第14話 本物の勇者様
「勇者様……おっしゃっていましたよね。『ドラゴンを倒したのは自分じゃない。誰かが倒した』と」
「そうだね……」
僕がこの世界に来たとき、そこにはドラゴンがいた。そのドラゴンはシオンさんと戦っていて、シオンさんは窮地に立たされていた。
しかしドラゴンは、戦いの途中で突然真っ二つになった。もちろん、僕がやったわけじゃない。シオンさんも気絶していたから……
「では……誰がアヴァールを倒したのでしょうか?」
「あ……たしかに……言われてみれば……」
今まで勇者のフリで精一杯だったが……思い返してみればそうである。
「アヴァールっていうのは……四天王と呼ばれる存在なんだよね。だから……相当強いはず」
「そうですね……今まで幾度となく、殺されかけています。そして今回、本当に殺されるはずだった」そこまで追い詰められていたらしい。「そのアヴァールを真っ二つ……そんなことができる存在がいるでしょうか。仮に私が万全でも、真っ二つは厳しいかと……それはミュールやリャフトも同じでしょう」
ミュールさんは、さっき会った片腕の人だ。話の流れ的に、リャフトという人も、女神の末裔の1人なのだろう。
「だから私は、その場にいたあなたを勇者様だと思ったんです」
「なるほど……」勇者以外に、ドラゴンを真っ二つにすることは不可能だと思ったわけだ。「だったら……もしかしてドラゴンを倒したのは……」
「はい……」シオンさんも同じことを考えているらしい。「ドラゴンを倒したのは本物の勇者様ではないかと」
「……そうかもしれないね……」
話を聞く限り、女神の末裔というのはとても強い力を持っている。だから勇者と交わって、さらなる血を求めた。
その女神の末裔を絶命寸前まで追い詰めた四天王……その存在を真っ二つ。そんなことは勇者くらいにしかできない。
「ドラゴンを倒したのは本物の勇者の可能性がある」そこまではわかった。「じゃあ、本物の勇者様はどこに行ったんだろう。なんでドラゴンを倒して、姿を現さないのだろう」
「……そこが疑問ですね……」ドラゴンを倒して、自分が勇者だと名乗り出ればいい。「なにか、表舞台に出られない理由があるのでしょうか」
「可能性はあるけれど……」それなら今回も助けてくれない気もする。あるいは、秘密裏に魔王を討伐してくれそうではある。「勇者の他に、それに匹敵する力を持った存在がいる可能性もあるけれど……それでも、姿を見せないのは違和感だね」
勇者として出てくれば盛大にお祝いされる。仮に勇者じゃなくても英雄扱いされるだろう。なのに、ドラゴンを倒した存在は現れない。
「……わかりませんね……」シオンさんは首を振って、「時間があるときに、またあの場所に行ってみましょう」
「アヴァールと戦ってた場所だね」
「はい。あの場所に本物の勇者様が現れたのなら……なにか手がかりがあるかもしれません。それに……」
「それに?」
「……あんまり村にいると、伝説の剣を抜きに行くことになります。情報収集と称して、少し時間を稼ぎましょう」
なるほど……時間を稼ぐということは、伝説の剣イベントは避けては通れないらしい。そりゃそうか。勇者にしか抜けない伝説の剣なのだ。勇者が現れたのだから、抜いて欲しくなるだろう。しかし当然、僕には抜けない。だから逃げるしかない。
……まぁ最終的にはごまかさないといけないよな……なんとかしよう。言い訳を考えておこう。幸い言い訳は得意だ。今日の演説のように、なんとかなるだろう。
「では……さっそく明日、本物の勇者様の痕跡を探しに行きます。それでいいですか?」
「僕はいいけれど……シオンさんは大丈夫?」
「大丈夫です。体力には自信がありますし、なにより時間がありませんからね」
時間がない……そうだ。僕が勇者じゃないとバレるまでに、なんとかしないといけない。本物の勇者を探し出さないといけない。1日たりともムダにはできないのだ。
それにしても本物の勇者様、か……
僕はやっぱり、勇者じゃないんだな。ちょっとだけ、ショックだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。