第15話 Rの話-7
「はい、これ。プレゼントフォーユー」
机を挟んで対面に立つ東雲さんはそう言って、僕にペンギンのぬいぐるみを寄越した。
眉毛を八の字にした、何処と無く情けなさを感じる、UFOキャッチャーの景品のような雑な作りのぬいぐるみ。大きさは横幅は両手の手のひらを広げたくらいで、やや大きめといったところ。
昼休みの喧騒の中で、なんの脈絡もなく渡された。
学園のアイドルである彼女の行動に、教室内の男子だけではなく、女子の以前も一瞬僕の方へと向けられ、しかし直ぐに霧散した。
僕の存在は、扱いは、そんなものだ。
「なんのプレゼントですか…?」
「昨日一人でゲーセンに行って、たまたま取れた景品だよ。私は特に興味がなくってね」
「この二ヶ月だけで四つ目ですよ?僕も興味は無いですし……」
「まあまあ、そう言わないでくれよ。愛情表現の一つさ」
そう、同じような流れでいくつかのぬいぐるみを渡されていた。
「ちなみに、最近私のあげたぬいぐるみは何処に置いてる?」
「えっと……机と棚と窓枠に」
「じゃ、それは枕元にでも置いといて。あと、そろそろ熊のぬいぐるみは古くなってきたから、後で新しいのをあげよう」
「はぁ……ありがとうございます?」
「ま、古くなったものは私が引き取るよ。捨てるのも忍びないだろうからね」
貰って特に困るものでは無いが、なぜ定期的に渡されるかも分からず、返答には疑問の色が混ざる。
「おいおい、学年一の美少女からのプレゼントなんだからもっと喜びたまえよ」
「そう言われましても……」
一瞬の沈黙。
東雲さんの瞳から光が失われた気がした。
「……その! 喋り!! 方ッ!!!」
東雲さんは突然頭を左右に振ると、大声と共にバンバンと机を叩いた。突然の大声と音に僕はびくりと身を竦ませる。
「なんで敬語なんだい!? 君と私との仲だろう!?」
「あの、誤解を招くような発言は……」
「誤解も何もあるものか! 女が気のない男と毎日遊ぶとでも!? それとも私が誰とでもそうする尻軽だとでも!?」
教室中に響き渡る声に周囲がしんと静まり返る。
僕の手は、いつの間にか小刻みに震えており、東雲さんが見れずに顔を俯かせることしか出来ない。
大声は、苦手だ。
「……敬語を止めること。そして、昔みたいに名前を呼ぶこと。さん付けでもいいからさ。ね? 難しいことじゃないだろう?」
俯く僕の両頬を暖かな手の平が触れた。
先程までとは違い、優しく包み込むような声色。
「分かりまし……分かった、エレナさん」
「よく出来たね」
まだ俯いたままの僕の頭をエレナさんは撫で、優しい母親が子供に言うような声色で僕に語りかける。
固まっていた心が、少し解けたような感覚がした。
俯いていた僕は気づかなかった。
彼女が薄暗い光を瞳に灯し、歪んだ笑みを浮かべていることを。
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