第3話 Rの話-2
昼休み。
僕は屋上でフェンスの網目に指をかけ、眼下のグラウンドを見つめていた。ここから落ちたら、楽になれるのだろうか。
ぼんやりと、そんな事を考えていた。
「やあやあ、
背後から馴れ馴れしげに声を掛けられる。
振り返ると、金髪碧眼の少女が空を見上げていた。
つられて空を見上げる。
厚い雲が広がる、今にも雨が降り出しそうな薄暗い曇天。
確かに、死ぬなら綺麗な青空の日にした方が良いのかもしれない。
けれど、死にたくなるのは決まってこんな空の日だ。
「何か用ですか。
僕は視線を下げて、目の前の少女にむけて言葉を発する。
我ながら、感情のこもっていない声だった。
「つれないなぁ、蓮君は。エレナって呼んでくれていいのに」
──
曇天の下でもキラキラと輝く金髪と澄み切った空のような瞳。
欧米系ハーフの彼女は、肩まで天然のブロンドの髪を伸ばしている。毛先が緩くカーブし、身長は僕より少し高い。
西洋系の血が濃いのか、人形のように整った顔立ちは理知的な雰囲気を持ち、年相応以上に胸元は膨らんでおり、くびれはしっかりと出来ている。
──そんな、誰もが羨むスタイルを持った少女。
この学校で、唯一僕に声をかけてくる同級生。
中学、高校と同じ学校で、何故だかクラスもずっと一緒だった。
昔から僕に積極的に声をかけ、家が近いわけでもないのに強引に一緒に帰ろうとする。
そんな、変わった存在。
「なんで私が蓮君にしつこく付き纏うかだって? 好きだからに決まってるじゃないか」
まるで僕の思考を呼んだかのような言葉。
毎度のようにストレートに好意を口にされるが、いつものように僕は無言のまま眉を顰める。
「ほら、今日もお弁当を作ってきたよ。一緒に食べよう」
そう言って、屈託のない笑顔と共に両手それぞれに持った弁当箱の包みを掲げる。
何度も断っているのにも関わらず、言葉通り毎日作ってくる。
結局は僕がその根気に負けて、受け入れてしまった。それもまた、いつも通り。
罪悪感めいたものを感じながらも、今日もまた包みを受け取る。
「……ありがとう、ございます」
「だからさぁ、そんな他人行儀にしないでってば。私と蓮くんの仲でしょ?」
僕は無言を返す。
彼女は気分を害した様子は見せずにフェンスへと寄りかかって座り、にこりと笑みを浮かべて自身の横の地面をぽんぽんと叩く。
「もうちょっと素直になってくれていいのになぁ。まぁ、そういう所も好きだけどね」
そう言って、僅かに歪んだ笑みを浮かべる。
僕は僅かな嫌悪を抱きながら受け取った包みを広げ、弁当箱を開ける。
一口サイズの唐揚げ、出汁の利いた玉子焼き、唐揚げの下にはキャベツが敷かれており、ミニトマトが彩りを飾っている。
いたく、シンプルな中身。
これらが全て手作りであることは知っている。
僕のことを想って作られていることを知っている。
それでも、その想いに応えることはもう出来ない。
鼻を擽る甘い香りに、ちらりと視線を横に向ける。
彼女は
僕は無言のまま弁当を食べ始める。
彼女は自身の手を動かすことなく、僕の様子を見つめ続けている。
──不意に、頭を撫でられた。
「大丈夫だよ、蓮君。大丈夫」
その声色は柔らかく、優しさに溢れている。
僕の頬を、一筋の涙がつたっていく。
ぽろぽろと涙を流しながら食べ続ける僕の頭を、彼女は優しく撫で続けた。
──僕は、エレナのことが苦手だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます