第17話 スラ虐とは?

料理レビュー系ヨンチューバーの佐野が動画を公開した週の土曜日。

昼にめちゃくちゃ客が来た。


俺が配信を始めてからの土日はいつもやばいけど今日はいつもよりやばい。


「ここがスライムが働くお店かー」

「スライムどころかウルフもいるぞ?!」

「えぇ?!ウルフもいんの?!やべぇ!」

「ガルっ!」


人手(?)が増えたら俺は楽だろーなーと思ってスライムを使い始めたわけだけど。


結果としては、言い方は悪いけど


人手(?)を増やしたせいで余計に忙しくなった!


それに更には新メニューも始めたのが忙しさを更に加速させてる。


この前メラメラ火山で取ってきたメラメラ石を使った新メニューなんだけど。

既に完売してしまった。

多めに用意していたつもりなんだけどなぁ……。

100食で足りないのか……。


というより来る人来る人新メニューを頼むから本当に足りなかった。


(こりゃ、金かけて石を仕入れた方がいいよなぁ。自分で取りに行って……じゃ時間が……)


慌ただしく店内を走り回る俺だったけど、また呼び鈴が鳴ったので向かうと


「新メニューですか、今品切れ中でして」

「そうなんだ。じゃあチャーハンある?レビューですっごい美味しいって聞いたんだけど」


チャーハンで注文をとると厨房にいるリーナに向かって注文を通す。


「ピィ!」


返事が来て調理に入ってくれるらしい。

そのとき


「ガル!」


同じ店の中をウロチョロしていたガルが料理を届けているのが目に入る。

ちゃんと働いているようで安心した、けど。


「わー、かわい〜」


客がガルを撫でると。


「グルル〜」


喉を鳴らして気持ちよさそうにし始めた。


(やっぱり動物か……)


とかって思ってたらすぐに切り上げて仕事に戻り始めた。

仕事熱心な子だ。


今日はガルの登場でより一層店内が盛り上がっているように見える。


「この子すごーい!配膳めっちゃ早いよー!」

「ガルルル!」


ガルは客のところに料理を運ぶのがすごい上手らしく、狭い店内をスイスイーっと移動して運んでいく。

流石だな。


多分ダンジョン内で培ってきた移動力なんだと思う。

そうして、順調に切り盛りしているところだった。


ひとりの男が入ってきた。

腕にスライムを抱えた恰幅のいい男だった。


「いらっしゃいませー」


俺はその男の対応をする。

まず座席に案内して……それから。


「ご注文はお決まりでしょうか?」

「今来たところで注文なんて決まるわけないだろ?」


嫌味っぽくそう言ってきたので謝罪して戻ろうとすると。


「君。店長だろ?」

「はい、そうですけど」

「君の腕を知りたい。君が厨房に入りたまえ」


なんでそんなに偉そうなんだろう?

分かんないけど、前の佐野みたいにレビュー系だったりするのだろうか?

それなら粗相のないようにしないと、な。


「わ、分かりました」


腕が伸びたり、増えたりする都合上明らかにリーナに料理をやらせた方がいいんだけど、指名があるなら仕方ない。


俺は厨房に戻ると手のモーションと一緒にリーナに声をかけた。


「チェンジだってさ。俺がやるよ。だから、あっち頼むよ」

「ピッ」


リーナは手を止めて厨房を出ていくので、俺は厨房を担当することにした。


えーっと、できてないものは……っと、ないわ。


流石はリーナ。

腕が伸びたり増えたりするから作業効率が凄いことになっているな。


まさかもうなにも作るものがないとは思っていなかった。


そんなことを思っていた時


「ピピピピピ!」


リーナから注文が飛んできた。

ピの回数が5回だから生姜焼きか。


よく出るメニューに関してはピの回数で伝えるように教えてある。


んで、料理に入ろうとしていると。


「ガル!」


厨房にガルが入ってきた。


「どうしたんだ?」


ガルにはできることないし厨房に入るなと伝えてあるんだけど。


「ガル!」


俺の手を甘噛みしてくる。


厨房まで来いと言ってるように見えるけど


「なんだなんだ?」


リーナの奴がなにか問題でも起こしたのか?と思って見に行くと


「もう一度言います!皆さん!聞いてください!この子はスライムです!」


先程の恰幅のいい男がリーナの腕を掴んでいた。


「ピィ!ピィ!」


それから逃げようとしてるのかリーナは力を入れてるけど出れないようだ。

殴るなと伝えてあるので攻撃もしないし。


「何をしてるんですか?」


表ではまだ客が待っているのに、なにしてんだ、この男。

そう思いながら近付くと。

男は俺を指さしてきた。


「私はスライム愛好家ですが。この男はスライムを虐待しているのです!普通!スライムは人型になりませんし当然飲食店で働きません!ですが働いているのは何故か!虐待で恐怖を植え付けているのです!働かなかったら更に虐待されるのです!」


