第15話 新しい仲間

「ハッハッ」


店に帰ってくると一番最初にウルフが店の中に走っていった。


「ハッハッ」


息を荒くして興奮した様子で店の中を走り回る。

今日からここで暮らすと話しかけたけどそれが嬉しいんだろうか?


「そういえば、名前決めてなかったな」

「ハッハッ」


ここで俺の前に戻ってくる。

名前をつけてもらえることが嬉しいんだろうか?


ぽかぽか。

俺に肉球をぶつけてアピールしてくる。


「う〜ん。ガルガル言ってるからガルでいい?」

「ガルッ」


自慢じゃないけど俺はペット飼う時に名前で悩んだことあんまりない。

適当に命名するからだ。


さてと。


「ふぁ〜。ねみぃわ」


家の方に上がろうと思った時。

ギロッ。

ガルの目が細くなった。


どうやら店の隅を見ているようだけど?


「どうしたんだ?」


俺が聞くと同時に。

ダッ!


ガルは走っていって。隅っこに頭を突っ込んだ。


しばらくして帰ってくるガル。

その口には何か咥えていた。


「ネズミ?」

「チュー!」


ガルに咥えられて暴れているネズミ。


俺なら見逃してたけどガルは見逃さなかったらしい。


「よくやってくれたな」


ガルの頭を撫でると嬉しそうに尻尾を振った。


「でもあんまそういうの咥えるの良くないけどね?病気持ってることとかあるし」


と言ってみるけど、ガルはダンジョン産のれっきとしたモンスター。

ダンジョン外の病気くらいは問題なかったりするのかもしれない。


分かんないけど。


いつまでも咥えさせるのもあれなので近くにあったビニール袋を取ると袋の口を開けて


「ここに入れといて」


ぽいっ。

ビニール袋の中に入れてくれるガル。


「ちなみにこれだけかな?ネズミは」

「ガル」


リーナと言い俺の言葉を理解してるんだろうか?

頭がいい子ばかり来てくれて嬉しいよ。


そんなことを思いながら俺は店の扉を開けると少し離れたところにネズミを逃がして店まで戻ってきた。


殺すのが一番なんだろうけど俺には無理だから他の誰かにその仕事を押し付けることにする。


にしてもガルも優秀だなぁ。

ネズミには困っていたけど、今後はガルが処理してくれるかもしれない。


「ガルもリーナも優秀だな。これからもよろしく頼むよ」

「ガル」

「ピッ」


ふぁ〜、ねむ。

俺は家へ向かっていくことにした。



ガルを迎えて数日が経過した。

この日も営業を終えて俺はソファに座っていたのだが。


ピロン。


「メッセージ?」


珍しい。

俺に連絡してくる奴なんてほとんどいないから。


誰だろう?

母さんか?また説教でもしてんのかなぁとか思いながらメッセージアプリを起動すると。


「槙島、ねぇ」


あの時助けた女子高生が連絡してきていたのだ。


内容は当たり障りのないようなものだったけど。

最後に驚くべきことがサラっと書かれていた。


「今、近くにいるから、寄ります、だってぇ?!」


俺が口にしたのと同じくらいだった。

コンコンコン。


店の扉がノックされていた。

そちらに向くと透明なガラスの向こうに槙島が立っていた。


「ハッハッ」


それを見てガルが扉の方まで行くと二本足で立って扉を開けてくれた。


「わぁ!かしこっ!」


驚いているらしい槙島はそのまま俺の方に近寄ってきた。


「お久しぶりですね」


そう言われたけど俺の感覚じゃまだ数日だ。

全然久しぶりな気もしないけど。


ていうかなにをしにきたんだろ?


「何か食べに来た?」

「え?そういうわけではないですけど」


正直会話しに来たーとかってのはやめて欲しいかな。

おっちゃんはもう歳だから若い子の話は分からんのよ。


気まずさを紛らわすために寄ってきたガルの頭を撫で始める。

めっちゃ、気まずくない?


俺は陽キャじゃないし女の子との話し方なんて知らないしな。


って思ってたら槙島の方はそうではないらしく口を開いた。


「あの、私の師匠になって欲しいんです」


ピタッ。

ガルを撫でていた手を止める。


「俺はただの店長なんだけどな。他の人がいいと思うけど」


師匠?

