第13話 仲間!

俺と槙島はダンジョン内を更に歩いて今は4階層まで来ていた。


次の階層で一旦中継ポイントがあり、そこから地上に戻れる。


「いやぁ、すごいですね」


槙島が俺にそう言ってきた。


「なにが?」

「いえ、その冒険者じゃないって、言ってた割にはすごい手馴れてそうなのが」

「これでも昔は冒険者志望、だったからね。実力不足でなれなかったけど」


懐かしい話さ。

当時を思い出してフッと笑う。


下田、それから他の友達と一緒に冒険者パーティごっこをして遊んだものだ。

そのごっこ遊びはごっこ遊びで終わるわけなんだけどね。


下田は飛びぬけた才能がなくギルド職員、俺は街の飯屋。

冒険者は安泰、とは言うけどスタートラインにすら立てないやつもいるんだ。


「ちなみにですけど、冒険者になれなかったのには、なにか事情があるんですよね?」


呆気に取られた。

なんで分かるんだ。この子。


「ダンジョンビルの対処も完璧でした。それに」


スっ。

俺たちの歩いてきた道を振り返る槙島。


「歩いてきたところ、定期的に目印付けてますよね。ここまで真面目にできる人が冒険者になれない、となると。体の問題ですか?」

「そうだよ。足が悪いんだ」


そう答えて歩いていく。


そこで失言に気付いたらしい。


「聞かない方が良かった、ですよね」

「別に。自業自得だから、いいよ」


そう言いながら歩いていく。


すると、少しひらけた場所にたどり着いた。


「ボス戦かな」


4階層にはボス戦があった気がする。

そして、そこを超えると中継ポイントに入れて、そこで帰れるってわけだ。


「さてと、リーナ。先に罠の準備をしておこうか」


幸いまだボスの姿は見えない。

他の場所を巡回しているのかもしれない。

と、なると今ここで罠を用意して出てきた瞬間をタコ殴り。


それが正解だろう。

ボスが大体通る位置は決まっているのでそこに先回りするように罠を仕掛けていく。


卑怯?

弱い奴なりの戦い方、なのさ。


とりあえずじゃあ。


「落とし穴、だな」

「ピィ!」


腕をスコップみたいにするリーナ。

そのまま地面を掘っていく。


「ピィ!ピィ!」


それを見て槙島が口を開いた。


「この人さっきから腕がニュルニュル変わってるけど、何なんですか?魔法、ですか?」

「え?言ってなかったっけ?スライムだよ」



「えぇぇぇぇぇぇ?!!!!!」



ヒタッ。

ヒタッ。


待っているとここのボスが俺たちの待っているフロアに入ってきた。


「来たな。説明通り動いてくれ」


槙島達に指示を出すと頷く。

俺はボスを見た。


「サラマンダーだ。気をつけろよ、リーナ」

「ピィ!」


戦闘態勢を取ったリーナはサラマンダーから目をそらさない。

そして俺たちに気付いたサラマンダーは


「ギガァァァァァァ!!!!」


吠えてそのままドタドタと走ってくる。


狙いは俺たちの方。


「こっちにこい、トカゲ野郎」


挑発するように口にして俺はサラマンダーと自分の間に落とし穴が来るように立ち位置を変える。


願うことはひとつ。


(罠にかかれ!)


俺は弱い。

冒険者になれなかった男。


だからここでサラマンダーが罠にかかってくれなかったら、動き回るサラマンダーと戦わなくてはならない。


そうなれば勝てる気がしないのだ。

だから何がなんでも罠に。


そう思ったそのとき


「ギガッ?」


ピタッ。


罠の前で止まるサラマンダー。


(気付かれた?!)


チョン。

落とし穴のある場所を指で軽く押すサラマンダー。

ドサッ。


穴の上に置いてあった布が落ちる。


(おいおい、気付かれちまったよ)


そう思っていると。


「ギガッガッガッガッ」


笑うサラマンダー。

サラマンダーって笑えるんだ、とか思いながら次の作戦に移ろうとしたそのときだった。


タッ!

