中編

「さて、ここからだよ」


 クリスは新聞紙を開ける。

 大きかった星屑の結晶は、無残にも細かく砕かれてた。形が残っているものもあれば、粉になっているものもある。

 クリスは、その全部の星屑達を、水を張った鍋に放り込んだ。


 星屑は、自ら淡く発光する。

 星屑の黄色い光は、水面が揺れるのと一緒にゆらゆら揺れる。


「これをね、火にかけるんだよ」


「これを?」


「そう。ほら、枯れ枝拾ってきて」


 適当に、そこらへんに転がってた枯れ枝を拾う。拾って、山のように積み重ねる。

 クリスは「センスがないね」ってぼやきながら、山にした枯れ枝を組み直す。

 文句言うなら、俺に頼むんじゃねぇよ、全く。


 新聞紙に火をつけて、それを枯れ枝の中に。

 火は段々と大きくなり、焚火になった。


 そこに鍋を置く。

 しばらく待つと、水が沸騰してきた。ぶくぶくと泡が立ち、中の星屑がくらくら揺れる。


 その時の光景といったら、言葉に表せないほど綺麗だった。


 黄色の星屑は、熱を加えられたことでより一層鮮やかに発光する。

 金のあぶくが割れるとともに、光が辺りに散らばって、まるで線香花火のようだ。

 その光を、両手で捕まえてみた。それは熱くもなく冷たくもなく。手の平を覆うように光がじんわりと沁み込んで、手そのものが光を放ち始めた。


 星屑は、熱を加えると甘い香りを放つ。

 この時の香りは、バニラの香りにとても似ていた。甘くて優しい香りだ。


「すげぇ」


 俺はクリスの顔を見る。

 クリスも、俺と同じように、はじけ飛んだ光を捕まえて遊んでいた。俺よりも捕まえるのが上手いんだろう。クリスの両手も、顔も、光が随分と沁み込んで、薄く淡く発光していた。

 その姿があんまりにも神秘的で、星屑の甘い香りも相まって。


 まるで愛の神エロースのようだ。なんて、思ってしまった。


「どうかした?」


 ふわりと微笑んで、甘い声でそう尋ねてくるもんだから。

 俺の心臓がドクンと跳ねて。


 こんなのおかしいって。

 クリスは男なんだから。

 綺麗な現象に心動かされただけなんだ。


 なんて、言い訳して。

 でも、そんな言い訳じゃごまかせないんだって、心のどこかでは気づいてた。


 時間にして三十分だろうか。


「あぁ、もうそろそろ終わっちゃうね」


 クリスは呟く。

 星屑は光を失いつつあった。というより、星屑自体が消えつつあった。


「これが難点なんだよね。砕いて火にくべたら、光を最大限使えるけど、一瞬で消えてしまう。

 ゆるく永く、固形のまま使えば、半永久的に使えるのにね」


 やがて、俺たちの体からも光が抜けていき、辺りは再び夜に包まれた。

 さっきの、まぶしいくらいの明るさに目が慣れていたものだから、夜の中では何も見えない。クリスの顔だって。


 そう思いクリスの顔を見ると、こいつの顔だけははっきりと見えたんだ。


 星の光に照らされて、ふわり微笑むクリスの顔。

 やはり愛の神エロースのように見えて、くらくらしてしまう。


「ねぇ、僕の秘密、教えてあげるよ」


 クリスの顔が近づく。

 柔らかなそれが、唇に触れる。


「これは……」


 気の迷いなのか? それとも。


「お前の秘密って、そういう……?」


「ふふ、どうだろうね」


 クリスはそう言って、俺から顔を背けてしまった。

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