第2話 勇者様……!
僕はどうやら別の世界に来たらしい。そして、いきなり巻き込まれたVSドラゴン。
ドラゴンと戦っていた少女は倒れた。僕をかばって炎に焼かれ、苦しそうに呼吸をしている。生きているだけでもすごい生命力だと思うが、さすがに行動不能らしい。
そして、ドラゴンが僕の目の前に着地する。地面の振動が僕の心臓ごと揺らす。それは生まれて初めて感じた死の予感だった。
「お前は何者だ?」ドラゴンは言う。「なんの気配もなく現れおって……とんでもない使い手かと思えば、ただの
僕のせいで少女は倒れた。本来ならドラゴンの火炎を避けれただろうに、僕をかばったから……
なんとかしなければ。この少女をここで死なせる訳にはいかない。絶対に助けないといけない。
しかし……僕にできるだろうか? 異世界に転生して、すごい力を手に入れていたらできるかもしれないが……今のところ、自分自身に力を感じない。
「まぁいい……ついでにお前も死んでおけ」
ドラゴンはしっぽを振り上げる。天高くまで掲げられたそれは僕に向かって一直線に落ちてきた。避けることも受け止めることもできず、そのまま潰されかけたときだ。
「……まだ動くか……」ドラゴンの尻尾を受け止めた少女を見て、ドラゴンが、「バケモノめ……なぜその体で動ける?」
ボロボロのはずの少女が、また僕を守ってくれた。しっぽをしっかりと受け止めて、
「……まだ……まだ私には使命があるんです……ここで、終わるわけには……」
「使命だと? まだ勇者などという幻想を信じているのか……そんなもの、いるわけがないだろう?」
「……幻想でも……すがらないと……もう……」
少女の言葉の途中で、ドラゴンがまたしっぽを叩きつける。一度は受け止めたが、もう一度振り下ろされたしっぽに、少女は叩き潰された。地面に倒れて、そのまま意識を失ったようだった。
「終わりだな。お前が倒れれば……もう村に脅威はない」そしてドラゴンは鋭い爪を少女に向けて、「せめて覚えておこう。お前という強者がいたことを、歴史に語り継いでやろう」
ドラゴンの爪が少女に近づいていく。「やめろ!」と僕はもう一度叫ぶが、ドラゴンは手を止めない。
なんとかしなければ。なんとかしなければ。思うばかりで体は動かない。
……
ダメだ。僕には何もできない。あのドラゴンを倒して少女を助ける方法なんて持ち合わせていない。
せめて逃げよう。少女が守ってくれた命を大切にしよう。このまま2人ともやられるくらいなら、僕一人でも逃げた方がいい。
そうだそれがいい。さっさと逃げて……
「……邪魔だ小僧」
「え……?」ドラゴンの声で、僕が少女の前に立ってドラゴンと対峙していることに気がついた。「あ、あれ……?」
逃げようとしたはずだ。なのに、気がついたら少女の前に立っていた。ドラゴンから守ろうとしていた。
……なにができるでもないのに……なにもできないのに。殺されるだけなのに。逃げたほうが良かったのに……守ってもらった命をムダにしてしまった。
ドラゴンがため息をついて、また爪を振るう。
今度こそ死んだ。走馬灯も見えない。そんなものが見えるほどの人生は送っていない。薄っぺらい人生だったから、思い返すこともない。
終わったと思った、瞬間だった。
「……な……!」突然ドラゴンが驚愕の声を上げた。「……な、なんだ……? これは……!」
そして、ドラゴンの体がズレていく。胴体から真っ二つになって、少しずつ上半身が地面に近づいていく。
「バカな……」ドラゴンの上半身が地面に落ちて、「なにが……いったい……誰が……いつ……」
そのままドラゴンは喋らなくなった。目の光が消えて、絶命したようだった。
ドラゴンはものの見事に、真っ二つになっていた。ドラゴンは切られたことにも気づかず、死んでいった。
いったい誰が、ドラゴンを切ったのだろう。それもキレイに真っ二つだ。断面を見て、美しいという言葉が浮かんでくるほどの一撃。
あたりを見回すが、誰もいない。この場にはドラゴンの亡骸と、気絶している少女だけがいる。
……
もしかして僕の潜在能力……いや、違うだろうな。無意識のうちと言っても限度があるだろう。僕以外の誰かが、ドラゴンを切り裂いたのだ。
誰がやったのかはわからないが……助かった。
そして正気に戻って、
「あ……ねぇ、キミ……大丈夫?」僕は少女に駆け寄って、「意識……というより、生きてる?」
呼吸を見てみる。どうやら息はしているようだ。しかし出血量や先ほどの戦いを見ていると、放っておいたら死んでしまいそうである。なんとか治療しなければ。とは言え僕は医療なんて勉強していない。
近くの村……それもどこかわからない。闇雲に歩いてたどり着けるとは思えない。
ならば、
「ねぇ……! 起きて!」この少女に村の位置を聞くしかない。起こすのは忍びないが、それが最善だ。「近くの村の方向を教えてくれるだけでいいんだ……だから……」
「……う……」声をかけ続けていると、少女が苦しそうに目を覚ました。「あ……私、は……」
「良かった……」ひとまず生きているようだ。「ねぇ……近くに村はある?」
「村……」そこで、少女はハッとしたように起き上がる。しかし、「っ……! うぅ……!」
体を抑えて、咳き込む。その
「無理しないで」僕は体力なんてないが、背負っておくしかないだろう。「村の場所を教えて。そうしてくれたら、連れていくから……」
「……」少女はとある方向を指さして、「向こうです……途中に寂れた公園があって……」
「わかったよ」
方角がわかれば歩くだけだが、
「あ、あの……」少女は僕を見て、「あなたは……? それに……アヴァールは?」
「……アヴァール?」
「あのドラゴン……」そこで少女は、ドラゴンが真っ二つになっていることに気がついたようだった。どうやらこのドラゴンがアヴァールというらしい。「……あ……あぁ……」
少女が目を見開く。そして信じられないというように首を振る。
……マズい……倒しちゃダメなドラゴンだった? いや、倒したのは僕じゃないけれど……もしかして友達? ドラゴンと共存してるタイプの異世界? だったら……助けないといけないのはドラゴンのほうだった? いや、でも殺し合いしてたように見えたし……
「ご、ごめん……」
とりあえず謝ろうとした瞬間だった。
「勇者様……!」少女はそんな事を言いだしたのだった。「来て……来てくださったのですね……ずっと、待っておりました……!」
「え……?」
……勇者? 勇者って、僕のこと?
「あぁ……」少女は大粒の涙をこぼして、「ようやく……ようやく……間に合いました……これで……村は……」
「え……いや、ちょ……」
たぶん僕は勇者じゃないです。そう言いかけたが、
「あ……」安心しきったように、また少女は気絶してしまった。「まいったな……どうしよう……」
僕は勇者じゃないのだけれど……まぁ少女が目が冷めたら弁明すればいいか。とりあえず、少女に教えてもらった村を目指して……
「シオンお姉ちゃん!」
遠くから、そんな声が聞こえた。
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