第19話 リーナとの絆
「まだ俺が虐待してる、とか言うつもり?」
林田がワナワナ震える。
リーナがある程度蹴散らし終わると俺は歩いて林田の方に近づいていった。
「ピッ♪」
スライム状態になって俺の頭に載ってくるリーナ。
「んで、林田くんのスライムはどうなのかなぁ?愛好家さんのスライムがどれだけ懐いてるか見てみたいなぁ?」
遠回しにやってみろ、と口にする。
ワナワナ震えた林田は口にする。
「い、いいだろう。スラリン様!」
どうやらスラリンという名前らしい。
そのスラリンを地面に放す林田。
「お願いです。スラリン様!このスラ虐を行う犯罪者共を殺してください!」
ビシッ!
俺に指を向けてくる林田。
・
・
・
ニョルーン。
スラリンは言うことを聞くことなく、俺たちとは反対側に進んでいく。
「そ、そんな!スラリン様?!」
"草"
"人型にすらならんやんw"
"無視されとるやんけw"
"スラ虐とかいう一般人じゃ意味分からん単語出てきてたしこいつが虐待してたんちゃうん?"
"俺もそれ思ってたw普通スラ虐なんて知らんよなw"
"多分普通に生きてたら、一生スラ虐なんて言葉聞くことなかったと思うw"
だが林田は諦めていないようだった。
「スラリン様は救いの神。お前らごときでも生かしてくださるそうだ」
スラリンを抱えてまた置き直す林田。
それから武器を地面に置いた。
そして俺が立ってた位置まで向かう。
そんで俺がやったように両手を広げてモンスターに背を向けた。
「スラリン様!私が危険です!助けてください!」
ニョローン。
林田を無視してスライムはまたどこかへ行こうとする。
"愛情の差が出てるなぁ"
"懐いてないにしても普通もうちょい悩むよなwたぶんw"
"即離れてったよあの子w"
"やっぱ虐待してたんかなぁ?"
"スラ虐愛好家かよw"
そんなチャットが更新されていく。
「あがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
その時後ろからモンスターに林田が襲われていた。
「スラリン様ぁぁぁぁ!!!」
ニョルーン。
まだどこかへ逃げようとしている。
眼中にすら入ってないらしい。
あまりにも不憫になってきたけど、俺に助ける義理なんてない。
朝6時から叩き起されて迷惑してたんだよなぁ、俺も。
「シャー!!!!」
「ガッ!!!」
毒蛇に林田は咬まれていた。
「おごぉぉぉぉぉ!!!!!」
バタリ。
その場に倒れて動かなくなる。
麻痺しているのだろう。
「はぁ……」
ザン!
毒蛇を処理してやる。
"助けてあげるんだ店長"
"やっぱ、優しいよなぁ店長"
"聖人だわこの人"
"リーナちゃんもこういうとこ見てるんだろうなぁ"
そういうチャットを見ているとき
「終わったか?店長」
下田が歩いてきた。
「終わったよ。俺はもう知らない」
その場で倒れてビクビク痙攣している林田に近付く下田。
それでその林田に肩を貸してやっている。
「歩けるだろ?」
「は、はひぃ……」
毒が回ってるのか呂律が回っていないらしい。
「こいつはこのまま警察に引き渡すよ。朝の件と、昨日以前の件、なんらかの罪状でしょっぴけるだろ」
「そうなのか?」
「普段世話になってる警官がそう言ってたよ」
そう言って先に歩いていく下田。
それに着いていくように歩いていくと、先程逃げたはずのスラリンが俺を見ていた。
「ブルブル」
手を差し出してみた。
すると、グルン!
リーナみたいに腕に巻きついてくる。
"草"
"やっぱ林田だからダメやったんやろなぁ"
"それにしても、やっぱもってるよなぁこの店長"
"スライムってどういう人間なのか分かるんだなぁ"
そんなチャットを見ながら俺は呟く。
「配信は悪いけどここまでにするよ。俺が虐待してないって証明用に配信しただけだからさ」
反応を貰うため、じゃなくて。
俺は虐待をしてないとりあえず証明として残したかっただけだし。
"これで静かになるといいねー"
"お疲れ様ー"
そんなコメントをもらいながら俺は配信を終了した。
◇
スラリンの方もしばらくは俺が面倒を見ることにした。
家に帰りゆっくりしていると下田から電話。
「あっ。店長?林田の件だけど業務妨害でしょっぴいたってさ」
「あーそうなの?」
「それで店長んとこもこれ以来絶対行かないって約束させたわ。まぁ?あの様子じゃ行くことないと思うけど」
話を聞く限りとりあえずのとこは大丈夫そうだな。
それから少し話して電話を切った。
それから、俺は田口にメッセージを送った。
するとすぐに返信。
田口:良かったですー。商品の方発売控えててあんなのにいられてたら売上落ちそうですしね。
ちなみに覚えてますか?発売日、3日後ですよー。
楽しみですね!
メッセージを確認してベッドに腰を下ろした。
「あぁ……しんど」
あの林田のせいで今日は無駄に疲れた。
ボヤきながら俺はキャッシャーから引き出してきた現金に目をやる。
「1,2……99,100,101……200……300……」
1万円の数を数えていく。
ココ最近売上がとにかく凄いことになっていた。
そんでそれから考えて。
「母さんに金を返せるな」
これでやっとあの家とはもう関係を終われそうだ。
(だから言ったろう?返せる目処がついたって)
リーナとガルはお疲れなのか、もう寝ていた。
「おつかれさま」
ピィ……ピィ……と寝息を立てるリーナに声をかけてから俺も寝ようと思ったけど。
そのとき、寝言だろうか?
「……ェンピョー……」
「っ?!」
今までと明らかに違う言葉を口にしててびっくりした。
「まさか、今てんちょーって言おうとしたのか?」
俺の願望かな?
でも、そう言ってるような気がした。
もう一度言ってくれないかな?
キモイけど、その場でもう少し待ってきたけど
「ピィ……ピィ……」
という寝息でその後なにか話すことは無かった。
そのせいでしばらく起きていたのだけど。
興奮したせいか、眠れる気がしなかったので起きておくことにした。
リーナたちを起こさないように店の方に降りて母さんに電話してみる。
まだ起きてると思う。
プルルルル。
カチャッ。
「なに?」
母さんの声だ。
「お金返せるから明日送金しとくよ」
「冒険者ならスグに返せる額だったのに」
いちいちそんなこと言わなくていいじゃん?
「あなたには期待してたのに。昇格試験であんなヘマやらかしたせいで未来が潰れちゃって。あーもう、なんであんな低ランクダンジョンでヘマやらかすかなー?そんな子に育てた覚えないのになー。弟のタケルだってあんたと冒険するの楽しみにしてたのに」
母さんのイヤミは止まらない。
もう聞くのも嫌になってきた。
「とにかく、金は返す。じゃあ」
通話を無理やり切った。
はぁ……。
イライラして待合室のソファにスマホを投げつけてしまった。
「もう、連絡すんのはやめにしよう」
今までは中々縁を切れなかったけど、店も軌道に乗ってきた。
そんな今ならもう縁を切ってもいいだろう。
いつまでも冒険者、冒険者って、もう放っておいて欲しいんだけどね。
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