何かが走るような物音。


「ガルッ!」


それはサラマンダーの後ろから来ていたようで。


「お、お前」


俺は新たな存在の乱入に目を光らせていた。

そいつは


「ガルッ!」


ドカッ!

穴の前で固まっていたサラマンダーの背中をケリつけて。


「ギガッ?!」


落とし穴の中にサラマンダーを突き落とす。


「ガルゥ!」


俺たちに視線を向けてきて攻撃を叩き込め、と言いたいのだろう。


頷いて


「槙島。今だ」

「はい!先生!」


槙島はそのまま穴に近寄って


「ウォーターボール!」


水の玉を穴に向けて発射!

何度も何度も発射される水の玉。


「ギガッ!!!!」


それはサラマンダーの体に当たって……。


やがて、


「……」


サラマンダーは全身を濡らされてすっかり身動きが取れなくなる。

サラマンダーの弱点は水属性。


こうやって水属性の魔法を当て続けることで動きが鈍る。


そこに


「ピィ!」


リーナが追撃で斬撃を放とうとしたのを


「リーナ。それ以上はいい」


止める。


「ピィ?」


首を傾げて不思議そうに見てくるリーナだったけど。

俺はボス部屋の扉を指さす。


「もう扉が開いてる。それ以上殴る必要は無いだろう」


どうやら水攻めにされた時点でサラマンダーは負け判定になったようでボス部屋の扉が開いていたのだ。


「ピィ」


頷いて手を元に戻すリーナ。

それから俺は乱入者に目をやる。


「助けに来てくれたのか?」

「ガル」


ちょこんとその場に座るのは変異種のウルフだった。

元々ウルフは犬に近い性格らしいが。


まさか、恩返しにくるなんてな。


「ウルフの恩返しか?」

「ガル」


頷いた。

人の言葉が分かるのかどうかは知らないけど


「とにかく、助かったよ」


そう言って俺は横を通り抜けてボス部屋の扉に向かおうとしたが


グイッ。

俺の袖をウルフが引っ張った。


「なんだ?」

「ガルル」


前足の爪で地面を掘るウルフ。


なにかと思ったら。


「絵なのか?」


そこには汚いけど人型の姿、それからスライムの姿と。

ウルフの姿。


人型が俺でスライムがリーナだとして、ウルフは、こいつか?


「まさか連れて行け?ってことか?」


そう言いながら俺はアイテムポーチから首輪を取り出してみた。

すると


「ガル」


俺に頭を垂れてきた。

敵意は無い、ということだろう。


「とりあえず首輪はしておこう」


冒険者用のアイテムにテイム用の首輪があるのだ。

これはモンスターを仲間にするためのアイテム。


スライムはともかく、ウルフを仲間にするのなら必要だろう。


ガシャッ。

俺は首輪をウルフに着けた。


「ハッハッ」


嬉しそうに俺の周りを回るウルフ。

助けられたことに恩義を感じているのだろうか?


本当に犬みたいだな。

ワシャワシャ。

頭を撫でてみると


「クゥン」


ぺろぺろ。

俺の手を舐めてくる。


(かわえぇ……)


いや、やばいですわこれは。

ウルフかわええ。


スライムも可愛いけどウルフもかわいい!

っと、そんな暇じゃなかったな。


チラッ。

穴に落ちままのサラマンダーは動かないけどいつまた動き出すか分からない。


俺は槙島に目をやった。


「次の階層目指そっか。中継ポイントまで先に行っちゃおう」

「はい!」


元気よく答えた槙島を連れて俺はボス部屋の奥に進むのであった。

そして更に下に潜ると。中継ポイントまで来た。


そこには転移結晶と呼ばれる鉱石があって。


「使い方分かるよね?先に帰ってくれる?」

「はい」


槙島達はそう返事をして


「では、ギルドで会いましょう。待ってますから」


シュン!

転移していった。


それを見送って俺も転移結晶に手を当てると。


「クゥゥゥン!クゥゥゥゥン!!!」


ブンブンブン!

尻尾を左右に思いっきり振りながら俺にジャレてくるウルフ。


「ははっ。ちゃんと連れてくから落ち着けって」


そう言いながら俺も転移結晶を起動してこの場から転移することにした。

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