第13話 Rの話-6-2
◆❖◇◇❖◆
「何、これ…?」
まだ状況が飲み込めきれてない僕の呟きを無視して、二本目の動画を再生される。
画面の右下に表示された日付を見ると、先程の三日後のようだ。
妹の顔が映る。
ビデオカメラの録画を始めたらしい。
そこに映る妹の表情は、いつものように陽だまりのような笑顔だった。
そうして、再び眠る僕の方へ、軽やかなステップを踏むように近づき、ベッドへと上る。ベッドの軋む音が聞こえてくるが、ベッド上の僕は身動き一つ取る様子はない。
先程の動画のように、妹がゆっくりと体を倒してゆく。
唇と唇が触れ合う。
何度も何度も、啄むようなキスを落とされる。
暗闇でも感度のいいビデオカメラなのだろう、見たことの無い、頬に朱を刺して妖艶と微笑む表情が見えた。
僕の顎に指が添えられる。
何となく、その先が分かった。
目を背けようとするが、何故だか体が動かない。
再び、妹が唇を重ねる。
先程までとは違い、長い口付け。
妹の口元が動き、小さな水音が聞こえてくる。
バードキスなら、百歩引いてコミュニケーションの一環と思い込むことは出来る。けれどこれは、明らかに舌を絡めているであろうこれは、それを超えたものだった。
『兄さんの味……くふっ……』
一通り終えて満足したのか、体を起こして手の甲で口を拭っている。
その呟きも、カメラは拾っていた。
その後のとても普段からは想像できない、下卑た色を帯びた小さな笑い声も。
三本目。
今度は前回の翌日のようだ。
画面に写った妹は、何故か薄ピンク色の下着姿になっていた。決して大きくはないが、形の良い胸の形がよく分かる。
『今日は記念日ですよ』
そう言って、妖艶な笑みを浮かべる。
ベッドの方へ向かう妹は、ショーツを履いていなかった。
形の良い臀部が露となっている。
──嫌な予感しかしなかった。
今までと同様に、妹は寝ている僕の体を跨ぐ。
そして、一瞬躊躇うような仕草を見せた後に、僕のズボンを下着ごとずらした。
録画された映像とはいえ、妹の前で恥部をさらけ出すことに羞恥心を覚える。
けれど、それ以上の恐怖を覚えていた。その先に、待っているであろうものに。
おずおずと手を伸ばし、上下に擦るように刺激を加えられると、たちまち準備が完了していた。
『あはっ……さすが、効果覿面ですね』
一体、何の効果だというのか。
妹は喜色の混じった声を上げると、さっそくとばかりに片手でそれを支えて、自らの下半身に宛がう。
猛烈な吐き気に襲われ、顔ごと目を背けようとする。
しかし、背後から頭を両手で鷲掴みにされる。
「目を背けないでください、って言いましたよね?」
やや冷たい色を帯びた声が聞こえる。
画面の方からやや苦しげだが、悦びも混じった声が聞こえる。
ぎゅっと目を瞑ってその手を振り払おうとする。
「見てください。ほら、兄さん。見なさい。見ろ」
底冷えのするような声だった。
万力のように左右から力を加えられて頭に痛みが走る。
そのまま力任せに画面の方を向けられられ、強引な動きに首の筋肉が僅かに悲鳴を上げる。
「 見 ろ 」
更に頭部を圧迫されて、僕は目を開かざるを得なかった。
画面に写った光景。
恍惚の笑みを浮かべ、うっとりと両手に手を当てる妹の姿。
僕らの下半身は、繋がっていた。
『兄さんの童貞、奪っちゃいました。童貞ですよね? 当然。私も処女なので、お互い初めてを捧げ合いましたね。痛いって聞いていたけど、そんなこともなかったです。愛の力ですかね。……あぁ、初めてだからゴムは付けませんでした。その方がよりお互いを感じられていいでしょう? でも兄さんを困らせたくは無いので、次からは付けますね。高校卒業するまでの辛抱です』
くるりとビデオカメラの方を向いて、やや早口に語りかけてくる。
兄妹なのに。
血の繋がった家族なのに。
妹は、恍惚とした、どこまでも幸せそうな声で語った。
初めてとは思えないほどに、妹は積極的に動いた。
最初は抑え気味だった声も、段々と大きくなっていった。
そして、ふるりと身を震わせると、覆い被さるように僕の体に倒れ込む。
それが何を意味しているかは、分かった。
僕は妹と、交わった。
僕の知らないところで。
僕が知らないままに。
僕は、妹と関係を持っていた。
残りの動画も再生されていく。
吐き気が増していくが、背後から変わらず頭を抑えられ続け、目を背けることは許されなかった。
少しでも動こうとすれば締め付けられる。
その細腕からは考えられないほどに力は強く、全力で力を込めても微動だにしなかった。
回を重ねる毎に、より激しさを増していった。
嬌声が、より甘くなっていった。
時には口を使ってされていることもあった。
どれほどの時間が経っただろう。
半分ほど動画を見せられたところで、妹の動きは止まった。
頭を締め付ける力が弱まる。
不意に腕を引っ張られて椅子から無理矢理立たせられる。
「さ、兄さん。しましょう?」
その言葉に目を見開くとその場から逃げようとして──痛みと衝撃とともに僕はベッドの上に倒れ込んだ。
「ごめんなさい、兄さん! つい……。兄さんが逃げようとするから……」
何をされたのか分からず、じんじんと痛む頬を押さえて妹の方を見た。
握られた拳。
そこで僕は殴り飛ばされたのだと気付いた。
淑やかで、笑顔の絶えない自慢の妹。
その妹に暴力を振るわれたことに、何も考えられなくなっていた。
「動かないでくださいね。抵抗しないでくださいね。痛い思い、もうしたくないですよね? すぐに終わりますから。ね?」
そう僕に語りかける妹は、動画の中で見た恍惚とした表情を浮かべていた。
目の前で衣服が脱がれていく、先程見た薄ピンク色の下着を身につけていた。
身の危険にベッドの上で後ずさるが、直ぐに壁に到達して、それ以上の逃げ場がなくなった。
「……どうして?」
「兄さんのことが好きだからです」
「こんなの、おかしいよ。僕らは兄妹……」
「五月蠅い」
びくりと体が震え、動くことが出来なくなる。
「あ……ごめんなさい、強い言葉を使ってしまって。兄さんがこの期に及んで覚悟を決めないから。何度したと思ってるんですか? もう、逃げられないんです」
「そんな、勝手に……」
「黙れ。また殴られたいんですか」
今度こそ、完全に動けなくなってしまった。
「あっ……また。本当にごめんなさい。兄さんにとっては初めてだから緊張しますよね。大丈夫です、優しくしますから。ね? ……くふっ……」
妹が僕に近づいてくる。
ベッドに上り、スプリングが軋んだ音を立てる。
妹の手が僕の頬に伸びて、愛おしそうに撫でた。
──僕は、何を間違ったのだろう。
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