そんなものになれるワケないけど。


どうやって断ろう。


「片手間でもいいんです。この前同行していただいた時に確信したんです。この人なら安心して師匠になってもらえるって」

「俺はただのEランク冒険者だよ」


普通Eランクの元冒険者なんて師匠にしない。

ちゃんとランクを伝えて、帰ってもらおうとしたら


「ごめんなさい。調べちゃいました」


そう言って彼女はスマホを俺に見せてくる。


「20年くらい前の記事ですけど、ありました。昇格試験でひとりの冒険者が足を潰してしまった、という記事を」

「俺のじゃないだろ」


バカバカしい。


あんな小さな事件が記事になるわけない。

ただ俺が自分の失敗で足を無駄にしただけなのに。


少なくとも俺はそう思ってる。

なのに、槙島は続けてくる。


「見てください。これ店長さんの記事ですよね?」


そうしてスマホを見せられて目を向けるとそこにはこうあった。



帝聖高校の生徒である三年生の天〇 長〇〇さんが重症を負った、と。


古い新聞の記事だからか掠れて読めない部分があるけど、たしかにそうあった。


当時の帝聖高校に苗字が天、名前が長で始まる組み合わせの生徒は俺だけだった。


だから、正直分かってしまった。


この記事が俺の事言ってるんだって。


「まさか、記事になってるなんてな。ただ俺がミスってひとりで怪我しただけなのに」


それがトラウマになって俺は冒険者から離れた。

それだけのはずだ。


「そんなはずはないですよ。この記事には英断って書いてますよ」

「……」

「ねぇ?先輩?英断だったんですよ?!」


俺は槙島の顔を見た。

そうか、気付かれたのか。


「言ってくれれば良かったのに。自分も帝聖の生徒だった、って。せ、ん、ぱ、い?」


そうして槙島は更に続けてくる。


「こうも書いてありますよ。先輩は他のパーティメンバーを逃がすために囮になったって」


そう言われて思い出す。

そうだ。俺は当時囮役として軽装で前に出て戦場を掻き乱す役をしていた。


その時だった。


「予想外のモンスターが出たんですよね?で、パーティメンバーを逃がすために、先輩はひとりで囮を引き受けて残ったって」


その結果俺は足を潰した。

それで、後からギルドの人に助けてもらったんだけど。


「そんな凄い人なんですよ先輩は。師匠になってもらえませんか?」


俺が何も答えないでいるとガルが吠えた。


「ガルっ」

「ガルちゃんもこう言ってますよ?」

「ピィッ」

「スライムちゃんも」


そう言われて小さく呟いた。


「空いた時間にちょっとだけなら、ね。それでいい?」


俺ももう前みたいにガッツリやるつもりはない。


「はい!」


一応師匠になればギルドから報奨が出る仕組みだったはずだ。

そこまで頼まれるのであれば、まぁいいだろう。


「またいけそうならこっちから連絡する。それでいい?」

「はい」


それと、と槙島は席に着いた。


「持ち帰りできますか?できるならなんか作ってもらえませんか?オススメでお願いします」


注文の多い客だな。

まぁ、嫌なわけじゃないけど。


冷静に考えて華の女子高生が俺にこんだけ話しかけてくれてるんだからな。


「待ってなよ」


呟いて俺は軽く弁当を作った。

それを持っていこうとすると


「ガルっ」

「どうした?」


近付いてきたガルに声をかけると。

ちょいちょいと自分の頭に前足を載せていた。


「持ってってくれるのか?」

「ガル」


まぁ中にいるのは見知った中の槙島だ。

ちょっと試すくらいならいいだろう。


そう思ってガルの頭に弁当を載せると。

トコトコ歩いて槙島の近くに持っていった。


「えっ?!わぁっ!すご!」


それを見て興奮しているような様子の槙島。


俺を見てくる。


「いくらですか?」

「初回料金で無料でいいよ。意外と遠いところ来てくれたみたいだし」

「ほんとですか?!」

「特別に、ね」


本当はこういうところしっかりすべきだとは思うけど。

甘くなるのが俺だった。


「ありがとうございます!また来ますね!」


そう言ってにっこり笑って槙島は店を出ていく。


「ピィ?」


リーナが体の形を変えてお金のマークになった。

どこで覚えてきたんだろう?


多分お金のこと心配してるんだろうけど。


「ま、どうにかなるでしょ」


そう呟いて俺は閉店作業をして今日も家に帰ることにした。


んで、その日の夜。

SNSに一通のメッセージが届いていた。


差出人はこの前店に来た動画投稿者の佐野という人物だった。


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