第3話 祝! 勇者様降臨!
子供の声だった。少年の声とともに、2人の少年が僕のもとに……いや、シオンお姉ちゃんとやらに駆け寄った。どうやらこの少女の名前がシオンと言うらしい。お姉ちゃんと言っているが……血縁関係上の姉ではなさそうだ。
「お姉ちゃん……!」少年がシオンさんに寄って、「ねぇお姉ちゃん……! お姉ちゃん……生きてるの?」
「生きてるよ」安心させてあげようと、僕は言う。「といっても傷がひどいから……村まで案内してもらえると助かる」
「わかった……」それから少年は僕を見て、「あなたは……?」
「えっと……僕は……」
「あ……!」少年が真っ二つになったドラゴンを見つけて、「もしかして……」
……この流れはいけない。さっきも見た流れだった。
そして少年は、僕の予想通りの言葉を言った。
「勇者様?」違う、と否定するより前に、「やった……! 勇者様! 来てくれたんだね!」
「ちょ……」少年に抱きつかれて、バランスを崩す。「あの、僕は……」
「こうしちゃいられない……」少年の1人が駆け出して、「村に伝えてくる! 勇者様が来てくれたって!」
「いや、だから……」
弁明する間もなく、少年は走っていった。そして残されたのは僕とシオンさんと、もう1人の少年。
その少年は、目をキラキラさせて僕を見ていた。完全に僕が勇者だと信じ切っているようだった。そりゃこの場でドラゴンが真っ二つになっていれば、僕がやったと勘違いされるのは当然かも知れない。
しかしまぁ……勘違いされてもいいか。おそらく村がドラゴンに襲われて困っていたのだろう。ならばドラゴンを倒せば勇者の役割は終わりだ。旅に出るとでも言って、去っていけばいい。それまでは勇者のフリをしてもいいかもしれない。
というより……
「シオンお姉ちゃん」少年は倒れているシオンに向かって、「今までありがとう……守ってくれて。でもね、もう大丈夫だよ。勇者様が来てくれたから」
言い出せない。今さら勇者じゃないなんて、言えない。口が裂けても言えない。この純粋な笑顔が消えてしまうと考えると、どうしても真実が告げられない。
「ありがとう勇者様」泣きそうな笑顔を少年は向けてくる。「これで……村は救われたよ。ありがとう……」
「いや……そんな……お礼を言われるようなことはしてないけど……」
「勇者様は謙虚なんだね」本当に何もしてないのだけれど。「でも……ありがとう」
それから少年は立ち上がって、
「とりあえずシオンお姉ちゃんを治療しないと……」
「そうだね」勇者問題は後回しだ。まずは人命が大事である。「僕が運ぶから、キミは村まで案内をお願い」
「了解」
そうして、僕はシオンさんを背負う。
……軽い。年齢としては高校生くらいだと思うけれど、とても軽く感じる。こんな軽い体で、僕のことを守ってくれていたらしい。彼女が目を覚ましたら、お礼を言わなければ。
彼女が軽いとは言え、僕の体力は低い。とはいえすぐにヘロヘロになるのも格好が悪いので、できる限り虚勢を張って歩き続けた。
村までは結構な距離があった。途中でシオンさんの容態が見たいという理由で休憩させてもらって、また歩く。寂れた公園とやらを通り過ぎて、そして、
「ついたよ。あそこが僕たちの村。名前なんてないけど……良い村だよ」
「……そうみたいだね……」
村を遠巻きに眺めて、絶望した。
村の入口には……横断幕があった。問題はその内容。
『祝! 勇者様降臨!』
その横断幕を見て、思った。
これ……絶対に逃げられないやつだ。 もう勇者のフリをしないといけないやつだ。というより、勇者じゃないなんて言い出したら、殺されてしまう。
……どうすればいいんだ……さっさと逃げてしまいたい。僕は勇者じゃないのだから、いつかは本当の勇者が現れるだろう。それまで逃げていればいい……
いや……無理だな。だって……もう村の出入り口で村人たちが出迎えてくれてるもん。勇者の降臨を、心待ちにしてるもん。全員、希望に目を輝かせているもん。
ああ……僕の異世界生活……いったいどうなってしまうのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。