そのフレーズで思い出した。

こいつ……あれか。


自称スライム愛好家とかいうやつか。


「くりかえします!ここの店長はスライムを虐待しているのです!そんな非道なスラ虐を許してはいけません!皆さんの手でこのスライムちゃんの保護が必要です!」


ザワザワ。


そのとき客のひとりが口を開いた。


「て、店長さん。美味かったよ。ごちそうさん」


そう言って机に代金を置いた。

そうして巻き込まれたくないのか、店を出ていく。


ひとりがそうすると、俺も、俺も、と続いて店を出て言った。


で、それを見たのか並んでいた人たちも、解散していき順番待ちがなくなっていく。


また変なやつが来たなぁ。


男に近付くと口を開く。


「とりあえずその手を離してくれませんか?」

「あなたがスラ虐をやめると言うのであれば離します」

「だからしてないですって。警察を呼びます」

「どうぞ!呼んでください!正義は私です!スライム虐待の犯罪者!異常者!人間のクズが!スラ殺し!鬼が!」


そう言いながらこの前の警官に電話することにする。


あの時連絡先を教えてもらっていたのだ。

スライムのことで問題があれば電話出来るように。


まさか、こんなことで電話することになるとは。

しばらく待っていると、サイレンの音がした。


「警察です」


前の警官が来てくれた。


「聞いてください!この店の店長はスラ虐を行っているのです!」

「す、スラ虐……?」


聞き慣れない単語に戸惑ったような顔をする警官にどんどん続ける愛好家。


「私はスライム愛好家の林田 サトルと言います!ご存知でしょうか?!」

「し、知りません」

「その私から言わせてこの男がスラ虐を行っていることは間違いないのです!」

「は、はぁ……」


チラッ。

俺を見てくる警官。


それから林田に話をさせる。


「警察の人!この男にスラ虐をやめさせるように約束させてください!私は一匹でも多くのスライムを救う使命があるのです!」

「分かりました」


そう言って警官は俺に目を向けて聞いてきた。


「す、スラ虐をやめてもらってもよろしいでしょうか?」


林田に見えないように頷いてくれ、というような視線を向けてくる警官。

多分思ってることは同じなんだと思う。


はぁ、くそ。

俺はなんもしてないのにな。


「分かりました」

「この男はヴァカですね。自ら証人を呼ぶなんて」


そこで男はやっとリーナから手を離した。


「さぁ、どこへなりとも逃げなさいスライムちゃん。これからあなたは自由の身なのです!」

「ピッ!」


ゲシッ!

林田の足を軽く蹴りつけてから俺の後ろに逃げてくる。


だというのに、蹴られたことに何も思っていないらしい。


「このクズ男!スライムちゃんに逃亡させないほど虐待しているのですね!なんと、かわいそうに!」


リーナが帰ってきたし俺は男に言う。


「出入り禁止です」

「言われなくてもスライムを虐待しているこんな店もう来ませんよ」


店の扉を乱暴に開けて出ていく林田。

やっと終わったか。


そう思って警官に目をやる。


「すみませんね。こんなことで呼び出して」

「いえ、仕事ですから」


と、苦笑い。


「いつも行列ができてるのに、今日は行列がなくなっちゃいましたね」


と、いつもの様子を見てくれているのかそう口にする警官。


「業務妨害になりそうですけど、どうしますか?」

「いや、いいですよもう」


粘着されても嫌だし。

あぁいう人って、なに考えてるかほんとに分かんないし。


「泣き寝入りですか」

「報復くらっても嫌だし」

「分かりました。ご愁傷さまです」


んで、出ていく前に警官に聞いてみた。


「ちなみにスライム虐待ってなんか罰則あったりするんですか?」

「ん?ありませんよ?しょせんはモンスターですし。本来であれば駆除対象のものですから。虐待しようが殺そうが問題にはなりません。マナーやモラルの問題なだけで」


それでは、と出ていく警官。

もう来なければいいけどな。


はぁ……。

疲れた。


こっから夜の営業も一応あるんだよなぁ。

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