異世界転生した巫女ですがボケることしか出来ません 「あっぺんでっくす!」 その2

異世界転生した巫女ですがボケることしか出来ません

「あっぺんでっくす!」 その2


 いつものように、いつもの卑ノ女の部屋の中。

 退屈そうに資料を読み返している卑ノ女がいた。

 託宣の後、卑ノ女はいつもそうする。

 どんな事件が起きたのか、そして、他の可能性があったのでは無いか?

 いろいろなことを考えるために。

 正直言ってただの暇つぶしというのが大きかったりするが、ちょうど良い退屈しのぎになるというのも皮肉と言えた。

 知れば知るほど、アメノトリフネという船団の異常さが分かる。

 これだけの数の妖精が生活するためのリソースやエネルギィをどうやって確保しているのか、常々疑問だったが、その一端がしれたような気がした。

 この世界のことを知った方が良いのか、知らない方が幸せなのか。

 シルフ達エルフが自分に無駄な知識を与えようとしない理由も分かったような気がした。

 ここでの知識や技術のノウハウを地球に持ち帰ったら、それだけでドエラいことになる。声高に叫ぶだけで狂人扱いまっしぐらなのも理解していた。

 それにしても……。

 今までの歴代巫女は、そこら辺をどうしていたのだろう?

 エルフは、託宣をする期間が過ぎたら元の世界に還してくれると言っている。

 自分が召喚された同じ時間同じ場所に送り還すと言っている。

 おそらくそれは可能だろう。

 だけど……。

 なにかが心に引っかかっている。

 それが、なにかは分からない。

 分からないが……。

 心の片隅に、まるでトゲのように刺さって抜けない。

「シルフに聞いても答えてくれるのかなぁ……」

 そう呟く。

 だが、無理だろう。

 エルフ達は、問いかけても答えない時は、てこでも答えない。

「謎が多すぎる」

 情報が無ければ推理も予想も出来ない。

 妖精達が自分に情報を与えない理由があることも分かっている。

 余計な交流をわざととらせないようにしている理由も一部だけ分かった。

 だけど、おそらく……。

「それだけじゃない……」

 卑ノ女が思わずひとりごちたとき。

「巫女様……よろしいでしょうか?」

 不意に、おとないを告げる声。

 シルフの声だ。まぁ、ここには彼女しか来ない。

「良いに決まってるでしょ。好きに入ったら」

 卑ノ女は、ぶっきらぼうに答える。

 これはある意味、シルフにしか見せない態度だ。

「失礼します」

 いつものように中空から現れ、音も無く、猫のように舞い降りる。

 名前が指すとおり風の精霊みたいだと、いつも思わされる。

「今日はどうしたの?」

 卑ノ女がそう問いかけると、シルフは優しく近づいて、卑ノ女の前髪に軽く手を当て持ち上げる。

「良かった、痕はもう消えてますね」

 ほっと一息ついた。

「気にしすぎよ、そんなに傷も深くないから……」

 シルフは結構過保護だ。時折そう感じる。

「そもそも!」

「はっ、はい……」

 卑ノ女が、思わず引く勢いで詰め寄ってくる。

「なんであんなことしたんです!」

「あっ、あんなことって……」

 ひるんだまま押されてしまう。

「アウトローの前で無防備に頭を下げるなんて!」

「ああっ、下座の事?」

「ゲザ?」

 また、聞いたことのない単語。

「土下座の事よ。あんたたちもあたしにはじめて会ったときにやってたじゃない」

 卑ノ女がアメノトリフネに呼ばれたとき、ノーム博士は勢いよく土下座した。

 その勢いに押されてしまって、今の卑ノ女がいるわけで……。 

「この世界でも土下座が通用するって知ったとき、正直驚いたわ。土下座は宇宙共通言語なのね」

「…………」

 今度は、シルフが黙り込んでしまう。

 実はあの時、シルフ達が土下座したのは、ノームがやったからだけであって、その彼の行動に従っただけに過ぎない。

 あの行動の意味をシルフは分かっていなかったわけで……。

「シルフ?」

「あっ、いえ……」

「いやぁ、ほんと面白いところで共通事項があったもんだわ。あたしたちの風習と共通事項があるってだけでも面白いもんよねぇ~」

 しみじみと呟く卑ノ女を横目になんと答えれば良いのか分からないシルフ。

「あはっ、あはははははは……」

 彼女は、乾いた笑いを漏らすことしか出来なかった。

 そこまで、考えてふと脳裏をかすめる。

 まさか、巫女様が言う土下座をノーム博士は知っていた?

「シルフ? どったの? まじめな顔して」

「あっ、いえ……なんでもありません」

 彼女は、そう答えることしか出来なかった。



 異世界転生した巫女ですがボケることしか出来ません

 「あっぺんでっくす!」その2 おしまい

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