夜汽車の禁煙

新座遊

夜行列車を牽引する汽車

銀河をひた走る旅客用ロケット。

無限軌道の見えないレールの上をひた走る、銀河鉄道である。

ネジを運ぶ列車として名をはせたのは昭和の時代だったか。


(いいわけではあるが、これはパクリではなく、ただ単に宇宙を走る列車という設定をどこからか剽窃しただけの駄文である。銀河というのは、たぶん死後の世界をイメージさせるための誌的表現であろう。)


ネジを運ぶのが目的とは言うものの、もちろん旅客も乗せる。人はなぜか列車というものに心惹かれるものがあるので、ロケットに搭乗すると表現するよりも列車に乗っている気分のほうが心休まるのである。


デッキの壁に全席禁煙と書かれていた。列車案内図で喫煙所を探すが、どうやら見当たらない。

これは困ったぞ。どれに乗ろうか考えたとき、汽車型であれば喫煙を許容しているに違いない、と思い込んで選択したのだが。


得体の知れないフードで顔を隠した車掌を捕まえて、文句を言ってみる。クレーマーと思われたくないが、喫煙は喫緊の課題である。


「つかぬことを伺うが、蒸気機関車の形をして煙をまき散らす演出をしているくせに、なぜ全席禁煙なのか」

「大変申し訳ありません。いいわけすると、昭和の時代であれば、座席で喫煙することも可能だったのですが、平成に入ってから喫煙に対する否定的勢力が強くなり、一時は喫煙室を用意して分煙していました。しかし、令和になって、ついにそれも撤廃されてしまったのであります」

「そもそもこの鉄道は、喫煙者の税金によって賄われている部分が大きいと聞いている。それなのにこの仕打ちは酷いではないか」

「喫煙が原因で死んだ人を乗せる列車、とご理解いただければよろしいかと」

「なおさら喫煙を許すべきではないかと愚考する」

「窓を開けて、機関車の吐く煙をご堪能ください。あれは、皆様が生きている間に吐き出した副流煙です」


俺は車掌の言い訳で、煙に巻かれた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夜汽車の禁煙 新座遊 @niiza

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