第23話 あのときぶり
「えーっと」
槙島がさっそくスマホを見ていた。
俺の顔を見てきた。
確認を取っているのでだろうと思ったので答える。
「合ってる」
ダンジョンに入ったら先ずはスマホとかで地図を見る。
ダンジョンのマップを把握しながら、それからできればボスの現在地を確認する作業に入る。
「ミノタウロスの場所はわかる?」
「それが……」
「仕方ないな」
ボスの現在地を確認、と言っても確認できるタイプとできないタイプがいるし。
今回の場合で言うならミノタウロスというのは確認できないタイプなのだろう。
「ピィ」
仕方ないしコツコツ歩いて捜索しようと言いかけた時。
リーナが俺の服の裾を引っ張ってきた。
「どうしたんだ?」
「ピィ」
リーナは右手の人差し指をひとつの方向に向けた。
どういうことだ?
ミノタウロスの場所を教えようとしてる、のか?
「ピィッ」
俺はなにも話してない。
顔を見て察したのだろうか?
その様子を見てると自然と笑みが漏れてしまった。
「エラいな」
頭を撫でて槙島に目をやる。
「俺はこの子を信じるけど、どうする?」
冒険者として大事なこと。
いくつかあるけど。
その中の一つにこういうものがある。
仲間を信じること。
戦闘面だってそうだ。
ヒーラーであればヒールを、戦闘職であれば戦闘を。
仲間が各自与えられた役目をしっかりとこなすのを信じること。
その仲間がスライムであろうがなんだろうが、信じるべき場面は信じるのだ。
「分かりました。信じましょう」
「ピィ」
リーナが一番前に立ってダンジョンを進んでいく。
すると、
「なにか聞こえませんか?」
槙島の問いかけに頷いた。
どうやら彼女も気付いてたらしい。
なにか聞こえることに。
耳を澄ますと
「グルルルルルルル……」
地の底から唸るような声が聞こえる。
たぶん、これはミノタウロスのもの。
「ミノタウロスのうめき声、だな」
忘れもしない。
たまに夢にも出て聞こえてきたんだこのうめき声は。
それだけミノタウロスという存在が俺の意識にこびり付いてる。
「どうするつもり?槙島は」
だけど今回の作戦俺は師匠としてここに来てる。
俺の一存でミノタウロスを倒す、とかはできなくて。
「目的はタケルさんの救助です。ミノタウロスは無視しましょう」
間違ってない。
今回のメインの目的はあのクソみたいな弟の救助であってミノタウロスの討伐じゃない。
つまり、無視してあいつを救い出せればそれで問題ない訳だが。
「リーナちゃん。案内してくれる?」
「ピィ!」
返事をして歩き出すリーナ。
スライムって本来捕食される側だもんな。
こうやって、自分より強いモンスターに見つからずにダンジョンを移動するのは上手なんだろうなぁ。
「ピィ」
ダンジョンの中の小さな段差を飛び降りていくリーナ。
俺達もそれについて行く。
「ところで、タケルの場所は分かってるのか?」
「はい。店長さん。えーっと。3階層にいるっぽいです」
スマホで地図を見ながらそう答える。
3階層、か。
一番奥だな。
そうして進んでると。
壁沿いの横穴からうめくような声が聞こえた。
中を除くと。
「あ、兄貴?」
俺を見て声をかけてくるタケル。
なにも答えずに槙島に目をやるけど、タケルは俺に口を開く。
「なにしにきやがった。こんなところに。笑いに来たのか?」
「無様だよな?」
そう言ってみるけど、別に笑いはしない。
「ほらっ」
ポイッ。
タケルに回復薬を投げつけてやる。
「恩を売ってるつもりかよ?」
「別に。そんなんじゃないさ。それより冒険者なんだからどうやって行動するのが一番正しいか、それは分かるよな?」
冒険者は感情的にならず、常に合理的な判断を求められる。
義務教育ではその訓練もかねていがみ合ってる奴らでパーティを組ますこともあるくらいだ。
パーティなんて大したものじゃなくても、体育とか、冒険道具作りを一緒にやらせるなんて日常的。
仮に塩が敵から送られた場合、使わなくてはならいない。
それが合理的な判断。
「義務教育終えたんなら、なにが正解かは分かるよな?」
「ちっ!」
舌打ちしながら回復薬を使うタケル。
これも合理的な判断。
冒険者として申し分ないもの。
だけど。
チラッ。
タケルの腹に空いた大穴を見る。
こんな怪我を負うということは、こいつは合理的な判断をどこかで取れなかった、というもの。
俺にとってはミノタウロスは強敵だが、もう最高ランク直前のタケルにとってはそうでもないはず。
勝てて当然。
その相手にここまでの傷を負ったのだ。
つまりは判断を間違えた。
「まぁ、ヒューマンエラーくらい出るさ。人間なんだからな。そう気にすんなよ」
俺も冒険者としてここは敵対しても意味が無いので、肩を持つようなことを口にする。
すべては合理的な判断、というやつのために。
例えいがみ合ってる、犬猿の仲と呼ばれる奴らの間でもこうやって支え合うということが冒険者には必要。
現在の日本人なら当然のように義務教育でやってきたこと。
槙島に目をやる。
「これが冒険者になるってこと。分かった?嫌いな相手でも目的のためには心を殺すのさ」
「は、はい」
いい返事だな。
まぁ、この子に関して嫌いな相手とかはいなさそうだけど。
誰にでも好かれそうだし。
でもそんな子でもいつかはこういう風に合理的な判断を下すようになる。
「歩けるか?」
「なんとかな」
フラフラ立ち上がって着いてくるタケル。
俺と槙島がふたりで前に立つ。
それで先導するように歩いて出口を目指す。
「ピィ」
帰り道もリーナの指示によって進んでいく。
さすがスライムだ。
出来るだけミノタウロスの近くを通ることなく進んでいく。
「ピー……」
シーって言いたいのか。
そんな感じで一旦俺たちをとめるリーナ。
息を殺していると、ドン!
すぐ近くをミノタウロスが歩いていった。
壁1枚挟んでやり過ごしていた。
(ほんとすごいよなぁ。こういうことまで分かるなんて)
来るのが分かっていなかったらできなかっただろう。
やはり弱いモンスターは弱いモンスターなりに嗅覚などが育っているのだろうな。
褒めてやりたいところだけど、ミノタウロスに気付かれてもマズイしな。
褒めるのは外に出てから、だな。
そのまま静かに歩いていくリーナに俺たちは続いた。
んで、ミノタウロスも見えなくなった頃だった。
ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!
「なんか聞こえませんか?」
槙島の声に頷く。
「ミノタウロスの足音だなこれ」
さっきミノタウロスが向かった先に目をやると。
全力ダッシュでこっちに向かってきていた。
「ブモォォォォォォォォ!!!!」
あぁ、これ。あれだ。
タイミングが悪かっただけだな。
誰も悪くない。
ミノタウロスはたまにこうやって走り出す習性があるからだ。
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