第11話 楽しんでる?
「勇者様……」僕のあいさつ……いや、演説が終わって、村長が僕に言う。「素晴らしい言葉でした……己の力のみを誇示するのではない……ちっぽけな我らに寄り添った言葉を……」
「いえ……」実際、本心からの言葉もある。「今までのあなた方の戦いは、決してムダではないです。いや、ムダにしてはいけない。だからこそ……ここは、まだ気を緩めるべきではありません」
「そうですね……これはお恥ずかしい。勇者様が現れて、すべてが解決した気でいました」
どんだけ信用されているのだろう。いくら伝説とは言え……さすがに盲信しすぎな気もする。
いや……それくらい追い詰められていたのだろう。伝説にすがらないといけないほどの状況だったのだろう。仕方がないことだ。
「しかし……せっかく用意したパーティだ。気を緩めているわけではないので……できる限り、勇者様もお楽しみください」
「……ありがとうございます……」
ここまで準備したパーティをムダにするのも気が引ける。最低限、楽しませてもらおう。少しばかりホッとしている僕の横で、シオンさんが村長に聞く。
「ミュールとリャフトがどこにいるか、知りませんか?」
「ああ……どこだろう……リャフトはわからないけど、ミュールは祭をどこかで楽しんでると思うよ」
ミュールとリャフト……そんな2人がいるらしい。この場で名前を出すということは、シオンさんが重要だと思っている人物なんだろうな。
そして村長との会話を終えたシオンさんが、
「お疲れ様です……」僕に尊敬の目を向けて、「……さっきのお話、感動しました」
「……そう?」
「はい……村長も言っていましたが……私たちの苦労もちゃんと見ていてくれた……そのことが、嬉しかったんです」それからシオンさんはちょっと子供っぽく笑う。結構童顔なので、そっちのほうが似合っていると思う。「最初に勇者じゃないって言い出したときは、どうなることかと……」
「そうだね……」結構一か八かだった。「でも……それなら嘘は言ってない」
僕は勇者じゃないと、しっかりと言っているのだ。仮に僕が勇者じゃないとバレても……まぁギリギリ免罪符があるだろう。効果は望み薄だが。
「ありがとうございます……これで、村のみんなは希望を信じたと思います。しかも未来のためを思って、気を引き締めてくださった……本当にあなたは……優しいんですね」
「優しいというより……まぁ、口が上手いのかな?」言い訳だけは得意だ。「そう考えると……勇者のフリは得意かもね」
勇者をやるのは苦手だろうけど、勇者のフリは得意かもしれない。あくまでも、かもしれないだけだが。
「さて……まず最初の難関は突破でしょうか」僕もそう思う。「これからパーティに参加していただくことにしますが……どうします? 場合によっては、休ませてもらうということも可能だと思います」
「そうなの?」
「はい……勇者様を歓迎したいという気持ちはもちろんありますが、これを気にパーティをして楽しみたいという気持ちもあります。勇者様の参加の是非に関わらず……このパーティは盛り上がりますよ。とはいえ……勇者様がいたほうが、盛り上がるとは思いますが」
「じゃあ、参加するよ」いるだけで盛り上がるなら、いてもいい。さっきの演説で、多少の自信もついたし。「それから……」
少しばかり気になっていたことを聞いてみる。
「……ねぇシオンさん……」
「なんでしょう?」
「……キミは……熱がある?」
「……」シオンさんは首を傾げて、自分の額に手を当てる。「どう、でしょう……自覚はありませんが……」
「ちょっと失礼」僕はシオンさんの額を触って、「……いや……ダメだよ、これ」
今まで感じたことがないくらい熱い。驚いて手を引っ込めそうになってしまった。よくよく見るとシオンさんの顔も赤い。息切れもしているようだし……もしかしたら、傷が開いたりしているのかもしれない。
考えれば熱が出るのも当然か。本来彼女は、寝ておかないといけないのだ。死んでもおかしくないほどの傷を負っているのだ。僕のためについてきてくれているけれど、休んでおかないといけない。
「休んでて」
「え……いえ、しかし……」
「こっちは僕1人で大丈夫」
「で、ですが……」
「大丈夫だよ」パーティくらいなら乗り切れるだろうし、「それに……さっき言ったよね。村の平和を守りたいって」
演説で、僕はそう言ったはずだ。
「その守りたい存在の中には、当然シオンさんも含まれてるから」
「……」シオンさんはキョトンとした表情で。「守る……?」
「うん。キミのことも守りたい。だから、その傷をできるだけ治してほしいと思うんだけど……」シオンさんの反応的に……「なにか、おかしなことを言ってるかな……?」
ちょっと不安になってきた。
「いえ……その……」なんだか反応に困っているようだった。「……しかし、そうですね。明日以降のことも考えると、私が休むことが最善でしょうか」
「そうだね。最善だと思う」ボロボロの状態では戦えない。多少は元気になってもらわないと。「こっちは大丈夫だから……ね?」
「……ありがとうございます……では、ご厚意に甘えさせていただきます」
そう言って、シオンさんは深々と頭を下げた。そして自宅に向かって歩き始める。
後ろ姿を見る。右足を、引きずっているように見えた。右膝……やっぱり痛めてるんだな。
そんな状態で僕についてきてくれたのか。しかも今回休む理由も、自分が休むことが村にとって最善だから、という理由。
自己犠牲……そうまでして彼女は村を守ろうとしている。そんな彼女のことを、僕は守りたい。
……
……ああ……僕は完全に、彼女に恋をしているらしい。勇者に間違われたという立場を利用してまで、彼女との接点をなくしたくないらしい。
……下心丸出しだけれど……まぁいい。ともあれパーティだ。一応僕の歓迎パーティなのだから、少し楽しませてもらおう。
そう思って振り返った瞬間だった、
「やっほー勇者様。楽しんでる?」
そんな明るい声が聞こえた。
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