わざとじゃないんです

平行宇宙

第1話

 「前の宇宙船、止まりなさい。すみやかにエンジン停止!」

 ウーウーウーウー・・・・

 赤色灯を回転させて、通称小型パトカー、ミニパト。白黒がかわいいパンダカラーの4人乗り宇宙船の中で、私は呼びかける。


 私、宇宙警察交通課3年目のマルシア。マルシア巡査長であります。

 人類がその生存域を太陽系の1部にまで広げて、早222年。

 そう現在宇宙歴222年。

 月と火星、そしていくつかのコロニーって呼ばれる人工衛星に作られた都市が我々人類の生息域。母なる大地地球に住めるほどのお金持ちはきれいになった大地で優雅に暮らしているけど、多くの庶民は、今や宇宙のどこかで暮らしている。


 その中でもまだ星である月や火星に住むのはリッチな人。

 私もだけど、普通はたくさんあるコロニーで生活している。

 私が生まれたのはL5コロニー。

 月と地球の引力バランスが絶妙な場所をラグランジュポイントって言うんだけど、初期のコロニーはこういったところに建てられた。それをできた順にL1、L2なんて名付けた、まぁ、コロニーの5つめが私の実家。


 つまりは、古いってわけでLナンバーの住人は歴史があるって自慢するけど、外の人からは時代遅れのポンコツ扱い。

 実際、若い人は新しい場所に夢を抱いて移住するから、Lナンバーのコロニーでは、年寄りか、別の場所に移動する金のない貧乏人が多く暮らす。

 そんなわけで、姥捨て山、とか、スラム、なんて揶揄されている。


 まぁ、実際貧乏なんだわ。

 宇宙移住のための実験棟、みたいな形で建てられて、でも政府からはすでに用済みってなっているような場所。

 私もじいちゃんに育てられた。

 じいちゃんの娘がうちの母ちゃん。父ちゃんは不明。

 貧乏で、合成食料を中心に育ったけど、まぁまぁ幸せだった。

 けど、やっぱり治安とか悪くってねぇ。

 母ちゃんと買い物行ってる時に事件に遭った。

 私が8歳だったかな?

 ショッピングセンター内で無差別発砲。

 私をかばって、母ちゃんは死んだ。


 そのとき、私もやばかったんだ。

 でも、母ちゃんに抱えられた私の前に制服の婦警さんが現れた。

 巡回課、つまりは町中を見回る仕事で、パトロール途中にが入ったらしい。

 婦警さんは、私と母ちゃんの前に、私たちを隠すように仁王立ちし、銃を犯人に向けて撃ったんだ。


 背中を見ていた私は、衝撃で呆けていたし、母ちゃんはだんだんと息をしなくなっちゃったけど、婦警さんやその仲間のおまわりさんのおかげで場は終結。

 振り返って優しい笑顔で「もう大丈夫よ。お母さんを運びましょう。」って言って、呼んでいた救急車に母ちゃんを真っ先に乗せてくれたんだ。


 母ちゃんは死んでしまったけど、私はそのときの婦警さんに憧れた。


 憧れて、私も婦警さんみたいになる、って決めた。

 悪い奴は許さない。

 弱きを守り、犯罪者を華麗にやっつける、そんな婦警になることが、私の夢になったんだ。


 じいちゃんは私を応援してくれた。


 貧乏だったけど、じいちゃんは優秀なエンジニアで、その腕を頼って旧型の宇宙船の部品なんかを発注してくれる人が、それこそコロニーの外からやってきたから、苦労しつつも私を警察大学に入るまで、あんまり不自由することなく育ててもらえた。といってもまあ貧乏は貧乏だったけどね。


 ちなみに警察大学は入学できれば公務員扱いになる。

 だから学費はないし、それどころかちょっととはいえお給料だって出る。

 全寮制で、食費も寮で食べる分には無料。


 私には、どうやらパイロットと射撃の才能があったようで、卒業と同時に、エリートである交通課に配属されたのよ。


 通称交通課。

 正式名称星間交通治安維持課。

 小型の宇宙船を操って、星間交通を取り締まるのが仕事。

 星間交通云々ってのは、宇宙船の相対距離とか相対速度を維持したり、危険な貨物の移動制限をしたりがその仕事なんだけど、時には宇宙船同士のけんかの仲裁だったり、違反船の停止だったりをするために、強制執行することが許されている。

