テンパる彼女はいいわけばかり。やっぱり口を滑らせました。

青猫

本編

今日は2月14日。

世間的にはバレンタイン。

いつもならバレンタインでも我関せずな俺は、今年は少し浮かれ気味だった。

それもそのはず。この前、留美さんというかわいい彼女ができたのだ。


——教室での公開罰ゲーム告白で。


まぁ、その話はいいだろう。

そんな俺は、2月14日、うっきうきで学校に来ていた。

いったい、どんなチョコがもらえるんだろうと思って。


——そして、がっくり肩を落として帰っていた。


「まじかよっ……!」


今年のチョコレートは0個。

そう、0個!


まさかの彼女からもチョコを貰えなかった。

しかも、なんでだろう、今日は彼女に避けられていた。

昨日まであんなに仲良く話していたのに!


「る、留美さん!」

「あ、あぁ、祐樹君?……アァ!チョット、ヨウジガアルナァ!」


そう言って棒読みで留美さんはそそくさと逃げていた。

しかも、放課後は先生に拘束されている間にすぐにいなくなっちゃったし……。


俺は友達たちととぼとぼと帰路についていた。

足取りは重い。


「ほら、大丈夫だって!俺だってチョコ貰ってないし!」

「気にすんなって!俺は……貰ったけど」

「うっせ!なら黙ってろ!」


そんな時だった。


「もう!そんな事言わないでよっ!」

「だ——、ね——よ」


留美さんの声が聞こえる。

誰かと話しているみたいだ。

丁度、目の前の交差点の右側から声がする。


「留美さん!」


俺は、留美さんに声を掛けようと、その道を右に曲がる。

そこには。


留美さんが男と楽しそうに話している光景があった。

俺は驚きで一瞬固まる。


「え、う、嘘だろ……」

「マジか……」

「寝取られ……アツいな」


友人たちも固まっている。

そしてそれは、目の前にいる留美さんと、男もだ。

男は、俺達と同じくらいか、それより少し若く見える。

そして、留美さんとの距離がすごく近い。


「あ……」


留美さんは、俺と、横の男性を交互に見て、声を漏らす。

そして、俺の方を見ると首をブンブンと横に振る。


「え、あ、いや、ち、ちがくて!」


彼女の顔色は、真っ青を通り越して真っ白だ。

隣にいる男性は、ポカンとしている。


「そ、その!う、浮気とかじゃなくて!」


俺はじっと留美さんを見る。

留美さんは涙目だ。

向こうがだいぶ慌てているからなんかだいぶ落ち着いてきた。


「る、留美さ——」

「えっと、本当にち、ちがくて!祐樹君!」

「祐樹君!?」


留美さんがだいぶテンパっている。

隣にいる男性が、俺の名前を聞いて、瞬間顔を青ざめさせた。


「ふ、不倫とかじゃなくて!け、健全な関係?」

「そ、そうです、僕達、そ、そんな関係で!?」


いや、健全な関係でも普通に浮気では?

相手が慌てていると、こっちがかえって冷静になるというのは、実際あるもんだとまるで他人事のように考える。


「あ、あの、お、僕達、さっき少し買い物した位で!」

「そ、そう、何にも、何にもしてないんです!」


そう言って全力で否定してくる二人。

……なんか、逆に怪しく見えるな、これは。

そう思っていると、男のポケットからチョコが落ちる。


「あ……」


俺はそれを見て、ため息をつく。

それを見た、留美さんと男性は、より一層慌てて、


「い、いや、こ、これは別に本命チョコ、とかじゃないです!」

「そ、そう、こ、これはさっきあげただけ、だから!」


——俺、貰ってないんだよなぁ。

そう思っていると、留美さんがついに、口を滑らす。


「ゆ、祐樹君のチョコは、し、失敗しちゃって!」

「あ、そ、それ言っちゃだめなやつ!」

「あ?あ!ああぁぁあ!?」


慌てて口を抑える留美さん。

しかし、決定的証言を聞き取った俺は、それを繰り返す。


「失敗したの?」

「い、いや、別に、そ、そんなんじゃなくて!」


留美さんの顔はどんどん真っ赤になっていく。


「あ、えっと、その、祐樹君には、さ、サプライズで、最高のチョコをあげたくて!?」

「い、言っちゃってるよ!?」

「あ、あぁ!?ち、違うよ!?」


そう言って手を横にブンブン振る留美さん。


「そ、そんなこと、ないよ!!?」


目もぐるぐる回っていて、テンパりは最高潮に至っている。

すると彼女はとんでもない行動に出始めた。


「あ、あぁ!?」

「る、留美さん?」

「わ、私、ぬ、脱いで、け、潔白を、証明します!?」

「あ、え、ちょ!?」


そう言って彼女はあろうことか上の制服を脱ぎ始めた。

それを見ていた男性も、「ぼ、僕も!」とか言いながらシャツのボタンをはずし始めた。


「あ、待って待って!?わかってるから!?」


俺は慌てて留美さんの腕をつかんでやめさせようとする。

俺は「この子も止めて!」と友人三人にお願いして男性を抑えている。

しかし、留美さんはとんでもない力で服を脱ごうとしている。


「も、もちろん私はできる子です!えぇ!証明ぐらい簡単ですとも!?」


とマジで意味不明な事を叫びながら意地でも脱ごうとしている。

やばい、止めないと、留美さんが外で服を脱ぐ変態になってしまう!

流石に切羽詰まった状況に俺の頭もテンパる。


「ええい!ままよ!」


俺はなんとか留美さんの気をそらすため、留美さんにキスする。

……しかも舌入れるぐらい濃厚な奴。

留美さんは、目を見開いたが、数秒間、そのキスを堪能し、隣の男性もまじまじと見つめる。

キスをやめて、留美さんを見つめる。

うるんだ眼の留美さんは、じっと俺を見た後、


「きゅう」


と言って気絶した。

男性も、俺たちのキスを見て、


「きゅう」


と同じように気絶した。


「留美さんと、弟君を、ど、どっか安全な場所に!!」


俺たちは、二人を近くの公園まで運ぶ。

その後、無事にチョコは貰えたが、いつの間にか友人二人から話が広まり、今度は「さとう夫妻」と呼ばれるようになった。

——俺も留美さんも、苗字、さとうじゃないのに。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ホワイトデーの翌日だからギリギリセーフ(?)。

ちなみに作者はバレンタインデー、チョコをあげて、貰いました(セルフトゥセルフ)。

ちなみに祐樹君は、「健全な関係」の時点でもう彼が留美さんの弟だと気づいてました。そりゃ、姉弟そろって焦り方が一緒なんですもん。

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テンパる彼女はいいわけばかり。やっぱり口を滑らせました。 青猫 @aoneko903

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