第22話 あのときぶりの

久しぶりの装備に身を包んで俺は早めにギルドまで向かった。

後で槙島とは落ち合うことになってる。


「ピッ!ピッ!」


リーナもやる気満々なようで人型になって軽くシャドーボクシングしてた。

そんなことも出来るんだなぁ。


「悪いな店長。弟とは仲が良くないとは聞いてるけど」


下田に答える。


「いや、別に。俺は槙島に着いていくだけだから、な」


内心今でもタケルがどうなろうと知ったことじゃない。


「あいつを助けることが俺たちに出来たら俺はタケルにこう言うつもりだよ『もう俺に関わるな』ってさ」


それくらいあいつにはウンザリしてる。


どんな感情があるにせよ、あれだけ暴言を吐かれていい気はしない。


「ま、お前の好きにしたらいいさ」


で、本題について聞くことにした。


「なにか、情報はないのか?タケルはくさってもSランクに近いんだろ?その辺の雑魚に負けるとも思えないが」

「また出たらしい」

「なにが?」


俺が聞くとゆっくりと下田は口を開いた。


「店長から全部奪ったあのミノタウロスだよ」


あいつ……また出たんだな。

そう、あのとき俺はミノタウロスに足を潰された。


それで、命からがら逃げて隠れていたところをギルドに保護された。


そのあいつがまた現れた、のか。


「ピッ!」


リーナはもう準備はできたと言いたそうな顔をしていた。


「ははっ。スライムもミノタウロスが許せない、ってさ。ご主人様の未来を奪ったやつだもんな」


下田がそう口にしていた。

下田目線もリーナがそう言ってるように見えるらしい。


そんな会話をしていたときだった。


「お待たせしました!」


槙島が準備を終えてギルドに入ってきた。


「いい結果になるように祈ってるよ。店長」


そう言って手続きを進めていく下田に槙島が聞いていた。


「皆さん店長さんのことを店長って言うんですね」


キョトンとする下田に槙島が続ける。


「古くからの知り合いって聞きましたけど、誰も名前で呼ばないのはなぜなんですか?」

「店長っていうあだ名だからさ。高校のときからずっとそう。あだ名が店長」

「えぇ?!あだ名だったんですか?!店長って!」

「知らなかったのか?知ってて店長って呼んでるのかと思ってたよ」


ゲラゲラ笑いながら下田が口を開く。


「俺たちに関しては別に立場が店長だから店長って呼んでるんじゃないんだよ」

「由来はなんなんですか?」


下田が答える。


「名前だよ。天堂 長四郎ちょうしろう。変な名前だろ?苗字と名前からとって、店長。まさか本当に店長になると思わなかったけど」

「そういう名前だったんですか?!」


驚く槙島に聞く。


「逆に知らなかったわけ?」

「は、はい。苗字は知ってましたけど、下の名前までは」

「知ってるって思ってた」


そう言うと手をブンブンと横に振る槙島。

それから口を開いた。


「ていうか天堂家って、冒険者の名門じゃなかったでしたっけ?!」

「いや、知らん」


俺が答えると下田が代わりに口を開いた。


「そうだよ。名門だよ。それでこいつは小さい頃からスパルタ教育ってわけさ。ま、話はこんくらいにして」


ピラッ。

俺に紙を渡してくる下田。


それを受け取ると、


「じゃ、頑張れよ。ふたりとも。またここで会おうぜ」



「ここにくるのはほんとに久しぶりだな」


俺があのときDランク昇格試験を受けに来たっきりだ。


それから俺は冒険とか、それに関わることからは逃げた。

極力近付かないようにしてた。


だって、思い出すんだもん。

あのときのこと。


本当はさ。

夢があったんだよな。


「なりたかったんだよな、冒険者」


ボソリと呟く。


小中高。

みんな、そうだ。


ダンジョンが日本に出来てから必死に冒険者になるためにみんな努力してる。


冒険学とか、ダンジョン学とか。

冒険に関わるようなことは義務教育で学ぶことになってる。


だから今の日本人はみんな冒険者っていうものを目指す。


俺だってそうだった。


「ミノタウロスさえいなけりゃ俺は……」


冒険者になってたはずだもん。

ま、悔いても仕方ないと言えさ。


俺だって人間だ。


後悔くらいする。

あのとき変な自己犠牲精神を出さなきゃ俺だって……とか思うけど。

過ぎたことだ。


「ピッ」


そんな俺の考えをリセットするようにリーナが口を開いた。


「過ぎたことだな。前を向けってことか」

「ピィ」


相変わらず言葉は分からないけど雰囲気で分かるよなぁ。


「で、行くんじゃないのか?槙島?」


俺も別に暇なわけじゃないから、さっさと済ませてしまいたいんだが。


「は、はい。行きましょう」


頷いて俺達はダンジョンに入っていった。


あのクソみたいな弟を助けるために。


んで、入ってみると。


「はぁっ……震えが止まらん」


足の震えが止まらない。

あのときのトラウマが蘇る。


「ピィ」


頭の上から降りてくるリーナ。


「ピッピッ」


んで、俺の腕を引っ張ってくる。


「自分がいるから大丈夫、だって?」

「ピィ」


ほんとうにいい子だな。

こんなとこに連れてこられて怖いと思うけど、自分じゃなくて俺の心配をしてくれるなんて。


「よし、行こうか」


槙島に目をやる。


「いいよ。もう覚悟はできた」


俺はもう人生が終わったタダのおっさん。

冒険のメインは槙島に任せることにしよう。


んで一応俺は師匠なわけだし。

この子がミスとかを起こさないよう見ておくだけでいい。


「はい!行きましょう!」


槙島がダンジョンに入っていく。


俺もそれを追いかけた。

ミノタウロス……10年ぶりに会うな。


もう一度ミノタウロスを前にした時俺はどうなるんだろう。


また手も足も出せずにやられるのか。

それとも


チラッ。


リーナを見た。


「な?どうなるんだろうな」

「ピィ!」


ぶちのめす!って言いたいようなそんな勢いをリーナから感じた。


この子にはいつも救われるな。

落ち込みそうになったり、弱気になりそうな心をいつも持ち直させてくれる。


「頼むよリーナ」

「ピィ!」


よし、いこう。


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