第5話

「ひぐっ、ぐずっ、うう…」


「あ、ああ。勘違いさせて悪かったな。別にお前のことは嫌いになったわけじゃないから、な?泣き止もうぜ」


さっきの言葉に安心でもしたのか、泣き出した幼なじみの背中に手を回しながら、俺はあやすようにポンポンと手を叩く。


「ボク、ボク。嫌われたと思って…」


「嫌わない嫌わない」


「良かった、良かったよ"お"お"ぉ"お"」


「おーよしよし」


俺はその後しばらく、ユウ子が泣き止むまで、ユウ子の頭を撫で続けることとなった。










「ごめんね、迷惑かけちゃって」


「いや、気にするなって。お前だけが悪いってわけでもないし」


落ち着いた後、申し訳なさそうに謝ってくるユウ子に、少し罪悪感が湧いてくる。


「まあ、確かに。ろくな説明もせず勘違いするような言い方をした達彦が悪いよね」


前言撤回。罪悪感なんて一切湧いてこなかった。むしろ腹まで立ってきたくらいだ。元はと言えば勘違いした上に人の話を聞いていなかったこいつが悪いんだし。


「はいはい、俺が悪うございやした。ですから、そろそろ許してくれませんかね」


「嫌でーす。君はボクの心を揺さぶった罰として、『正座コース〜ボクを膝の上に乗せて〜』の刑に処するからね。あれ?もしかして、嫌な理由って、ボクが美少女すぎて反応しちゃうからかい?」


「ちげぇよ足が痺れて痛いんだって」


こいつっ!人の心配を返しやがれ。さっきまでのお前はどこいったんだよ。


そういえば今思い返してみると確かに、さっきのあいつはあまりにもこいつらしくなかったな。もしかして、俺に嫌われたから、とか?


「そういやユウ子お前、いつも俺のこと煽っといて、俺に嫌われたとなるとその様かよ。笑えちまうな」


ぴたりと動きが止まった。どうやら効果は抜群のようだ。さて、このネタでどれぐらいからかってやろうかな。


そんなことを思うが、俺の頭には「自意識過剰乙笑笑(中国語に非ず)」といってバカにしてくるユウ子の顔と、言い返せない俺の姿がすぐに浮かんだ。


どうやら俺はこれですら揶揄うネタにできないようだ。これから毎日本まいにちほんでも読んで語気?語詩?語利?違うな。あ、語彙か。ボキャブラリーでも身につけようかな。


そんなことを考えているうちに、俺の膝上からユウ子が離れた。俺の敗北まであと数秒。


何がくる?自意識過剰乙笑笑か?それともまさかの図星で顔を赤くでもさせて反論してくるのか?


そして少しして、ユウ子がその口を開いた。

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