電話には明日の昼までつながらない

馬村 ありん

電話には明日の昼までつながらない

もしもし、わたし。


あのね、アカネにお願いしたいことがあるの。


もしケンから電話があったら、アミサはバイトだよって――。


そういうこと。口裏合わせてほしいんだ。


いま私って浮気してるじゃん。


何堂々と言ってんのって? フフフ。


だって彼医学部だし、実家太いし手放したくないもの。ケンはケンで顔つよいし。


ぶっちゃけお母さんにもお願いしてんだよね(笑)。


ケンから図書館に行かないかって連絡あったらしいんだけど、誰が行くかよって。てか親の職場だし(笑)。


そう、旅行。


函館にお泊りするんだ。全部彼持ち(笑)。わたしタダメシ(笑)。


いいでしょ~。


なにか美味しいもの買ってくるから、よろしくね!


トラピスト修道院のクッキー?


分かった、楽しみにしてて。


じゃあ、よろしくね。


ばいばーい。





アカネ:


もしもし、ミカワです。


あ、ケンくん?


どうしたの、珍しいね、私に連絡よこすだなんて。


え、アミサ?


アミサがどうかしたの?


アミサなら普通にバイトだよ。


これからシフトに入るみたい。


まあ、そうだね。あそこ、朝まで激混みだしねー。


ケンくんったら、そんなに心配?


けっこう自由な人かと思ってたけど、束縛が強いんだね~。


そんなことはない? 心外だって?


ごめんごめん、怒らせちゃったかな?


今度クッキー食べさせて上げるから許して。


うん、会社の友達がお土産に美味しいクッキー買ってきてくれるの。


函館だっていう話だったな。


そう? じゃあ、また今度ね!





ケン:


もしもし、僕だよ。


夜ご飯は食べたの?


もしまだだったらこれからどうかな。


近所にできたとんこつラーメン屋めちゃくちゃ美味しいんだって。


アミサはだってね。


友達のアカネちゃんがそう言ってたよ。くすっ。


そんなことより、図書館に行くっていうのを伝えてくれてありがとう。


あなたの職場なわけだし、僕たちのデートの言い訳にできるね。


――僕だって愛してるよ。


あなたの娘さん以上に。

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