第6話
「そう、だよね。やっぱり、嫌だったよね。人のこと煽る人なんて関わるだけでも嫌だよね。ホントに、ごめんね」
…?え?煽るでも顔を赤くするでもなく謝罪?
「ちょちょちょい。お前ホントに違うじゃん。ただ俺が嫌な奴になっちゃうから。言い返してくれないと」
ちょっと予想外すぎて反応が遅れたが、さよなら、と言って部屋から出ていこうとするユウ子の肩を掴み阻止する。どこ行こうとしてるんだこいつは。ここお前の部屋だぞ。
いや、今はそんなことではない。ちょっと言いすぎたのだろうか?いや、確実に言いすぎたんだな。だから俺はいつも女の子にモテないって、コイツに言われるんだろうな。
「離してよ」
「離さない、離したらどっか行くだろお前」
「同情なんていらないもん」
そうやって意固地になっている幼なじみに対し俺は、少し面倒くさくなってきた。いやこんな言い方はダメか。
いやでも、こんな時間にこいつの勘違いでこれだけ時間取られてるんだ。少しぐらいはいいか。
そう考えた俺は、ユウ子の顔にぐいと手を伸ばし、こちらに向けさせる。そしてそのまま言葉を紡いだ。
「これは同情とかそんなんじゃない。俺がお前のことが好きでやっていることだ。大体、俺がお前のことを嫌いになるわけないだろ」
「で、でもボク…」
「いつも通り俺が何かやらかして。で、それをいつも通りお前がネタにして。それを俺は好きだからさ。だから、俺の隣で、ずっと俺のこと煽っててくれって」
俺はそう言って、涙の流しすぎで赤くなっている幼なじみの顔に向かって、ハンカチを投げつける。
ポフン、と顔に当たってそのまま床に落ちるかと思われたそれは、しかしてユウ子の手の中に収まった。
ポカン、と間抜けヅラを晒しているユウ子に向かって一言「じゃあな」というと、ユウ子をそのままに俺は自分の家へと向かった。
そろそろ補導される時間帯だ。帰らないといけない。
「いや、それにしても恥ずすぎ。よくあんなこと言えたな俺」
家に帰って俺は1人悶絶していた。あまりにも、あまりにも小っ恥ずかしいことを言ってしまっていた。
あの間抜けヅラもたぶん、呆れてものも言えなかった顔なのだろう。
また次会った時に威勢よく俺はからかわれるんだろうな。
まあでも、それでもいいかもしれない。幼なじみで親友のあいつの、元気が戻ったのなら。
まったく、最初は友達を作るために離れようっていってたのに、結局はそれも叶いっこしなかった。
「俺、あいつのこと好きすぎだろ」
小さい頃からずっと一緒にいた一番の親友。最初は、幼稚園の隅で丸まっていたあいつを見て、心配から声をかけたが、今では立派に元気で、俺の親友。
それはこれまでも、そしてこれからも変えたくない。
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