けるのか。

 どうして、女子の制服はスカートと定められているのか。

 どうして、男はズボンで女はスカートなのか。

 ジェンダーレスが叫ばれている現代で、女生徒はズボンかスカートを選べるようになっても、男らしさを求められる男子生徒がスカートを選ぶハードルは高い。


 れいは幼少のころからスカートを穿いてみたかった。

 いわゆる女装欲求があった。

 どうしてそんな欲求を抱くのか、自分でもわからなかった。

 スカートを穿きたいと思っていても、れいの恋愛対象は女性であり、性的マイノリティというわけでもない。

 ただ性的欲求とも違う、スカートが穿きたいという純粋な欲求だった。

 れいは自分の特殊な性癖を誰にも打ち明けられずにいた。 

 ジェンダー平等の傾向が高まっているとはいえ、男なのにスカートが穿きたいということを言えば、気持ち悪がられるに決まっているからだ。

 

 だが、日増しに欲求は高まっていった。

 そんなある日、SNSでとても綺麗なモデルがスカートを穿いてポージングを決めている写真を見つけた。

「綺麗だな」と見惚れていると、そのモデルは男だということを知った。

 衝撃だった。

(男でもスカートを穿いて良いのかもしれない)

 そう思わされ、れいは決意した。

 思い立ったが吉日――ネットショップでスカートを注文した。


「買ってしまった……」

 しばらくスカートを眺めて、寸法を計ってみると膝より上だった。

 見下ろしてみると、スカートから出た足の毛が気になった。

 すね毛は濃い方ではないが、剃った方が見栄えはいい。

 れいは普段から長ズボンを穿いているため、すね毛を剃っても家族や友人に気付かれることはない。

 れいは後腐れなく、すね毛を綺麗に剃った。

 下準備も完了し、生まれて初めてスカートを穿いてみることにした。

 

 体全体を映せるだけの姿見が無いので、れいは小さな鏡を机の上に置いて自分を見てみる。

 だが小さすぎてよく見えなかった。

 れいは考えた末、スマホのカメラ機能を使って全身を撮影してみた。

 スカートを穿き顔を隠した自分の全身が映っていた。

 れいはもともと線が細く、足もスラっとして筋肉質でもないので、想像以上に違和感がなかった。

 れいを知らない人が見れば、女子だと勘違いするレベルだ。

 

 れい自身も違和感のなさに驚いていた。

 何でも初めのハードルは高いが、越えてしまえば次からのハードルは格段に下がる。

 れいは女物の服と、ロングとミディアムのかつらを同じくネットで買った。

 男らしい骨格を隠すために、服は少し大きめ、顔の輪郭は髪の毛で隠した。

 れい自身も見惚れるほど誰がどう見ても女性にしか見えない仕上がりになった。


 しばらく一人で女装を楽しんでいたが、やはり人間は社会性の生き物で、他者の承認が欲しくなる。

 れいは勇気を振り絞って、自分の写真をSNSにあげてみた。

 もちろん目の大きさを変えたり、小顔にしたり、毛穴を消したり、色白にしたりと加工しているものの、詐欺ほどは変えていない。

 女性がナチュラルメイクする程度の加工である。

 誰にも見てもらえないか、もし見てもらえたとしても、どんな誹謗中傷が書き込まれるか不安でならなかったが、予想外に見てくれる人がいて、しかも「かわいい!」「きれい!」という反応を沢山もらえた。


 本当の自分を認められた気がして、れいはとても嬉しかった。

 それからというもの、れいは様々な女装写真をネットにあげた。

 信じられないかも知れないが、れいの女装は可愛く、フォロワー数も日増しに増えていった。

 だが、フォロワーが増えることと比例して、れいの罪悪感も高まっていった。

 れいは自分が男だということを隠して写真をあげていたからだ。

「もしバレたら、どうなるだろう……」


 れいは一晩考えた末、男であることを公表した。

 もし、誹謗中傷が多ければ女装を辞めるつもりでいた。

 当然ネット上は湧いた。

 が、ごく少数のアンチはいたものの、多くの人々はれいの女装に好意的であり受け入れてくれた。

「男の属性だと……」

「負けた……!」

「ごちそうさまでした!」

「男でもいいから俺と結婚してくれ!」

 という人もいた。

 どうやら、男の娘も需要があるらしい――。

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