異世界転生した巫女ですが愚痴ることしかできません 「あっぺんでっくす!」 その1
「あっぺんでっくす」
その1
卑ノ女にあてがわれた、妖精の作ったなんちゃって和室。
そこで大胆にあぐらをかきながら、卑ノ女は今回の騒動の資料をパラパラと読み返していた。
「これ、ファイリングしたいわね……」
託宣以外は特に仕事がなく暇をもてあましている卑ノ女としては、こんな仕事の資料でも読み物として娯楽にするしか無いというのが、笑えない。
ただ、こう言う資料が唯一エルフの世界を学ぶ糧となる。
情報が欲しい。
自分はあまりにもこの世界のことを知らなさすぎる。
そんなことをボンヤリ考えていると。
「巫女様、よろしいですか?」
聞き慣れた声が、空間に響く。
「シルフ? どうぞ」
「失礼します」
見慣れたエルフ。ツインテールの長い髪をなびかせながらシルフが颯爽と室内に躍り込んでくる。
「どうしたの? まさかまた託宣?」
「いいえ、違います。少し時間が出来たので様子をうかがいに来ました」
こうして卑ノ女の様子を見に来るのも仕事の一環と言うことなのだろう。
「それは?」
卑ノ女が手に持っている珍しい紙の束に視線を送った。
「先日の資料よ。暇だから読み返してた」
「暇だから……って、邪魔でしょう。処分しましょうか?」
卑ノ女は、即座に顔を振る。
「数少ない暇つぶしの手段なんだから捨てないでくれる」
「暇つぶしって……」
シルフは、呆れ気味に溜息をついた。
まさか託宣の為に用意した資料をそんな風に使うとか、正直信じられなかった。
「ほんっとうに! 暇なの! なんもすることないし」
卑ノ女はことさら強調してみせる。
少しでも外の世界の情報が欲しい。処分されると困るからそれを止めたい。と言うのが本音なのだが。
「お暇なら、自然公園でもいかれたらどうです? そこの内燃機関でも使って」
「いいの?」
「ええっ、許可は取っておきます。多少は気晴らしになるかと」
「ありがとう」
卑ノ女は、素直に頭を下げた。
「いっ、いえ……巫女様の気晴らしになれば……。って、そうそう。当初の目的を忘れるところでした」
「んっ? なに、改まって」
唐突に話題を変えるシルフ。
「いえ、この前、なんであんなことしたんです? もしもドワーフが引っかかってくれなかったらどうするつもりだったんですか?」
「まぁ、そのときはそのときよ」
手をパタパタと前後に振りながら、笑って答えていると。
「いい加減すぎます。ドワーフがのってくれたから良かったものの……だいたい、なんであんな危険なこと思いついたんですか」
お小言のように矢継ぎ早に続ける。
「んっ~っと、まぁ、あれよ……」
「あれってなんんんです?」
今度は詰め寄ってきた。しかも言葉のバグも込み。
近い近い! 顔が近い!
息が当たるほど。
少し距離をとって、卑ノ女は続ける。
「いやさ、向こうの神社で、あたしが社務所で社番してた時の事なんだけどさ」
社務所? 社番? シルフには、卑ノ女の単語の意味が分からないが、話の腰を折らないためにスルー。
卑ノ女は、当時のことを思い出し、表情をコロコロ変えて続ける。
「そのとき外人がやってきて、聞いたことない言葉でまくしたててきたことがあったんよ。言葉からして英語じゃないし、勢いもすごいし、どこの国の言葉かわかんないしで、泣きそうになるぐらい怖かったのよね」
「つまり、その経験を活かしたと?」
「そうそう、あたしが、ワケのわかんない言葉で勢いよくまくし立てまくったら、さすがのドワーフも困惑するんじゃ無いかってね。最悪、こっちに注目するぐらいはするだろうって思ってやったわけ。上手く行って良かったわ~」
卑ノ女は、陽気に話を終える。
「そんな、いい加減な思いつきで……もう、二度とこういうことはしないでください……」
シルフは、絶句したままだ。
ああ、そのことの釘を刺しに来たのだなと、想いながら答えている。
「ん~、どうなのかしらねぇ。一度やった手は二度と通じないから、何度もやったりしないって」
卑ノ女は、おもむろに真顔。
「ところで、さ」
シルフも釣られてマジ顔。
「なんですか、改まって?」
「あの時の外人って、あたしになにを伝えたかったんだろうね」
「わたしに分かるわけ無いでしょう!」
思わず本気で怒鳴り返していた。
異世界転生した巫女ですが愚痴ることしか出来ません
「あっぺんでっくす!」その1 おしまい
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