第24話 うちのスライムは優秀
「ブモォォォォォォォォ!!!!!」
迫り来るミノタウロス。
俺はタケルと槙島に目を向けた。
「ふたりは先にいけ」
歯を食いしばってタケルが俺を見てくる。言いたいことがあるんだろうけど、俺はこれ以上の会話は無駄だと思う。
何度も言わない。
「早く行け」
「はい!」
槙島がタケルを連れて先に逃げていく。
チラッ。
リーナを見て謝る。
「悪いねリーナ。付き合わせて」
別に無理やり付き合わせてもなんの問題も起きないんだけどね。
だって、スライムだから。
「ピピィ」
首を横に振る。
俺に悪くないって言ってくれてるらしい。
「ふぅ、こんなガチガチの戦闘なんて久しぶりだよなぁ……」
(震えが止まらん)
あの時のトラウマが蘇るんだよなぁ。
でも……。
息を吐いて俺は魔法を使う。
「パラライズ!」
バチィッ!
ビリビリ。
「ブモォォォォ……」
ミノタウロスのスピードが落ちた。
(完全に動きを止めるまではいけない。俺の今の魔力だとあいつの動きは20%遅くなったくらいか)
そして、こんなパラライズじゃ完全に動きの拘束はできない。
「リーナ。ほんとさぁ。ごめんって思うよ」
情けないよな、こんなん。
でも。
「頼るしかないんだよリーナに」
「ピッ!」
俺の言いたいことを理解したようで手を剣の形にする。
そのまま走っていくリーナ。
そして。
「ブモォォオォォォォ!!!!!」
俺の足を粉々に砕いた当時のままの棍棒を振り上げるミノタウロス。
「ピッ!」
それを避けるリーナ。
でも、そこに。
グアッ!
ミノタウロスの足蹴りが来る。
「それ以上は動かさないさ……パラライズ……」
更に魔力を込めてパラライズの効果を上げる。
「ピッ!」
足蹴りを避けるリーナ。
で、ミノタウロスの方は態勢を崩した。
倒れたミノタウロス。
「ピィ!」
リーナは剣でミノタウロスを切り裂いた。
コロコロ。
転がっていくミノタウロスの頭。
「はぁ……」
その場に膝を着いた。
「はぁ……はぁ……」
息が荒くなる。
「ピィ」
俺の方に戻ってきたリーナ。
「……はは……ほんと強いな」
まさか勝てるとは思ってなかったし、俺は元々2人が逃げるだけの時間を稼ぐだけに過ぎなかった。
それが、こんなにあっさりとリーナが倒してしまうなんて
「ピィッ」
腕を組んで俺を見てくるリーナ。
ドヤ顔してた。
「はは……よくやるよねリーナは」
そう言いながら立ち上がった。
そうしてミノタウロスに近づいて行く。
「ピィ?」
まだやる事があるのかって聞いてきてる感じだけど。
そんなリーナに答える。
「なぁ、リーナ知ってるか?」
「ピィ?」
「ミノタウロス肉って意外と美味いんだぜ?」
「ピィ!」
そう言ってリーナはミノタウロスを担いで帰ろうとするけど。
「持てるわけないじゃないか」
「ピィ……」
ジーッ。
唇に指を当ててミノタウロスを見てるけど、持てない分は仕方ない。
「美味いけどさ。可食部は少ない。可食部だけ持って帰ろう」
アイテムポーチを取り出した。
可食部だけならこれで十分持ち帰れるはずだ。
◇
そうして俺たちはギルドまで戻ってきた。
そんな俺を見てカウンターから出てくる下田。
「ま、マジかよ……」
「どうした?」
「いや、今さ……」
チラッ。
ギルドの端を見た。
そこには槙島がいて。
「あの子が帰ってきてさ。お前が残ってるからって……救助隊を結成しようとしてたんだけど」
なるほど。
そこに俺が帰ってきたから驚いていた、というわけか。
「心配かけたようだな。悪かったな」
肩に手をポンと置いてそれからゴトッ。
俺は近くにあった机にミノタウロスから剥ぎ取ってきた素材を置いた。
角……とかまぁいろいろある。
ちなみに俺はグロいのが無理だからリーナにやってもらった。
ウチのバイトは優秀なのである。
「んでさ、これ買取って欲しいんだよ」
リーナの戦利品を指さす。
リーナは俺の頭の上でずっとプルプル震えてる。
「た、倒したのか?」
「この子がね」
頭の上に乗ってるリーナを人差し指で示すと
「はぁぁぁあ?!!!」
そりゃまぁ驚くよなぁ。
でも倒しちまったんだよなぁ。
「ウチのスライムちゃんは優秀なんですよっと」
そう答えて俺は下田に手紙を渡す。
「これは?」
「弟への手紙だ。二度と寄り付くなって書いといたから渡しといて。今度寄り付いたらぶっ殺すって言ってたって言っておいて」
「分かったぜ。まぁ逆に弟からの伝言もな」
そう言って弟の伝言とやらを伝えてくる。
『兄さん、ごめんなさい』
と言ってたらしいけど。
「どうでもいいよ。俺はもう冒険者なんていうクソ共と関わる気はないからな」
冒険者って基本的にクソ共揃いだからねー。
合理的、合理的、それが口癖の合理的集団、クソにならないわけないからな。
そう言って槙島のとこに近寄った。
「そ、その、ごめんなさい。先に逃げちゃって」
首を横に振る。
「いや、あれでいいんだよ、あれは」
勝てないと思えるようなモンスターが出現した場合はひとり、囮を残して逃げる、これが鉄則だから。
この子はそれを守っただけに過ぎないし、命令したのは俺だ。
「とにかく、逃げてくれてありがとうね」
そうとだけ言って俺はギルドを後にすることにした。
帰り道、俺は新居への道を歩きながらリーナに話しかけてた。
「ミノタウロスの肉で何作ろっか」
「ピィ」
「だからピィじゃ分かんないって」
ふふふ、気持ち悪いけどひとりで笑いながら歩く。
その時だった。
「てんちょー」
ん?
突然の呼び声にクルクルと周りを見た。
「誰だ?俺を呼んだの」
誰もいない。
ってか人はいるんだけど知らない人ばかり。
俺の名前を呼ぶような人物なんていなかった。
「気のせいか?」
そう思いながら俺は数分間歩き続けて家のドアノブに手をかけた時。
「てんちょー」
また声をかけられて気付いた。
「今上から聞こえたよな?」
チラッ。
上に目をやって見て、思う。
「まさかリーナ?」
そう聞いてみると
「てんちょー」
ってまた聞こえた。
え?!
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