 まぁ、悪い奴を捕まえるために、武器をぶっ放しても良いよ、ってこと。


 もちろんそんな行為は危険を伴うわ。

 だけど、宇宙空間ではちょっとしたことで命に関わるの。

 だから、人命第一で、その人命には自分を最優先して良いってことになっている。


 てことで・・・


  「前の宇宙船、止まりなさい。すみやかにエンジン停止!」


 赤色灯を回しつつ、目標の船に公共通信帯での通信を繋げつつ、バッグにウーウーウーウー・・・・とサイレン音も乗せているんだけれど・・・



 「あっちゃー。速度あげたね。」

 相棒のサリナに言う。

 「だねー。」

 サリナは口の端をペロリとなめて同意したわ。

 速度を上げたってことは、なんか悪いことをして逃げようとしてるってことでいいわよね。


 「あ、光った。」

 フロントモニターをチェックしていたサリナが言った。

 確かに、船の上部がこちらを向いたために、太陽光を反射したみたい。

 あれって、砲筒、だよね?

 ニチャーってサリナが笑う。

 ちょっと何を笑っているんですかねぇ。

 まるで攻撃を待っているみたいじゃないですか。

 もちろん反撃する気満々で。


 「あはは。マルちゃん、わっるい顔してるぅ。」


 いや、あんたに言われたくないわ!


 それでも、私はその砲筒を凝視する。


 うふふ。

 集まってる集まってる。


 ミニパトは小柄ながらハイテクノロジー。

 集積できるデータは相当多く、中でも敵がやってる武器へのエネルギー充填度合い、なんて、完全フォローしちゃう。

 そのデータによると、今にも発射しそうな砲筒じゃない?


 ブーン、シュッパッ!


 てな雰囲気の波が揺らいで、真っ白なエネルギーの塊がこっちを襲う。


 「反撃用意。反射板よし。続いて、捕縛網用意!」

 「イエス、マム!」

 

 私の命令にサリナは短く答える。

 ミニパトの前にエネルギーを反射するバリアば発生。

 敵からの砲撃をそのまんま反射する。

 そして


 ドッカーーン!


 ?


 あれれれ・・・・?


 捕縛網、撃ち出したはずだったんだけどねぇ。


 なぜだか魚雷が発射されちゃったよ?


 「いやぁんマルちゃんってば、またまた手元狂っちゃったぁ?」


 あ、ほんとだ。

 打ち出す物を指定するのは私のところにあるボタン。

 発射はサリナのところでやるんだけどね。

 それがさぁ、魚雷と捕縛網って隣同士のボタンじゃん?

 しっかりモニター見ながらブラインドタッチ、なんてしたら、間違うのも仕方ないじゃない。ねぇ?


 「マルちゃんってば、ほんとは嫌いよねぇ。100パーセントの割合でボタン押し間違うしぃ。」

 ケラケラ笑うサリナ。


 ワザトジャナイヨ・・・


 仕方ないじゃない。

 手が滑っただけ。

 だいたい私たちのチーム今月も成績ナンバーワンよ。

 始末書もナンバーワン・・・だけど。


 「完了っと。マルちゃん、この前の始末書コピペしといたよ。私はもうサインしたからマルちゃんもよろしく。」


 コピペはダメだ、って課長にこの前も叱られたけど、仕方ないよね。

 同じようないきさつだと始末書だって同じになっちゃうもの。

 大丈夫、大丈夫。

 なんたって、私たち、交通課のエースだし・・・

 しっかり目視してブラインドタッチすると、こういうこともあるよね。

 第一。

 悪い奴が悪いこととするのが悪い。

 砲撃なんて一つ間違えたら、こっちがなんだからね。

 速やかに処理した私たちを褒めるべき。

 うん。

 ワザトジャナイヨ、ワザトジャナインダモン


 こんな言い訳でも課長、許してね。

 だって、あのくずに割く時間も費用もなくなったら政府にとってもなんだから。


  (( 完 ))

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