第5話 Rの話-3
◆❖◇◇❖◆
──夜が来た。
ノックの音が、聞こえる。
「兄さん、入りますよ。……あれ? 鍵がかかってる? 開けてください、兄さん」
僕を呼ぶ、声がする。
僕はそれに応えない。
予想はしていた。今日来るであろうことは。夕飯のメニューを見れば直ぐに分かった。
だから、鍵を掛けて、布団にくるまって震えていた。
「開けてください。なんで拒むんですか。なんで私を拒むんですか。兄さん。兄さん」
声が、徐々に色を失っていく。淡々とした口調に変わっていく。
それでも僕は応えなかった。
余計に状況が悪化するのは分かっていたのに。
「兄さん」
僕は、何を間違えたのだろう。
バキリ、と鈍い音がした。
「……また壊しちゃいました。後で直しますね」
妹は、何を間違えたのだろう。
布団を剥ぎ取られる。
冷えきった夜の空気が僕の体を襲ってきた。
視線を上げる。
表情を失った妹が、ベッドの上で丸まる僕を見下していた。
「なんで開けてくれなかったんですか」
腕を引っ張られ、強引に体を起こされる。その勢いに、肩の関節が軋んでわずかな痛みを覚えた。
「ねぇ、なんで開けてくれなかったんですか」
パンッ、と小気味いい音と共に頬に痛みが走った。
痛む頬を押さえようとすると反対側の頬から痛みが走った。今度は手の甲だからだろうか、先程よりも痛みが強い。
僕は体を動かすことを諦め、全身から力を抜く。
妹に掴み上げられた腕が伸びきって痛みを覚えるが、そんなことはどうでも良かった。
「…………っ!」
乱雑にベッドへと突き飛ばされ、その衝撃に肺から空気が漏れる。
「叩いてごめんなさい、兄さん。……でも兄さんが悪いの。なんで私を拒もうとするの」
衝動的に暴力を振るってしまったのだろう、正気に戻ったらしい妹が目を伏せて謝罪する。
けれど直ぐにまた声色と瞳からは感情が失われていく。
いや、失われて、代わりに別の感情が浮かび上がっていた。
普段の清楚な雰囲気からはとても想像が出来ない、まるで獣のような視線が僕の痩躯を舐め回す。
ベッドの上に仰向けに横たわる僕の上に、淡い水色の下着姿の妹が馬乗りになった。
ちゃんと服装を見ていなかったが、どうやら最初から下着姿で来ていたらしい。どうせ直ぐに脱ぐのだから、その方が手っ取り早いのだろう。
荒らげた呼吸の音と共に僕のパジャマのボタンが外されていき、妹の白魚のような指先が胸の上をなぞる。
「……んっ」
不意に胸元から走るもどかしい快楽に小さく声が漏れた。
「くふふっ……可愛い。可愛いですよ、兄さん。今日も可愛がってあげますね」
ペロリと唇を舐める様子は、獲物を前にした肉食獣そのものだった。
──今日も長い夜が始まる。
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