第14話 10年越しだ


「ふぅ……」


メラメラ火山近くのギルドへと戻ってきた俺は帰ってきた報告をするためにカウンターによろうとしたが。


「お疲れ様です」


カウンターの中から女性が出てきた。

それは俺がここに来た時に対応してくれた人だった。


「高校生を助けていただいたそうで」


先程の話をしたいようだ。


「別に、大したことじゃないよ」


そう言って俺はギルドを後にしようとしたけど。

そのとき


「あ、あの。てんちょーさん」


女性の隣にいた槙島が声をかけてきた。


「なに?どうしたの?」

「れ、連絡先教えてくれませんか?」


そう聞かれて俺は目を見開いた。


「お、俺の?」


おっさんなんだけど。俺。


そんななんの取り柄もないおっさんの連絡先を?華の女子高生が?


そんなことを思う。


「ダメでしょうか?」

「事案にならない?」

「な、なりませんよ」


そう言って槙島は俺にスマホの画面を見せてきた。

そこに表示されていたのは某チャットアプリのID。


「嫌ですか?」

「いや、嫌じゃないんだけどさ」


ほら、最近よくあるじゃん?

なんかおっさんが若い子に声かける事案がーとか。


それを考えたらあんまり気は進まないんだけど。


「うん……ま、いいけど」


俺は結局槙島と連絡先を交換することにした。

自衛のためにも俺から連絡することは無いと思うけど。


俺の内心とは関係なく槙島は喜んでいた。


「あ、ありがとうございます!」

「そんなにおっさんの連絡先知れてうれしい?」

「おっさんなんかじゃないですよ!まだまだお兄さんですよ」


嬉しいことを言ってくれる槙島だけど、もう十分おっさんだよなぁ。


「じゃ、そういうことでね」


俺はそう言ってこのギルドを後にする。

そしていつも使っている下田のギルドにも報告に来たのだが。


「話は聞いたよ。高校生を助けてくれたってな」


驚いたように目を見開いて俺を見てくる。


「まさかまだそんなに動けるとは思っていなかったな」

「まさか。もう体もガタガタ。動きにキレがない」


肩を竦めてそう返事。

実際のとこ俺の全盛期と比べたら全然動けてないし、体が悲鳴をあげてるよ。

歩くだけでしんどいもん。


「ま、店長がどう考えてるかは関係ないのさ」


そう言って下田は自分の後ろにある扉を見た。


「ギルマスが呼んでる。カウンターの中へ入ってくれ」

「なんの用だ?」

「入れば分かるさ」


俺はそう言う下田に案内されてカウンターの中の事務室に入っていく。


そしてギルドマスターの部屋まで案内されて。


「この先にいるよ」


コンコン。

下田がノック。


「マスター?入っていいか?」

「どどどど、どうぞー?!」


中からひっくり返ったような声が聞こえる。

大丈夫かよ?と思いながら俺は下田に連れられて中へ。


すると


「しもっちー。書類なくしちゃったー、だーずーげーてー」


大量の紙の中に沈んでる女の姿が見えた。


(これがギルマス?若いな。20代前半か?)


「しもっちはやめてくれと言っているんだが」


そう言いながら下田はギルマスに手を差し出していた。

それを見ているとやがて立ち上がったギルマスはなにかの書類を手に持って俺の前に。


「あなたが店長?」

「まぁ、そうだけど」


にんまり笑うギルマス。

それから紙を俺に渡してきた。


「これは?」


受け取らずに俺が聞くと。


「ギルマス?ちゃんと手順通りに」

「うへぇあ」


そう言いながらギルマスは姿勢を正して書面に目を落とす。


んで、話し出すのだけど


「えぇ、てん□□ ちょう□□□ 殿」

「ピィ!ピィ!」


俺の名前を読み始めた瞬間リーナが鳴き出した。

しかしなにも気にすることなくギルマスは続ける。


「えー。女子高生を助けてくれたことを、評価して、あなたの冒険者ランクを引き上げることにします!わー!パチパチ!」


そう言って俺に紙を渡してきた。

どうやら表彰されたのか?


んで、紙面に目を落とすと、一部汚れていた。


「この黒いシミはなに?」

「醤油が飛び散っちゃった」


小学生かお前は。


「じゃあ、カード貸してー」


右手を差し出してくるギルマス。


「醤油零すなよ?」

「もう零さない!」


そう答えるギルマスは部屋にあった機械にピーッガーッと俺のカードを通す。


んで、出てきたそれを俺に返してきた。


「ランクアップおめでとう」


そう言ってきたギルマスの顔を見てからカードに目を戻すと


冒険者ランク:D


となっていた。


(初めてEから上がれたな……)


俺が足を悪くしたのは昇格試験の時だった。

昇格試験中に事故が起きて……。


んで俺は今


(10年越しのランクアップ、ってわけか)


そう考えると感慨深いものだ。


「どうしたの?」


俺の顔を見てくるギルマスに答える。


「いや、なんでもないよ」


そう答えて俺はスマホで時間を見た。


「もう夜の10時か」

「そうだよ!私もお腹減ってる!だからさっさと帰ってね!そろそろご飯なの!」


ギルマスがそう言った時。

コンコン。


部屋の扉がノックされて


「マスター。またデリバリーでご飯頼んだんですか?」


呆れたような顔をした職員が顔を見せて部屋を入ってすぐの所にあった台に袋を置いた。


「きたー!」


それを取りに行くギルマス。

歩きながら中身を取り出す。


(海鮮丼か)


机に持っていって早速醤油を開けていたけど。

ビリッ!


勢い余って醤油を撒き散らしていた。


なるほど賞状もこうやって汚されたらしい。


「うわぁぁぁ!!!!やばいー!!!!」


叫んでいるギルマスを横目に俺は部屋を出ていこうとすると下田が付き添ってくれる。


そんな下田に聞く。


「あんなんでギルドマスターが務まるんだな」

「あんなんでも俺たちよりランクも高いしな。Sランクだよ」


そう言われて思う。


「まさかだけど、Sランクってそんなに難しくないのでは?」

「さぁ?それはどうなんだろうな。目指すなら目指してみたら?何かを始めるのに遅すぎることはないって聞くし?」


下田にそう言われて思う。


もしかして、おっさんでもSランク狙えるんじゃないか?


ぐっ。

右手を握りしめて思う。


EランクからDランクには上がれた。


そんなふうにこれからも頑張れば


(Sランクまで、もしかしたら上がれるんじゃないか?)


小さかった子供の頃、夢を諦めていなかった頃、喉から手が出るほど欲しかったSランクの腕章。


あれを、俺は手に入れられるんじゃないか?


んで手に入れられれば。


(中々出回らない食材とかも手に入るかも!)


そう思うのだった。

まぁ、目指すとしてものんびりだけど、ね。


「リーナはどう思う?Sランク、なれると思う?」

「ピィッ!」

「やっぱりなれないと思う?」

「ピピン!」


返事が変わった。

なぁ、これ。

やっぱり言葉理解してるよなぁ?!


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