【KAC20237】君を裏切っても、この「好き」はごまかせない

尾岡れき@猫部

君を裏切っても、この「好き」はごまかせない



 チクチクと胸が痛い。最初はその程度だったのに。嘘はつけばつくほど、胸が圧迫されて、息苦しい。


 大学の講義で、席が近かった。経営学部マーケティング学科。最初はそれだけだった。ゼミが一緒。集う仲間も一緒となれば、沙耶さやと一緒にいる時間も増えた。


 だいたい、ゼミ仲間は彼女持ちが多い。

 不純な動機だが、自然と沙耶をそんな目で見てしまっていた。


「私だってそうやよ?」


 沙耶は照れくさそうに笑う。

 関西出身の沙耶。広島出身の俺。育った環境は違う。でも、一緒にいて気を遣うことがまるでなくて。一緒に過ごすことが、当たり前になって。


 たった一つのウソ。

 ソレを除けば。


 どうして、最初から素直に言わなかったんだろう。

 それをゼミ仲間の上川や高倉に聞いたら、呆れた顔で突き放された。


「「そりゃ、素直に言うしかないでしょ」」


 そうなのだけれど。

 間違いなく、それが正論なんだけれど。一度ついたウソのせいで、どんどん息苦しさが増していく。


 今この瞬間、沙耶がホットプレートでお好み焼きを作ってくれている。


 そんな沙耶を見やって。


 罪悪感、そして後悔が。ソースの香と混ざり合う。

 このままウソをつき続けられたら、その方が、幸せなのかも。


 それなのに――自然と、漏れるため息に沙耶が首を傾げた。


「どうしたの、俊介しゆんすけ? もしかして、体調が悪い?」

「いや、そうじゃなくて……」


 沙耶の優しさ。その暖かさが、より胸を締めつける。じゅーと、焼く音がして。少し、ソースが焦げる香が鼻腔を満たす。


 好きなんだ、って思う。

 隠せない。ウソはもうつけない。


 沙耶を傷つけたくない。でも、そんな言い訳で、自分の感情はごまかせない。


「……沙耶」

「俊介……?」


 ゴクリと唾を飲み込む。

 意を決して、俺は本音を紡いだんだ。



















「俺さ……お好み焼きはが好きなんだ!」

「はぁ?」



 お好み焼きは、関西か広島か。

 不毛な戦い。そのゴングが今、鳴らされたのだった。

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